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名古屋の都心を車体の超長いバスが走った!新交通システム「SRT」試乗記

名古屋の都心を車体の超長いバスが走った!新交通システム「SRT」試乗記
SRT試験走行(連節バス)

日曜日の午後、名古屋の都心で休日を過ごしていた多くの人たちが思わずスマホを向けてそのバスを撮影していた。名古屋市の新しい交通システム「SRT」、そのテスト走行が秋晴れの空の下で行われた。実際に乗車した体験リポートである。

名古屋オリジナルの「SRT」

SRT(Smart Roadway Transit)は、名古屋市が計画している新しい公共交通システム。ひと言でいえば「専用レーンを走るバス」である。
名古屋市の計画書によれば、
「S」はスマート(Smart)。快適な乗り心地や洗練されたデザインなどのスマートさ。
「R」は路面(Roadway)。路面を走ることで街に回遊性や賑わいを生み出す。
「T」は通行(Transit)。今までにない新しい移動手段。
“スマートに道路を通行する”というネーミングで、実は「SRT」は名古屋市が独自に作ったオリジナルな名前なのである。

リニアが走る日の名古屋は?

名古屋市は、リニア中央新幹線の開業が予定される2027年に向けて、名古屋駅から栄までの都心を中心に導入をめざしている。この2つ地点を結ぶ「直結ルート」、そして名古屋城と大須を加えた「周遊ルート」、この2つを計画中だ。
名古屋駅から栄地区の都心は、現在どんどん開発が進んでいる。栄地区のテレビ塔周辺(久屋大通公園)は2020年9月に整備が完了、名古屋城は本丸御殿さらに木造天守閣計画もある。リニア開業に向けて名古屋駅の大きな再開発も進む。
今は新型コロナウイルスの影響で停滞しているものの、将来は名古屋を訪れる人たちの数はインバウンド(外国人観光客)含めて圧倒的に増える。そんな人たちに対して町を移動しやすいサービスを提供すると共に、同時に名古屋市民にもどんどん都心に出てきてほしいというのが、SRT計画の目的である。
その実現に向けて、実際にバスを走らせて様々な課題をチェックしようというのが、今回初めて行われた試験走行だった。

試験走行に2種類のバス登場

SRT試験走行(燃料電池バス)

2020年10月11日の日曜日午後。台風一過の秋空の下、試験走行は行われた。
名古屋市は今後新たなオリジナルなバスを開発することにしているが、テストに用意されたバスは2種類。2台の車体がつながった「連節バス」と電力で走る静けさが売り物の「燃料電池バス」である。
試験コースは名古屋駅を出発して、メインストリートの広小路通を東進、テレビ塔のある久屋大通をぐるりと回って再び広小路通を通って名古屋駅に戻るという、想定40分ほどの市中旅。取材のために「連節バス」に乗車した。「予想以上」だったこと、「予想通り」だったこと、それぞれを体験した。

車内は明るく広く快適

「予想以上」だったことは、車内の快適さである。
まず窓が大きい。このため車内はとても明るい上、外の風景が臨場感たっぷりに楽しむことができた。新型コロナ感染防止のため、取材用の席も一人分ゆったりとスペースがあったこともあるが、2台が内部でつながっているため、車内の広さも十分に感じることができた。
特にテレビ塔周辺を走行した時は、新装なった久屋大通公園で大勢の人たちが休日を楽しむ風景が目に飛び込んできて、午後の暖かい日差しの中、名古屋の町の魅力を再発見した思いだった。

日曜日の渋滞に巻き込まれた

「予想通り」だったことは、道路渋滞である。
片側2車線の広小路通、SRTは本来、歩道寄りに作られる専用レーンを走る想定なのだが、この日は真ん中寄りの第2車線を走行した。それでもバスは度々道路混雑のため停車を余儀なくされた。広小路通から久屋大通に入る付近では、前が詰まって1回の青信号ではまったく進めない場面もあった。結局、40分間の走行予定を15分ほど上回った。全長18メートルの長い車体が交差点をスムーズに曲がることができるのか、これも注目した点だったが、さすが名古屋の道路は広く、第2車線を走っていたこともあって、問題なく右左折ができていた。

名古屋名物「広い道路」との共生

予想通りだった「渋滞」こそが、今後の大きな課題になるであろう。
名古屋市には15年ほど前に「広小路ルネサンス構想」という再開発計画があった。昭和30年代、屋台が立ち並び“街ブラ”を楽しむ人たちでにぎわった時代を復活させようというもので、栄から伏見までの800メートルを片側2車線から1車線に縮小して、その分、歩道を拡げようと計画した。しかし結局は意見がまとまらずに実現に至らなかった。大きなハードルは、道路が狭くなってしまうことによる渋滞混雑への懸念だった。
戦後復興の中で名古屋には「広い道路」が生まれ、それが“売り物”でもある。SRTが走るレーンによって、車線がひとつ減るならば、車を利用する人が多い名古屋市のこと、都心は混雑するであろう。

まずは街づくりから一歩

「車から人が主役の空間への転換」・・・これは2011年の「なごや新交通戦略推進プラン」にある表現である。ならば、SRTの導入の前に、名古屋の街づくり、その将来の姿を市民にきちんと見せて、議論をしていくことが必要であろう。大きく舵を切るならば、都心に車を入れない「パークアンドライド」方式もひとつの手段だ。しかし、それが受け入れられるか否か、町は長い歴史を持つだけに、その姿を変えるには相当なパワーが必要である。SRT計画は路上の都市交通が発達しているフランスはじめ海外の都市も参考にしている。ヨーロッパの町々にも長い歴史がある。今回の試験走行を経て、さらに検討が続く。

この日の試験走行では、珍しい連節バスを見つけた人たちが歩道からスマホを向けて撮影する姿が多く見られた。インパクトは十分にあった。
試乗バスから見た名古屋都心の風景。丸栄百貨店や中日ビルなど大きな名物ビルは建て直しなどのため、現在は巨大なスペースとなっている。名古屋の町の姿は変わりつつある。そんな新しい町に、SRTがどんな姿でお目見えするのか。計画の行方を見守っていきたい。

【東西南北論説風(186) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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