「失言」オンパレードの春に泣く
ことわざに言う「口は災いのもと」。
最新の『広辞苑(第七版)』では「うっかり吐いた言葉から禍(わざわい)を招くことがあるから、言葉は慎むべきであるという戒め」とあるが、不用意かあるいは実は確信的なのかはともかく、言葉の重さを痛感させられる日々が続いている。
2018年に入ってからも心にひっかかる言葉が本当に多い。
「何人死んだんだ」・・・1月25日の衆議院本会議での内閣府副大臣のヤジである。沖縄県で続いている米軍ヘリコプターのトラブルについての代表質問中に飛んだものだが、その後、この副大臣は責任をとって辞任した。
「インフルエンザも流行っているので罹患するという手もある」・・・1月31日の参議院予算委員会で質問に立った自民党議員の発言。平昌冬季五輪の開会式に安倍晋三首相が出席することについて「首相を見ていると本当は行きたくないと感じる」と感想を述べた上で、冒頭の言葉が続いた。小学生の頃から「学校へ行きたくない時でも仮病だけはダメ」と教えられてきた記憶がよみがえった。
「安倍政権をおとしめるために意図的に変な答弁をしているのか」・・・森友文書改ざん問題をめぐっての3月19日参議院予算委員会、財務省の理財局長に対する自民党議員の質問である。冷静な答弁をしていた理財局長も気色ばんで「それはいくら何でも」と3回も同じ言葉をくり返して否定した。質問に対しては自民党内からも批判が出て、発言は議事録から削除された。麻生太郎財務相も「レベルの低い質問」とばっさり斬った。
「森友の方がTPP11より重大だと考えているのが日本の新聞のレベル」・・・その麻生財務相がその10日後の3月29日、参議院財政金融委員会で発言した。その後、野党などからも追及を受けて記者会見で陳謝した。
「何なら皆さんの会社に是正勧告をしてもいい」・・・今国会の大きなテーマ「働き方改革」で注目される厚生労働省、その東京労働局長が3月30日の定例記者会見で報道各社の記者に対して発言した。その後「不適切な発言であり謝罪して撤回する」と本人はコメントを出したが、厚生労働相は処分を示唆している。
「原爆落ちろ、カープ」・・・プロ野球ペナントレースの開幕カード、広島マツダスタジアムで行なわれた3月31日の広島vs中日戦。中日側の応援席でのヤジである。ツイッターにその動画が投稿された。何もコメントする必要もないほどひどい言葉である。批判を受けて当の本人もツイッター上で謝罪したと聞くが、それに続く本拠地ナゴヤードームでの讀賣との3連戦。「誹謗中傷の声援はしないように」との場内放送を観客席で聞きながら、プロ野球観戦もわざわざこんな注意喚起をしなければならない時代が来たのかと暗澹たる気持ちになった。
「女性の方は土俵から下りて下さい」・・・京都府舞鶴市での春巡業で場内に放送された。土俵の上で突然倒れた市長を手当てするために、土俵に駆け上がった女性たちに対しての放送だが、命に勝るものに何があるのか?と批判殺到。日本相撲協会の八角理事長も
すみやかにお詫びのコメントを出した。この問題によって、土俵に女性を上げるか上げないかという伝統論が沸騰することには賛否両論あるが、「人命第一」は誰もが認める明解な言葉であろう。
国会議員の発言を中心に、多くの「失言」は記録などから取り消される措置が取られる。
しかし、口に出した言葉は聞いた人々の心に残る。ましてその内容によっては、「残る」どころか「刺さる」のである。
「覆水盆に返らず」ということわざは、もともとは夫婦の離縁と再婚をめぐる故事だが、
『広辞苑(第七版)』はこう解説する・・・「転じて、一度してしまったことは取り返しがつかないことにいう」。言葉は大切に使っていきたいと自戒したい。
「失言」ばかりを取り上げてきた当コラムの最後に口直しの言葉を・・・。
米メジャーリーグで「二刀流」の春風を巻き起こしている大谷翔平選手。打者としての3試合連続ホームランに続いて、投手として12奪三振で見事2勝目をあげた後の言葉・・・
「相手も自分のことを理解していない状態。今はいいほうに転がっていると思うけれど、それが難しくなったときに、その壁を破れるように準備したいと思う」
23歳の爽快な笑顔と謙虚な言葉で、「失言」オンパレードの春もそろそろ終わりにしたい。
【東西南北論説風(39) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】