他人と目が合わせられない…視線恐怖症のプロボクサー「チャンピオンになって母親を支えたい」

2022年7月20日(水)放送
他人と目が合わせられない…視線恐怖症のプロボクサー「チャンピオンになって母親を支えたい」

他人の視線が怖くて相手の目を見られない「視線恐怖症(社交不安障害)」と呼ばれる精神疾患がある愛知県在住の小川椋也さん(23歳)。そんな小川さんが唯一、人の目を恐れずにいられる場所が、ボクシングのリングの上でした。「ひきこもり」など様々な苦難を乗り越え、プロテストに合格した現役のプロボクサーに密着しました。

アルバイト先での人間関係が原因で視線恐怖症に…その後ひきこもりに

愛知県一宮市の小川椋也(23歳)さんは人と話す際、少し相手を見てはすぐに目をそらします。

他人の視線が怖くて、相手の目を見られない「視線恐怖症」と呼ばれる精神疾患があります。

「視線恐怖症」とは、他人との関係が怖くなる「社交不安障害」という精神疾患の症状の一つです。

(小川椋也さん)
「目とか自分の視線が、相手に不審がられるんじゃないかとか…自分の目がおかしいんじゃないかとか…」

5年前、アルバイトでの人間関係が元で視線恐怖症になり、その後、家から出られなくなって一時はひきこもりの状態になりました。

(小川椋也さん)
「もうとにかく、苦しかったですね。どうすればいいんだって。人生が一変しちゃったので、そうなった自分に耐えられない」

そんな小川さんが唯一、人の目を恐れずにいられる場所が、ボクシングジムのリングの上でした。

ひきこもりを乗り越えてプロボクサーに!リングの上だけは視線も気にならず

実は小川さんは、現役のプロボクサー。

元々、テレビでボクシングを見るのが好きで、引きこもりの間に自宅で試しに始めてみたのがきっかけでした。

グローブ越しに相手を見ると怖くないことに気付き、更に打ち込むように。2021年プロテストに合格。

その3か月後には、デビュー戦をKOで飾りました!

今は、2022年9月に大阪で行われるプロ第2戦に向け、練習の日々。お世話になっているジムの会長も小川さんを励まします。

(小川椋也さん)
「リングに上がると、(視線が)気にならなくなる。一対一でボクシングやる感じで、これは不思議なんですけど、なぜかリングだけは大丈夫」

ボクシングが視線恐怖症の治療に?認知行動療法とは

視線恐怖症について専門家は…

(名古屋大学病院・精神科・徳倉達也医師)
「自分以外の人からは、なかなか分かりづらい病気だと思います。恐らく周りが見ているよりも本人の苦痛はとても強い病気だと思います」

治療には、薬を飲むか意識的に他人と関わる事で自分を慣れさせる「認知行動療法」という方法がありますが、徳倉医師は小川さんにとってボクシングが、この認知行動療法になっているのではと指摘します。

(名古屋大学病院・精神科・徳倉達也医師)
「(ボクシングは)生命の危険の状態に近いことだと思います。自分の体調を過度に気にする余裕がなくなってより相手に意識が向く」

人の目線に向き合うボクシングは、強烈な行動療法になっている可能性があるということです。

「サングラスをかければ落ち着く」 視線恐怖症の患者の日常生活とは

日常生活では、今も社会に溶け込めないつらさを抱えている小川さん。

毎日続けているアルバイトも人と会わなくて済む新聞配達。週2で行っているマンションの清掃員のアルバイトも人と話す必要がないため続いています。

(小川椋也さん)
「たまに住人と会う時が緊張する。挨拶がこわいけど、わりと1人でできる」

買い物の際に欠かせないのがサングラス。

(小川椋也さん)
「うすいサングラスをかければ、精神的に落ち着く」

短時間で済ませるため、最初に入口すぐの野菜売り場を目指しますが、人がいたため方向転換。

大回りをして売り場に行き、もやしを買い物籠の中へ入れます。会計時にも、人がレジから離れるまでウロウロしながら様子を伺ってしまいます。

夢はチャンピオン!女で一つで育ててくれた母親のために…

中学までは明るくて活発でした。しかし高校2年の時、クラスになじめず学校を中退。

アルバイト生活を送るようになり、その頃「視線恐怖症」を発症しました。

(小川椋也さん)
「ちゃんとした真っすぐな道ではなかった。高校も辞めているし。昼間からみんなは高校行っているのに自分はバイトしていて…。自分だけなんでこんなことしているんだろうという思いもあって」

それでも小川さんには、どうしても前を向いて進みたい理由がありました。それは、母親の愛子さんの存在です。

離婚後、女手一つで兄と自分を育てるため、週5日パートで働きづめになりながら学校の行事も誕生日の祝いも欠かさず大切にしてくれました。

自分がボクシングでチャンピオンになって今度は母親を支えたい。それが小川さんの夢です。

(母親・愛子さん)
「(ひきこもりが)何十年って続いたら、どうしようかなと。この子の人生もずっとそのままじゃ、いやだろうなって思って。よかったね、目標が見つかって」

人と目を合わせないよう、伏し目がちで歩く小川さんですが。

(小川椋也さん)
「病気になってからつらい毎日だけど、ボクシングでもしかしたら、このつらいって嘆いている生活から一気に逆転できるんじゃないかって思って」                                   

いつの日か、文字通り前を向いて歩けるようになりたい。その思いを抱えて、今日も、リングに上がります。

CBCテレビ「チャント!」7月20日放送より

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