情けなさを原動力に- 初の二桁勝利を挙げた中日・柳、乗り越えた2つの壁
「【ドラゴンズライター竹内茂喜の『野球のドテ煮』】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム」
3年目での開花
ドラゴンズファンが待ち焦がれた右のエースの誕生。柳裕也、プロ入り3年目での開花。自身初の2桁勝利。チーム最多の11勝を記録し、左の大野雄大とともに今年のドラゴンズ投手陣を牽引した。今オフには年俸も3倍アップの推定4500万円でサイン。さらに今月12月に待望の第一子となる長男が誕生。まさにバラ色のオフを送る柳。この成功はひとえに強い信念がもたらしたもの。今シーズン充実したシーズンを送った柳、何が彼を変えたのか?
乗り越えた壁
将来のエース候補、即戦力右腕として2016年ドラフト1位で入団した柳。しかしここまで決して順風満帆ではなかった。2年間の通算成績は3勝9敗と、ファンの期待を裏切る結果を残した。今シーズン途中のインタビューでじくじたる思いを柳は語った。
“1、2年目に情けない思いをしてきたので、情けなさがボクの原動力になりました。こんな成績で終わるわけにはいかない”
今年、変化を求めて頼ったのは、ベテラン吉見との自主トレだった。
“吉見さんから学びたい、その一心でした。去年はケガをしたくないという気持ちから身体を小さく使ってしまいましたが、ケガの恐怖が今年はなくなり、身体をしっかり使えるようになりました”
吉見との自主トレでつかんだ投球フォーム。昨秋から取り組んできた二段モーションに加え、腕を振る位置も変えた。そして登板間のトレーニングも確立。柳は新たなる武器を手にして2019年シーズンを迎えた。4月7日、自身今季初登板から2連勝を飾り、今年はひと味違う!と誰もがそう思った矢先の5月4日、地元ナゴヤドームでの対スワローズ戦だった。6回被安打10、失点8というなんとも無惨な今季初黒星。熱くなり、自分を見失った結果であった。
“自分の弱さが出たなと思いました”
惨敗から三日後、5月7日対カープ戦で大野雄大投手が絶対的エースのピッチングを見せ、見事完封勝利を記録。自分との差を痛感した瞬間だった。その日から柳は一変した。特に決め球のスライダーが冴え始め、被安打率が大きく低下。5月終盤から破竹の6連勝で9勝目を挙げ、7月7日の時点でハーラーダービートップに立った。その間、チームの連敗を6度も止める活躍に、今年はもしや最多勝も獲れるのでは?と、期待したファンも多かったはずだ。ところが再び試練が彼を襲う。今度は10勝の壁。後半戦開始から7試合投げ、0勝2敗と完全に勝利から見放されたのだった。悶々とした日を過ごした柳。当時をこう振り返った。
“とにかく毎試合勝ちたいと思った。ただ、もう9勝で終わっちゃうのかなと思ったのが正直な気持ち”
エースの意地
勝利の女神から見放され続けた柳にもようやく光が射す時がやってきた。9月7日、ナゴヤドームでの対ベイスターズ戦。味方の援護にも助けられ、二ヵ月ぶりの勝利でようやく夢に描いた二桁勝利を手中に収めた。ヒーローインタビューのお立ち台で思いのすべてを口にした。
“今日は泣くかなと思ったけど泣きません!”
意地の一心が涙腺らの涙を封じたのだろう。たった一回の二桁勝利ぐらいで泣いてたまるか!これが本心だったに違いない。契約更改時、彼の残したコメントがそれを裏付ける。
“今年二桁勝って、来年勝てなかったり、ケガをして、投げなかったりしたら意味がない。今年の喜びに浸ることなく、来年に向かってやりたいという気持ちが一番強い”
来季も二桁勝利を挙げる、いや今年以上の活躍を見せるためには克服しなければならないものがある。今季の柳、ビジターでは無類の強さを発揮したが、ホームでは何故か苦戦を強いられた。ホームでなかなか勝てなかった要因として、『ゆとり余る時間』を挙げた。ビジターでは考える暇もなく登板してしまうが、ホームではどうしても考え過ぎてしまうようだ。常に結果を残すためには、心技体を上手くコントロールすることが求められそうだ。
一年間の心技体
心技体といえば、今年サンドラのオフシーズン企画。柳の2019年1年間はまさに分かりやすいグラフとなった。
1月の心技体はすべて100%。この充実ぶりは、オフの練習が思うようにやれ、身体もすごく元気だった証。好調だった7月を迎えるまで心と技は100%を保った。身の右下がりについては、一年間やっていく中でパワーが目減りしていくという感が強かったという。9月、二桁勝利を挙げたのにも関わらず、心が50まで上がらなかったことについて尋ねると、
“いざ勝ってはみたものの、そんなに心が上がらなかったのが本音”
前述した“エースの意地”がここでも裏付ける結果となった。最後の最後に技が100に上がったことについては、秋季キャンプでしっかり練習ができ、投げ方もこれまで以上に良くなった結果がこの数値となったようだ。
絶対的エース誕生へ
来季、飛躍の要因となった二段モーションの封印を誓った柳。二段モーションでやっていた動きをうまく活かしながら投げていく『ニュー柳』で2020年シーズンに挑む所存だ。来年からはあこがれ続け、心の支えとなっていた大先輩・松坂大輔はいない。今年以上の大活躍をみせることで大先輩への恩返しを誓う。同期の笠原は柳に負けじとばかり、腕を振りまくるに違いない。ドラフト3位で入団が決定した同級生の岡野祐一郎投手の存在も柳の負けず嫌いの性格に火をつけることだろう。1994年生まれの存在が絶対的エース誕生を駆り立てる。契約更改時、来季ノルマと課した『15勝と優勝』。ドラファンなら8年ぶりのAクラス復帰ぐらいでは我慢できないはず。柳が投げればドラゴンズは絶対負けない。そんなジンクスが生まれるぐらいの活躍を夢想する。
がんばれドラゴンズ!燃えよドラゴンズ!
(ドラゴンズライター 竹内茂喜)