G7サミットに襲来したトランプ台風に揺らぐ首脳外交の舞台

G7サミットに襲来したトランプ台風に揺らぐ首脳外交の舞台

沖縄サミットが日本で開催された2000年(平成12年)夏に、現地の沖縄で聞いた話を今も忘れない。
各国首脳と代表団はそれぞれに宿泊ホテルを決める。アメリカのクリントン大統領の宿は、名護市のサミット会場まで車で20分ほどの万座ビーチにあるホテルだった。実は私もこのホテルが大好きで、夏休みになるとよく利用していた。サミットが終わってしばらく後にホテルを訪れて、旧知のスタッフに労いの言葉をかけた時のこと・・・。

大統領専用シューズまで作った!

「驚きました」とそのスタッフは切り出した。アメリカ大統領の宿泊先に決まった直後に、
有名スポーツメーカーの担当者が来日して、ホテル前に広がる浜から砂を採取して帰っていったという。何のためか。
サミット滞在中にクリントン大統領が浜でジョギングをするかもしれず、それに備えて、その浜の砂に最もフィットして走りやすいランニングシューズを作りホワイトハウスに届けるのだと言う。そこまでするのかと、米国のスケール感に驚いた記憶がある。

G7サミット44年の歴史

そのアメリカ大統領であるドナルド・トランプ氏によって、2019年8月、フランス南部のリゾート地ビアリッツで開催されたG7サミットは翻弄されたと言えよう。
先進国首脳会議と呼ばれた「サミット」は、1975年に同じフランス、パリ郊外のランブイエで幕を開けた。当時は第一次石油危機による世界経済の混乱に対応するため、米国と欧州主要国、そして日本の6か国が集まった。「皆で世界的な問題に対応しよう」という意図であり、翌年にカナダが仲間入りして7か国の「G7」となった。その後、東西冷戦の終結と共にロシアが加わり「G8」となるが、ロシアによるクリミア半島併合が国際世論の大きな批判を浴びて、2014年にロシアは脱会し、再び「G7」となり今日に至っている。

背負ったリーダーたちが集結

今回の仏ビアリッツ・サミットは、もともと不穏な空気の中で開幕した。
1年前にカナダのシャルルボワでのサミットでは、首脳宣言を後になってトランプ大統領が不承認するという事態が起きた。そのトランプ大統領は相変わらずの「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げて、サミット不要論まで発信していた。
参加する首脳たちも、EU離脱問題を抱えて欧州各国と対立している英国ジョンソン首相、連立政権が崩壊して辞任表明したばかりのイタリアのコンテ首相、そして14回目とサミット最多の参加ながら国内での基盤が弱まり再来年での政界引退が決まっているドイツのメルケル首相、メンバーそれぞれが問題を背負ってのサミット参加だった。
議長国フランスのマクロン大統領は会議の前から「今回は首脳宣言を見送る」と示唆するなど、これまでになかった異様な空気の中で開催を迎えたのだった。

交渉の極意はビジネス?

トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」通りの外交を展開した。最も象徴的だったのは、環境問題を話し合う気候変動の会議だった。米大統領席は空いていた。トランプ大統領はインドのモディ首相らとの会談を優先したのだ。中国との貿易対立を抱える経済問題ではなく、地球規模の問題である温暖化対策などにも背を向けた。多国間の交渉より、二国間交渉の方が有利に物事を運ぶことができると“ビジネスマン”トランプ氏は考えたのであろうか。自国第一主義は伝播する。EU離脱を控える英国ジョンソン首相はトランプ大統領との交渉に臨み、意気投合とも見られるような笑顔を見せていた。

土壇場で登場した首脳宣言

首脳宣言は最終的には1ページの文書にまとめられた。しかし、それは従来までのサミットで各国の事務方が協議を積み重ね、最終的にトップが手を握った宣言とは、まったく違う“何とか形を作った”ものだった。トランプ大統領が不承認することもないほどの抽象的な内容の簡略な5つの項目だった。

G7サミットはどこへいく?

仏ランブイエでのサミットは、この首脳会議が新たなステージに入ったことを表したとも言えよう。醸し出され始めた「現状の形でのG7サミットは必要か?」という空気。トランプ大統領は、クリミア半島併合問題で2014年以来サミットメンバーから外れたロシアを「再びメンバーに加えるべきだ」との意向を表明したが、実際に「ロシアと中国がいなくては意味がない」という声もあるという。そしてG7サミットの揺らぎに象徴されるように、今後、世界のパワーバランスが刻々と変化していく可能性もある。

次のサミット議長国はアメリカであり、議長をつとめるトランプ大統領は、自らがマイアミに所有するゴルフリゾートでの開催を希望している。そしてその後には、再選をめざす大統領選が待っている。トランプ大統領は、アメリカ国内へのアピールを強く意識してG7サミットを仕切るであろう。トランプ外交から目が離せない日々が続く中、G7サミットの存在意義も問われ続ける1年になる。

【東西南北論説風(122)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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