ドラゴンズ選手会「合同自主トレ」廃止で問われる真のプロ意識

ドラゴンズ選手会「合同自主トレ」廃止で問われる真のプロ意識

かつて内部統制について学んだ時に、ある企業の内部監査人が講義の場で語った言葉が忘れられない。
社会では一般的に「性善説」と「性悪説」が2つが言われるが、もうひとつその中間に「性弱説」があるのだと講師は語った。人間はもともと弱いもの、つい「弱さ」が出て、仕事の手を抜いたり、出来心から良くないことに手を出してしまったりもする。それを防ぐために、組織としてそれをチェックする「内部統制」というシステムが必要なのだと。

選手会の思い切った決断

中日ドラゴンズ選手会が、年明けにナゴヤ球場で行ってきた恒例の「合同自主トレ」を廃止した。選手それぞれの自主性を尊重することが狙いだと言う。毎年1月中旬、新しい背番号のゼッケンを付けたルーキーたちを先頭にナインがランニングする“風物詩”的なトレーニング風景も、2020年は見ることができない。
「合同自主トレ」と名乗りながらも、監督やコーチが遠巻きにそれを見てチェックするなど、義務的な部分も多かったのは事実である。手は抜けない。またキャッチボールやノックでも相手が必要だし、それも解体したことは、ドラゴンズ選手会にとっては思い切った決断だと言える。

落合博満さんが語ったことは?

この年末年始に『レジェンドの目撃者 三冠王 落合博満』という番組がNHK-BS1で放送された。“目撃者”の証言から、三冠王を3度取った「落合博満」という偉大なバッターの打撃術に迫ろうというもので、現役時代に阪急ブレーブス(現オリックス・バファローズ)エースとして対戦相手だった山田久志さんやロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)の打撃投手だった立野清広さんらが“目撃者として”語った。僭越ながら筆者も、ドラゴンズに移籍当時の担当記者としてお声がかかり“目撃者”のひとりとして番組に参加したのだが、落合さん本人が各証言を受けてスタジオで語る中、その「落合語録」にこれまであまり明かされてこなかったことが披露されて驚いた。

三冠王が明かした「練習」の心得

それは現役時代の練習についてである。ホームベースを跨ぐように立って、真正面から飛んで来るボールを打つ「正面打ち」という独特な方法の話題からの流れで、落合さんは練習というものについて、こう断言した。
「練習は人前でやるもんじゃない」
続いて落合さんが明かした練習方法は、私も初めて聞くものだった。
室内から全員を締め出して、マシンにボールを入れる人とカメラマンの2人だけ残す。そこにパンツ一丁の落合選手が立ち、ボールを打ちながら、自分の身体がボールに対してどのような向きをするのかを撮影してもらって確認したという。自宅にはそれを撮影したテープが何千本もあったことまで明かした。
「映像?今も持っているよ」
そして、春季キャンプについてこう断言した。
「キャンプは、人がいなくなってから、また宿舎に帰ってから何をするかが勝負だ」。

結果がすべての厳しい世界

合同自主トレが廃止された2020年。ドラゴンズの選手たちは、ナゴヤ球場で、国内各地で、そして海外で、それぞれが始動した。ひとりで黙々と調整する選手もいれば、チーム内の気心知れた先輩後輩で汗を流す選手もいる。また他球団の選手と一緒にトレーニングをする姿もある。
合同自主トレという“枠”がなくなった今、すべての評価は調整の“結果”で判断される。プロなのだから当然と言えば当然。特に2020年ドラゴンズは目立った即戦力選手の補強がなかっただけに、長く続くBクラス脱出へ、現有戦力がどこまで力をアップするのかが厳しく問われるシーズンになる。2月1日キャンプインと共に、合同自主トレなき個別練習の成果が明らかになる。

「人間はもともと弱いもの」という「性弱説」と、「人が見ていないところで何をするかが勝負」と淡々と語る三冠王・落合さんの「語録」。この2つを噛みしめながら、近づいてくる沖縄での竜のキャンプイン初日を静かに待つ新年である。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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