プロ野球開幕延期の春~新型コロナウイルスに打ち勝てドラゴンズ

プロ野球開幕延期の春~新型コロナウイルスに打ち勝てドラゴンズ

2020年のプロ野球ペナントレース、開幕の延期が決まった。2年目を迎えた与田ドラゴンズも新型コロナウイルス感染拡大による混迷の渦中にいる。野球界全体が直面している危機ではあるが、地元球団のドラゴンズを中心に筆を進めることをご了承いただきたい。

野手全員素振りの衝撃

「サンデードラゴンズ」より沖縄キャンプ打ち上げの様子©CBCテレビ

それは驚くべき風景だった。
2020年3月7日、静岡市の草薙球場。東北楽天ゴールデンイーグルスとのオープン戦を終えた後、ドラゴンズナインが三塁側ベンチ前で一斉に素振り練習に汗を流した。レギュラー含めて野手全員である。このゲーム、先頭打者の大島洋平選手は4安打とひとり気を吐いたものの、終わってみればチーム全体9安打で1得点。昨シーズン、リーグ1位のチーム打率ながら総得点はリーグ5位、結果27試合もの1点差負けに涙した“チャンスに弱い打線”が依然として目の前にあった。
翌朝の中日スポーツ紙で素振り練習の写真を見た瞬間、ファンとして大いにショックを受けた。ビジターのため、練習場がないという事情はあったであろう。しかし、戦いに明け暮れるシーズン途中ならまだしも、沖縄での春季キャンプを打ち上げてから、まだ10日しか経っていないのだ。なかなか調子が上がらずマンツーマン特訓を受ける主力打者もいたと聞く。あえて問いかけたい。「1か月間の沖縄キャンプできっちり練習してきたのでは?」

低迷するオープン戦の竜

オープン戦のドラゴンズは、今のところ正直あまりいいところがない。新たな若手戦力が思うように台頭してこなかったこともある。沖縄の北谷球場でのオープン戦初戦、スターティングメンバーは昨季の中心選手とまったく変わらない顔ぶれだった。その際の先発投手だったエンニー・ロメロ投手は、その後の試合で肩を痛めて前半戦は絶望と見られる。
一転して若手主体でオーダーを組んだ3月3日の埼玉西武ライオンズ戦はわずか3安打の完封負け。レギュラー選手を脅かす存在がいない現実を見せつける結果となった。
開幕投手に決まっている大野雄大投手は登板した3試合すべてに失点している。打線も投手陣も、特筆すべきことがなきままにオープン戦が経過している。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため声援なき「無観客試合」が続くだけに、その寂寥感はますます目立つ。
オープン戦は本番への調整の場なのかもしれないが、前年5位のチームには“勝つ”ことが求められる。“勝ちぐせ”をつけること、そして“勝ち方”をチーム内に沁み込ませることが必要に思う。そんなシーズン開幕が目前に迫っていた中での今回の開幕延期決定だった。

東日本大震災のシーズンは?

プロ野球の開幕が延期されるのは、今から9年前、2011年の東日本大震災以来である。当時3月25日に予定されていた開幕戦は、セ、パ両リーグ共に4月12日に延期された。
前年度のチャンピオンチームであったドラゴンズの開幕投手はマキシモ・ネルソン。試合結果はリリーフの浅尾拓也投手が打たれてサヨナラ負けを喫した。球団初の連覇をめざすシーズンでファンとしても気合いを入れて開幕戦を応援していただけに、残念だった記憶が蘇る。
原子力発電所の停止による電力不足で、ナイターが自粛されたり、9回を終えて試合時間が3時間30分を越えたら新しいイニングに入らないというルールができたり、選手もファンも落ち着かなかったシーズンを過ごした。それでも144試合(当時)はすべて消化できて、クライマックスシリーズや日本シリーズも日程こそ遅れたが実施された。そしてドラゴンズは落合博満監督の下、球団悲願のリーグ連覇を初めて成し遂げた。

石川昂弥へ与えられた時間

「サンデードラゴンズ」より石川昂弥選手©CBCテレビ

ウイルスという目に見えない敵との戦いの中、開幕延期という悲しい現実の中で、ドラゴンズファンが一筋の光を見出すならば、ドラフト1位入団の石川昂弥選手である。春季キャンプ中に左肩を痛めた期待のルーキーがいよいよ本格的に打撃練習を再開した。けががなければキャンプ後半にも1軍合流かとも見られていただけに、開幕延期によって生まれた時間は、石川選手のためにあるのかもしれない。
早くから「開幕1軍」を目標と掲げていた石川選手。本人ももちろんだが、昨季までとあまり変わらない打線をここまで見続けているファンにとっても、4月に向けてのこの時間を有意義に使って、夢の「開幕1軍」に向かって加速してほしい。
そしてチームも、本来ならばあり得なかったはずの“待ち時間”を有意義に使って、スローガン「昇竜復活」へ向かう態勢を整えてほしい。

ボールの縫い目「108」への祈り

CBCテレビ:画像『写真AC』より野球ボール

プロ野球オープン戦と同じように無観客で開催に踏み切った大相撲春場所。
初日の協会挨拶で八角理事長の言葉が心に残った。
「古来から力士の四股は邪悪なものを土の下に押し込む力があると言われてきた」
野球に投影して思い出したのは、昭和時代の人気野球漫画『巨人の星』で主人公・星飛雄馬の父・一徹の言葉である。野球のボールの縫い目の数が、煩悩を祓うといわれる「除夜の鐘」の数と同じ108個ということを例に出して、讀賣ジャイアンツのエースをめざす息子への思いを語るのだ。
「すべての悩みをこの白球に込めて、自分の力で乗り越えてくれ!」
ドラゴンズだけでなく、プロ野球12球団すべてにとっての試練の春。球界が一致団結して何としても乗り越えてほしい。ファン満員のスタジアムに白球が行き交う日に向かって。

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】


※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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