勝負弱いドラゴンズを変えてくれ!根尾昂へ高まるファンの切実な願い
長く記憶に残るホームランになるだろう。根尾昂選手のプロ初ホームランとなる満塁弾を球場で目撃した複数の友人たちから、次々と携帯電話に興奮の報告が届いた。ゴールデンウィーク中のおだやかな日差しの午後、多くのドラゴンズファンに歓喜の時が訪れた。
記憶に残る満塁ホームラン
根尾昂という選手について、いつも脳裏に浮かぶホームランがあった。2018年夏の全国高校野球大会決勝で、金足農業高校のエース吉田輝星投手(現・北海道日本ハムファイターズ)からバックスクリーンに打ち込んだ特大ホームラン。大阪桐蔭高校の甲子園春夏連覇を決める鮮やかな一発だった。「バット一閃」とはまさにあの打撃のことを言うのだろう。中日ドラゴンズに入団して3年目、ファンのひとりとして“残像”を求めてきたが、ついにそれは塗り替えられた。2021年5月4日バンテリンドームでの横浜DeNAベイスターズ戦、1死満塁からの3球目をフルスイングした打球は、長い滞空時間でライトスタンドに飛び込んだ。新たな1ページが開かれた瞬間だった。
根尾昂のプレーと言葉の魅力
ドラゴンズファンは根尾選手が好きだ。ある人は孫のように、ある人は息子のように、そしてある人は弟のように、それぞれ見守っている。少しハラハラしながらも、熱く応援している。その理由が垣間見られたのは、満塁ホームランを打った“その後”だった。
大歓声の中、ホームインした根尾選手は両手をヒラヒラとさせて、先輩たちの激励に応えるお茶目な喜びポーズを見せた。試合後のヒーローインタビューでは、開口一番「やったーっていう感じでしたね」と素直に喜びを語った。そして極めつきが親への感謝の言葉だった。
「こうやってホームランを打てたのも、両親が産んでくれたおかげなので、両親にありがとうと伝えたいと思います」
プレーも仕草も言葉も魅力的なのである。テレビは全国ニュースで満塁弾と共に、インタビュー内容も報じた。ナゴヤ球場近くの実家に暮らす、筋金入り竜党88歳の私の父は、翌日に中日スポーツを買いに行ったが、すでに売り切れだったそうだ。
勢いに乗り切れないチーム
劇的な満塁ホームランだったが、いつまでも喜びに浸っているわけにはいかない。シーズンもほぼ4分の1となる36試合を過ぎたが、ドラゴンズはBクラスに低迷し、相変わらず波に乗り切れない。根尾満塁弾の余韻の中で迎えた翌日の試合も、凡プレーと拙攻で落とした。「あと1本」が出ない。時おり、4番ダヤン・ビシエド選手の一発や集中攻撃の場面もあるが、得点力不足はまったく解消されておらず、前年からも指摘されているチャンスに弱い体質は何も変わっていない。当たり前のプレーができず勝てる試合を落とし、ファンにとってイライラが募る日々が続いている。(成績は2021年5月10日現在)
ファン期待の「勝負強さ」
そんな中、根尾選手だけは打ち始めている。複数安打の試合も増えてきた。大きくフォームを崩す三振は次第に少なくなり、きっちりとバットを振りぬいて打っている。何より、ファンにとって頼もしいのは、打点がチームで2位ということだ。打率はまだまだ2割そこそこなのだが、根尾選手が常々語る「勝ちにつながる一打」を打てているということだろう。その勝負強さこそが、今のドラゴンズに欠けているものであり、応援する多くのドラゴンズファンが求めているものである。球団公式チャンネルで根尾選手の満塁ホームラン動画は記録的な再生数となった。そのスター性はやはり別格である。
今春の沖縄キャンプで、黙々と夜間練習をする根尾選手の姿に遭遇した。その横には1つ後輩の岡林勇希選手の姿もあった。甲子園で3度優勝した高校時代もチーム仲間を鼓舞し、勝利に導いてきた根尾昂選手。
どこの世界にも“組織を変える人材”が存在する。満塁ホームランで一気に輝いた21歳の若竜に願う。どうか周囲を巻き込みながらドラゴンズを力強いチームに変えてほしいと。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】