出産しても競技に復帰を 女性アスリートの産休・育休を支援する企業も
いま、公的機関・民間企業では女性が産休・育休を経て職場復帰することが一般化しつつありますが、スポーツの世界では女性のアスリートが出産・子育てを経て再びアスリートとして活躍した例はまだまだ少数です。女性アスリートの産休・育休はどうなっているのか、現状を取材しました。
「女性アスリートが当たり前に輝いてほしい」産休・育休制度を取り入れたチーム
三重県鈴鹿市に本拠地を置くハンドボール女子チーム、三重バイオレットアイリス。女性アスリートの産休・育休の現状について梶原GMに話を伺いました。
(三重バイオレットアイリス・梶原晃GM)
「一般企業では当然、産休・育休というものはあると思うのですけど、スポーツチームでは(産休・育休)はないのが現状ですね」
アスリートの活動形態は様々ですが、チームで活動している多くのアスリートはあくまでもアマチュアです。そのため、プロ契約のようにチームから給与は支払われていません。つまり、雇用関係にないので産休・育休という制度そのものがないのです。
(三重バイオレットアイリス・梶原晃GM)
「女性アスリートが当たり前に輝いてほしいと思いますし、女性だからできないとか、そういうクラブにしたくないという思いもあったので(産休・育休制度)を導入したということです」
チームの産休・育休制度とは、育児休業中にチームを離れても引退ではなく、選手登録したままでチームに在籍することができる仕組み。つまり、戻ってくる場所が確保されていることになります。
「10何年もやってきたことが出産でゼロ」再度イチから積み上げて復帰
一方、実際に出産を経てアスリートとして復帰した選手が名古屋にいます。女子サッカーの朝日インテック・ラブリッジ名古屋に所属する川尻真由選手は現在、子育てしながらアスリートとして活動しています。
川尻選手は2018年、当時所属していたチーム在籍中に妊娠・出産。一度は引退という形でチームを離脱しましたが家族の後押しが決め手となり、今のチームで復帰を果たしました。ただし、復帰の道のりは簡単なものではありませんでした。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「骨盤が開いてしまっていて、そこを締めないと体幹も戻ってこないし。6歳からサッカーを始めたのですが、6歳から10何年もやってきたことが出産を機にホントにゼロ。フラットに戻ったので、それをまたイチから積み上げるのが大変でした」
出産で落ちた体力を戻すため、1日300回の腹筋や基本的な体幹トレーニングをしたといいます。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「結局ちゃんと動けるようになるのに1年くらいかかりましたね。(記者:1年、長いですね)そうですね、もともと1年半は普通にサッカーもしないで育児をしていたので、そこからの復帰で、妊娠・出産を含めて3年ぐらいブランクがあったので本当に大変でした」
「どれだけ疲れていても子どもとの時間を」アスリートと仕事・子育てをこなす毎日
アスリートとして活動する一方で仕事、子育てを行う川尻選手は1日をどのように過ごしているのでしょうか。チームの練習が8時30分から始まるので、お子さんの面倒は家族がサポート。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「いつも朝とかもサッカーでいなくなるから『サッカー行かないで』って言われて。ごめんと思いながら」
12時に練習が終了すると、職場のある北名古屋市へ。仕事は、幼稚園で園児の運動補助をしています。夕方まで仕事をしてから、保育園に預けていたお子さんとようやく遊ぶ時間がやってきます。その頃にはもう日も沈んで辺りは真っ暗。でもこの時間を楽しみに待っていたお子さんと、時には2時間以上も散歩を楽しみます。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「ゆうくん(息子)が笑っている姿を見るとうれしいので、どれだけ疲れていようが散歩とかスキンシップをとっていきたいと思いました」
自ら望んだ復帰ですが、アスリートとしてハードな練習の傍ら仕事と子育ても両立しなければなりません。もちろん、家族のサポートも重要ですがチームのサポートも必要と言います。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「託児所とかあったら安心します。子どもも連れてこられるし、自分がサッカーしている姿も見せられると思います」
「復帰を希望する選手を個々にサポートしたい」動き始めた復帰支援の取り組み
また、川尻選手が所属するチームも結婚・出産してもサッカーを続けられるというメッセージを発信していきたいといいます。
(ラブリッジ名古屋・広報・南部えみ梨さん)
「復帰に向けてのプログラムをそれぞれ相談しながら、活動できる環境をサポートしたり、栄養士を付けたり、トレーナーを付けるなどサポートしていきたい」
個々の選手の事情に合わせた活動環境の整備をはじめ、トレーナーや栄養士のサポートなど復帰に向けた様々な支援に取り組み始めています。川尻選手は貴重なモデルケースとなるだけでなく、自身の妊娠出産の経験を生かして女性アスリートの妊娠出産をサポートする仕事がしたいと考えています。
(ラブリッジ名古屋・川尻真由選手)
「出産されている方はみんなわかると思いますが、ボロボロになるんですよ。そこをサポートするというのがあまりない。競技復帰したい選手をサポートする仕事をしたいと思う」
今後、より多くの女性アスリートが生き生きとした選手生活とライフプランを両立しやすくなるためのサポートはまだ始まったばかりです。
CBCテレビ「チャント!」12月1日放送より