後編|「助け合える会社」でありたい。妊活と仕事を支える企業のリアル
20代から30代へとキャリアを重ね、徐々に責任ある仕事を任されるようになった女性にとって、妊娠や出産はキャリアやライフプランに大きく影響するテーマです。
「男性も女性も心身ともに健やかに働き続けられる職場をつくりたい」
そんな思いから、不妊治療と仕事の両立を支える制度づくりに取り組む企業を取材しました。
女性の不妊治療と仕事の両立

「隣の女性」のリアルな本音を伝え、「今」を生きる女性たちを応援したい――。そんな思いからCBCテレビが立ち上げたのが、「me:tone編集部」です。
前編の記事では、産婦人科医の丸田医師(まるたARTクリニック院長)が語った、妊活や不妊治療の正しい知識を解説。大切なのは「正しい情報に触れて自分の状況をしっかり知ること」「女性だけではなく男性も会社自体も正しい知識を学んで理解し、休みなど仕事の調整をしやすい制度を整えること。」だと伝えてくれました。
後編の記事では、豊通ヒューマンリソースが実施している制度や、企業として健康課題に向き合う必要性について大川久志社長に直接話を伺いました。

丸田医師は、実際に携わった不妊治療の一例を紹介されました。
その女性は一流大学を卒業し、一流企業に就職。いわゆる“バリキャリ女性”でした。31歳で結婚し、その後もキャリアを積み重ね、気づけば40歳。「そろそろ妊活を」と考え手クリニックを訪れた時に、自分の身体の状態を初めて知ったそうです。
キャリアを手放してでも赤ちゃんが欲しいと決意し、不妊治療に専念。しかし、複数回の流産を経験し、出産には至りませんでした。
不妊治療をしても妊娠が確約されるわけではありません。
多額の費用と時間をかけても、結果が見えない不安と向き合い続ける女性は少なくありません。
「もっと早く正しい知識を知っていれば」と口にする人も多いといいます。
さらに、通院のために仕事を調整する負担も大きく、約4割の女性が退職を選択しているという現実があります。女性だけがキャリアを諦める構造は健全ではない。男性も企業も社会全体で理解し、制度を整える必要があると丸田医師は訴えました。

企業ができることは、「制度」と「職場の雰囲気」
不妊治療と仕事の両立を当事者だけの努力に委ねないためには、企業の理解が不可欠です。
豊通ヒューマンリソースでは、従来の「生理休暇」を改定し、「ヘルスケア休暇」として再設計。不妊治療とPMSも対象に含めました。
この制度は、男女問わず年間13日まで取得可能で、申請時に“不妊治療連絡カード”等の提出を求めないという配慮がなされています。制度改定後、利用する社員も徐々に増えているそうです。
さらに制度を使いやすくするため、今回のようなセミナーを開催。当事者だけでなく、周囲の理解を深める機会を設けています。不妊治療の内容を詮索するのではなく、「仕事の負担は大丈夫?」と声をかける。その姿勢が大切だと丸田医師も話しました。実はセミナー実施にあたっては、社内で制度設計や周知のあり方についても時間をかけ、多くの議論が重ねられたそうです。当事者にとって本当に良いことなのか、テーマの性質上、受け止め方が一様ではないこともあり、慎重に検討したうえで開催に至りました。セミナーの開催実現までにおよそ1年。社内での対話を重ねながら、少しずつ形にしていったといいます。こうした一つひとつの配慮が、安心して働ける環境づくりにつながっています。

豊通ヒューマンリソース 大川社長インタビュー
セミナーの熱量が残るなか豊通ヒューマンリソース社長である大川 久志氏にお話を伺いました。不妊治療や性別特有の健康課題は、当事者にとっては切実でありながら、職場では話しにくさも残りやすいテーマです。それでも同社が制度を整え、学ぶ機会を重ねる背景にはどんな考えがあるのか、社長の言葉でうかがいました。

me:tone編集部:「不妊治療や性別特有の健康課題に企業として取り組む背景には、どのようなお考えがあるのでしょうか。」
大川社長:「当社では『ワークインライフ』という考え方で、人生の中で仕事をどう位置づけるかを大切にしています。」
人生が整ってこそ仕事も充実する。
健康課題を抱える人も活躍できる支援を行うことは、企業としての社会的責任だと話します。
もう一つの理由は、少子高齢化による人材不足。
「健康課題を含め、社員とその家族が生き生きと過ごせることは、企業にとっても合理的でハッピーなことです。」と大川社長は言います。
me:tone編集部:「経営者として、このテーマに向き合う意義をどう感じていますか。」
大川社長:「会社は“選ばれる存在”でなければなりません。健康課題に向き合える会社が増えていく中で、私たちも選んでもらえる会社でありたいと思っています。」
豊通ヒューマンリソースでは、日頃から各自の専門分野以外の事もそれぞれから学ぶ姿勢を大切にしているそうです。今回の「不妊治療」のセミナーに関しても、このように学ぶ機会があることで「当社にいるからこそ新しい情報に触れられた」と思える場にしていきたいと話しました。

me:tone編集部:「休暇取得によって周囲の負担が増える懸念もあります。」
大川社長:「グループ内では、負担が増えた人にインセンティブを支払う案もあります。ただ、それよりもまず“助け合いの精神”を育てたい。」
お金で補填するのではなく、共通の理解を育てること。
その土台づくりとして、知識を共有する場を大切にしていると語りました。

今回の制度改定とセミナーは、社員からの提案がきっかけだったそうです。生理休暇制度はあるものの、実際には使いづらい現状がありました。
「どうしたら取りやすくなるか」
「不妊治療や更年期も対象にすべきではないか」
社員自身が声をまとめ、社長に提案。
形だけでなく実効性のある制度が整った背景には、風通しの良い企業文化がありました。
(まるたARTクリニック院長 丸田英先生)
久留米大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院産婦人科を経て、2012年3月より生殖医療専門に従事。2020年3月に「まるたARTクリニック」開業。日本産科婦人科学会認定専門医。
不妊予防も生殖医療の一環と捉え、「プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)」の普及に注力している。
番組紹介
働く女性のリアルな声を届けるWEBメディア『me:tone』。
名古屋を起点に、座談会や美容・キャリア・お金の話題まで、身近で共感できる情報を発信し、女性たちの「今」を応援します。
共感と気づきで毎日を前向きに。毎週不定期で更新。



