場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)と闘う女性

今回の追跡Xは、一人の20歳の女性に注目します。
その女性は家を一歩出ると、声が出なくなる場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)という不安障害と闘っています。女性は、家の中では家族と話せるのに外では他人とも家族とも話せなくなります。
実は、日本の小学生の500人に1人が場面緘黙症だという調査報告があります。

私たちは2年前からこの20歳の女性や、同じ障害と闘っている小学生たちの取材を続けています。

場面緘黙症の20歳の女性

ここでアルバイトを始めてもうすぐ1年。

  スタッフ「お疲れ様でーす」

名古屋のNPO法人で働くひろみさん(仮名)20歳です。
主な仕事はパソコンの入力作業ひろみさんには困ったことが1つだけあります。

  スタッフ「あと何校で(入力が)終わりそうですか」

ラインで返すひろみさん

  LINE文字「まだまだあるけど、なるべく厚いやつを優先的に終わらせようとしてます…!」

声を出しての会話ができません。小学1年のときから場面緘黙症と闘っています。
場面緘黙症とは家ではしゃべれるのに学校など特定の場面でしゃべれなくなる不安障害の一つ。
小学生では全国に500人に1人いると言われています。
ひろみさんが発症したのは同級生にからかわれたことがきっかけでした。

私たちはひろみさんが高校3年生の時にも取材。家族以外の人と接すると声が出なくなる状態とはどういうことなのか? スマホでこう返してくれました。

  スマホ画面 「いざ声を出そうとするとぐっとなって、なんで声が出なくなるのか、分かりません」

場面緘黙症のことを理解し雇ってくれたこのNPO法人は社会とつながる唯一の居場所に。しかし・・・。

安倍総理(当時)「緊急事態宣言を全国に拡大します」

去年4月、緊急事態宣言で、このNPO法人も活動を休止せざるを得なくなりました。
それに伴い家に引きこもるようになってしまったひろみさん。

  スマホ画面「昼夜逆転がなかなかなおらなかったり、精神的に不安定だったりしました」

その後、緊急事態宣言が解除されても不安定な気持ちは続いたため、心療内科に駆け込み睡眠導入剤を処方されました。「このままではいけない」ひろみさんは、およそ7か月悩んだ末にある決断をします。

自分を変える決断

向かったのは東京の美容院。店での会話が苦手でこの4年間伸ばし続けてきた髪。街ではこんな言葉を投げかけられたことも…。

  スマホ画面「『髪長っ』『お化けみたい』ってつぶやかれたりすることもあって、人の視線が余計気になることが多かったです」

「何としても自分を変えなければ」。切った髪を医療用ウィッグとして使ってもらう決断をしました。病で髪の毛を失った人をサポートするへアドネーションの活動です。

背中を押してくれたのは埼玉に住む同い年の友人です。

  友人「髪切ったのも似合うと思って、『ショートも似合うな』って言ったので」

「この友人となら美容院に一緒に行き、これまでの自分とサヨナラできそう」そう思ったのです。

2人は小学生のときにオンラインゲームを通じて知り合いました。これまでメールのやりとりは続けてきましたが、対面して声を出しての会話は一度もありません。会うのはこの日が2回目です。

4年間切れなかった髪は肩までに。

  美容師「(束をひろみさんに渡して)こんな感じです。ありがとうございます」

ヘアスタイルは生まれて初めてボブをリクエスト。

  スマホ画面「オシャレな感じで前よりも少し自信が持てそうです」

そして背中を押してくれた友人とも、いずれ声をつかって話がしたい、その思いは強くなっています。しかし一足飛びには改善しない場面緘黙症について専門家は…。

  長野大学 高木准教授「緘黙症の理由として大きいのは、本人が緊張しやすい不安を感じやすいというのが考えられる。話したいんだけど喉が締まった感じになってしまう、声がでなくなってしまう」

場面緘黙症の小学6年の女の子

高木准教授の相談室に通う小学6年の香梅さん。場面緘黙症と闘いながらあることに挑戦しています。それは…。

  高木准教授「話せるTV」
  香梅さん「きょうはみいちゃんのお菓子工房にやってきました」

ユーチューブの撮影です。場面緘黙症は必ず改善できることを知ってほしいと、高木准教授が去年7月から発信を続けています。この日訪れたのは滋賀県近江八幡市にあるみいちゃんのお菓子工房。

  高木准教授「初めに香梅さんから質問してもらっていいかな?」
  香梅さん「…。店舗のデザインで一番好きなところはどこですか?」

香梅さんは、用意されたセリフを読み上げることはできるようになりました。目標は、いつか人前で自由に話せるようになることです。

このお菓子工房のパティシエは、なんと中学1年生の杉之原みずきさん、みいちゃんです。

  みいちゃんの母・千里さん「どうした?ココアないんや。あ、チョコケーキか。ココアいるなぁ。これだけで足りる?」

実は厨房では母親とも会話できないみいちゃん、彼女もまた場面緘黙症です。
でも、お菓子作りの腕前は小学生のころからプロ級。
母親の千里さんとともに月に1度、カフェを開くとリピーターも訪れるほどです。

  カフェのお客さん「すごくおいしい。チョコがすごくあっさりしている」

だんだんと特定の状況で話せるように

同じ場面緘黙症のみいちゃんがどんなケーキを作るのか、興味津々の香梅さん。
私たちが、食べた感想を尋ねると…

  母・良子さん「自分で言う?」

(首を振る小梅さん)

  母・良子さん「じゃあママが机の下に潜って聞くね」

(机の下で母親と話す小梅さん)
人前でのフリートークはまだ難しいようです。

  母・良子さん「(娘が言うには)チョコレートはなめらかで、スポンジはふわふわでおいしかった」

それでも、ユーチューブの撮影でセリフを読み上げることが、場面緘黙症の克服につながると、高木准教授は話します。

  高木准教授「この人に話せるようになった、この状況で話せるようになったというふうに、改善していくケースが多い。計画をたてて練習すれば症状は改善できますよ、と発信していくことが専門家として必要だと思っています」

学校でちょっとした言葉に傷つき、声を出せなくなるケースが多い場面緘黙症。
いつか話せる日を信じて、小学生の500人に1人が今も闘っています。

長野大学の高木准教授は、10代から30代の場面緘黙症の男女10人に半年間治療を行った結果、2人が克服、8人が改善したということです。
「誰としゃべりたいか」「どんな場面でならしゃべれるのか」を整理して目標を立てることが重要だと話しています。

場面緘黙症の子どもは 「ただ大人しいだけ」と見過ごされることも多くあります。
小学生の500人に1人いるということをまずは知ってほしいと思います。

(2021年1月11日放送「チャント!」より)

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