★ビートルズが世界を変えた7つの偉業(No.2)歌詞の常識を変えた二十歳代の感性
2020年は、ジョン・レノン生誕80年&没後40年。アルバム『Let It Be』発売50年の年でした。2022年は、ビートルズ・デビュー60年・・・を迎えようとしています。
2021年・・・改めて今、1960年代の音楽、カルチャー、社会の既成概念に果敢にチャレンジし、自由にふるまい、大人たちの常識を変えていった、ビートルズのさまざまな偉業について、記憶をたどり整理してみたいと思います。
ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター・・・いずれも未来を変革する大きなエネルギーを内に秘めた非凡で魅力的な若者たち。4人のチームワークと強烈な個性の化学反応によって、世界はどう変わったのでしょうか?
ポールは25歳で“高齢社会”の歌を書いていた!?
ビートルズは、1962年に「Love Me Do」でレコード・デビューして以来、1969年に4人そろって最後に録音したアルバム「Abbey Road」までの7年間に、全部で213曲の作品を残しました。ビートルズの4人は、みんな1940年代の生まれですから、グループとして活動していた1960年代の7年間、4人は二十歳代の若者でした。二十歳代の頃、私は、当時どんなことを考え、どんな言葉で家族や友人と、どんな話をしていただろうか?ビートルズが生み出した213曲の中には、私が二十歳代だった頃には全く想いもしなかった発想と深い思索に驚かされる歌が数多くあります。
あの歴史的名盤「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts ClubBand」の中にある「When I’m Sixty four」。“ぼくが64歳になっても、誕生日やバレンタインに贈り物を贈ってくれるかな?庭に花の種を植えたり、暖炉の前で編み物したり、楽しく暮らし続けていられるかな?”という内容です。高齢になっても、いつまでも二人で楽しい人生を続けられたら幸せだね・・・と歌っているんですね。これは、まさに「高齢社会」の夫婦を描いた歌だと言えませんか?ポールがこの詩を書いたのは、1967年、25歳の時です。この時すでに、将来の超高齢社会の到来を見据えた歌を作っていたのです!64歳になったらどんな人生を生きているのだろうか・・・25歳のポールは、およそ40年先の未来に想像力を膨らませます。そして、大人のムードが漂うオールド・ジャズ・テイストのメロディーに乗せて、穏やかで幸せな老夫婦の暮らしを明るく歌って見せたのです。時空を超えて広がるイマジネーションと豊かな感性・・・ポールの非凡な才能がうかがえます。そのポールは今、とっくに64歳を過ぎ、2021年に79歳を迎えます。今も現役で、コンサートやニューアルバムの発表など溌剌と活躍中。まさに「健康寿命」を第一線で体現する「超高齢社会」のヒーローです。
ジョンが24歳で書いたメッセージ・ソング
おとぎ話のような荒唐無稽なストーリーの中で活躍するビートルズの4人の姿を、コミカルなタッチで描いた映画「Help!」。ビートルズ2本目の主演映画でした。そのタイトル・ソングを書いたのが、24歳のジョンでした。映画は軽妙で楽しい内容でしたが、それとは対照的に、ジョンが書いた「Help!」の歌詞には、哲学的な語彙が使われ、二十歳代の若者が書いたとは思えないような、むしろ壮年期を迎えた男が人生を振り返って語る深いメッセージが綴られています。ジョン自身もインタビューで「“Help!”は、ぼくが書いた最初のメッセージ・ソングだった」と語っています。(「ビートルズ/レコーディング・セッション」シンコーミュージック)
「・・・私が若かった頃は、何でも一人でできたし、誰の助けも必要とは思わなかった。でも、長い日々が過ぎ去った今、私は考えを変えた。独りよがりでは良くないし、もっと心の扉を開いて、素直に“助けて!”と言うべきだと。私の自立心は、今や、朦朧とした霧の中へ消失してしまった・・・」(Help!)
中でも「私の自立心は、今や朦朧とした霧の中へ消失してしまった」という部分のジョンの原語の歌詞は「My independence seems to Vanish in the haze」となっていて、英語を母国語とする人によると、“Vanish ”という単語は硬い表現で、“消える”というのであれば、普通だったら“Disappear”や“Fade”という言葉が浮かんでくるところ。“My independence”という言い方も、ポップス音楽の歌詞としては、当時あまり使われたことがない表現で、「My independence seems to Vanish in the haze」という歌詞からは、文学的な響きを感じるというのです。「Help!」が1965年に発表されたとき、当時のポップス音楽の歌詞の常識を越える個性的な語彙を駆使して語りかけるジョンの深いメッセージ・・・年を重ねた男が人生を振り返って述懐するような哲学的なストーリーに、多くの人が驚かされたのです。
24歳のジョージが歌った哲学瞑想の世界
ビートルズのレコーディング・プロデューサーだったジョージ・マーティンは、ビートルズと共同作業で音楽を創造していったプロセスを「メイキング・オブ・サージェント・ペパー」(キネマ旬報社)という本に書き残しています。その中で、ジョージがインド音楽を取り入れて書き上げた「Within You Without You」についての興味深い記述があります。
「<ウィズィン・ユー・ウィズアウト・ユー>にはインド人のミュージシャンが必要だった。ジョンやポールが思いつくようなものとはまるで違っていた」「ジョージがその歌を魅惑的なものにしたがっているのはわかった」
ジョージは曲が完成したとき、アコースティック・ギターを弾いて、プロデューサーのジョージ・マーティンに歌って聴かせたそうです。この時のことをジョージ・マーティンは、こう記しています。
「歌詞は形而上学派と呼ばれる詩に近いところがあった。人生の内なる意味、といったようなことだ」。
当時24歳のジョージが書いた哲学の歌の内容とは?
・・・すべての人間を隔てる空間について、我々は話していたのだ。幻影の壁の裏側に身を隠そうとする者たちに、真実は見えない。そして、命絶えたときには、もう遅いのだ・・・すべての可能性はあなたの内にあるのだと認識しなさい。あなたを変えることができるのは、他の誰でもない、あなた自身の力なのだ。あなたは、小さな存在にすぎないかもしれない。しかし、あなたには、溢れ出る命の輝きが見えるはずだ・・・あなたの中にも、あなたの外にも。
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彼らが二十歳代に書いた歌は、当時のポピュラー・ソングの歌詞の常識を覆し、その後の多くのミュージシャンたちの曲作りにも大きな影響を与えました。ビートルズの並外れた感性と創造力に驚嘆するほかありません!