福留孝介選手がドラゴンズブルーに復帰する大いなる期待と課題
竜のスター選手が帰ってくる。中日ドラゴンズは、阪神タイガースを自由契約になった福留孝介選手の獲得を発表した。背番号は「9」。
かつて首位打者を2度も取るなど、ドラゴンズ球団史にその名を刻むスター選手のひとり。14年ぶりのドラゴンズ復帰に期待は高まる。歓迎したい理由は2つある。
新たな「代打の切り札」へ
最初の理由は、現在のドラゴンズ「代打陣の脆弱さ」である。
層が薄い上に勝負弱い。これは2020年シーズンに始まったことではなく、ここ数年ずっと続いている。
今季でいえば、右打者では堂上直倫選手、またはレギュラーを外れた時の平田良介や福田永将の両選手、左打者では井領雅貴選手、溝脇隼人選手、遠藤一星選手らが浮かぶが、代打陣の平均打率は2割そこそこで、誰もが決め手に欠ける。「代打の切り札」とはとても呼べたものではない。
2014年と15年の2年間在籍した“ガッツ”こと小笠原道大さん以降、ここという時の切り札はいなかった。そこへ福留選手の復帰である。貴重なカードになってくれそうだ。
スター選手の熱き復活
もうひとつの理由は、「福留孝介」というブランドが、ドラゴンズファンにとっては、やは
り特別だからである。
ドラゴンズも指名に参画した1996年ドラフトは、実に7球団が競合した1位だった。
抽選に勝った近鉄バファローズ(当時)への入団を拒否し、社会人で2年間過ごした後、星野仙一監督が率いていたドラゴンズを逆指名して入団した。背番号は期待の「1」。
1999年(平成11年)4月4日、ナゴヤドームのライトスタンドにてプロ初安打となるツーベースを目撃したが、竜の新たなスタープレーヤー誕生の瞬間は今でも忘れない。
そのルーキー年は132試合に出場し、打率.284、安打131、本塁打16という堂々たる成績だった。その後は、2002年と2006年に首位打者を2回獲得。2006年の東京ドーム、延長の12回に打ったリーグ優勝を決める決勝タイムリーは今も竜党の間で熱く語られている。純粋に「もう一度ドラゴンズのユニホームを着た福留孝介が見たい」という思いがある。
どう起用するか?ベンチ采配
しかし、今回の復帰についてはドラゴンズファンの間でも疑問を呈する声があったのも事実だ。それは、今のドラゴンズが置かれた状況と密接に結びついている。
2020年シーズンは8年ぶりにAクラスとなり、球団史でも未曾有の長き低迷から脱出する一歩を印した。しかし、讀賣ジャイアンツが独走し連覇を確実にした後、他チームは積極的に若手選手を起用して世代交代にトライアルした反面、ドラゴンズベンチは既存メンバーにこだわった戦いを続けた。ウエスタンで当時は首位打者だった石垣雅海選手が1軍に上がった後、なかなか打席でのチャンスを与えられなかったことが象徴的だった。
世代交代にヤキモキする竜党
セ・リーグ他の5球団の4番打者の顔ぶれと年齢を見ても一目瞭然、レギュラーの世代交代は遅れている。岡本和真、大山悠輔、佐野恵太、鈴木誠也そして20歳の村上宗隆という若き4番たち。竜の4番に来季20歳を迎える石川昂弥選手に座ってほしいぐらいだ。まずは若い野手の積極的な起用を第一義としてほしい。低い打率の中堅選手が使われ続けて、2軍から勢いを運んできた若手選手がベンチを温めた2020年の風景はファンとしては残念だった。百戦錬磨の福留選手が加わることで、またしても若竜のチャンスが減ることだけは避けてほしいというのが大方のファン心理だと推察する。チャンスは新しい芽にこそ温かく与えてほしい。
そこには、将来のチームのあり方について組織のビジョンが必要である。目の前の勝利と共に、常に5年、10年先を考える。その将来像を思い描いた上で「福留孝介」という戦力を活用してほしいと切に願う。同じ左打者の根尾昂選手や岡林勇希選手ら若竜たちへのアドバイスも期待したい。
竜ユニホームを着てこその福留孝介
日米通算2407安打と323本塁打、44歳で2021年シーズンを迎える福留選手は、当然レギュラーの座を取りに行くであろう。勢いでは若い選手にかなわないかもしれないが、熟練した打撃術がある。他球団ではなく、プロ野球人生をスタートした“原点”、ドラゴンズブルーのユニホームを着ることによる上積みも当然あるだろう。
そして、そこからはチーム内での競争である。若いもベテランも関係ない。まずはチャンスを均等に与えた上で、勝利のためにベンチは力のある選手を起用すればいい。それがプロの世界である。
ドラゴンズ2000年代初頭に大活躍した背番号「1」のスラッガー、福留孝介選手の古巣への復帰は、3年目を迎える与田ドラゴンズ2021年シーズン進撃の試金石となる。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】