どんな夏休みを過ごしますか?「働き方改革」の夏に思い出すリゾート問答

どんな夏休みを過ごしますか?「働き方改革」の夏に思い出すリゾート問答

もう30年ほど前のことになる。成田からロンドンに向かう機内で50歳ほどの英国女性と隣り合わせになって会話が始まった。どこへ行くのか?と尋ねられたので、欧州リゾートの現状を見に行くと答えた。すると彼女はスペインのリゾート地コスタ・デル・ソルにあるマラガの町に別荘を持っていると言う。バカンス論になった時に彼女はこう語った。
「もし休日をハワイで過ごすとして、休みが4日間しか取れないならば行かない。1週間取れるならば迷う。2週間あったら出かける。それだけ旅先ではのんびりしたい」

国会では安倍総理が最重要テーマと位置づけた「働き方改革関連法」が成立した。それを見守りながら、30年前の機内での会話を思い出した。なかなかゆっくり休みが取れなかった身としてはあまりに驚きの言葉だった。

当時ヨーロッパへ向かっていた目的は、三重県からのリゾート視察団の同行取材だった。1987年(昭和62年)総合保養地域整備法、いわゆる「リゾート法」が施行された。
「国民のゆとりある生活」を謳い謳い文句に余暇活動の充実をめざしたもので、「リゾート整備」の名のもとに、全国の自治体で動きが始まった。日本で本格的なリゾート気運が高まるのか。
そんな中、法適用第1号の承認を受けたのが三重県「三重サンベルトゾーン構想」だった。その構想を実際に動かす三重県知事や自治体、そして企業のリーダーたちがスペインやフランスのリゾート地を2週間にわたって視察した。

結論から言えば、バブル経済の崩壊などもあり、その後「リゾート法」は抜本的な見直しを迫られる。三重県では「志摩スペイン村」など一部の施設は今も元気に活動しているが、構想に描かれながらも実現に至らなかった施設も多くある。伊勢市や鳥羽市など三重県内23市町村で構成された「三重県サンベルトゾーン推進連絡協議会」も2001年(平成13年)9月に活動を休止した。

その後、日本での休暇のスタイルは変わったのだろうか?
旅行会社からのツアー企画数も格段に増えて、選択肢は大きく拡がったと思う。しかし、根本はあまり変わっていないのではないだろうか。
当時の視察先だったスペインにはスペイン語で「昼寝」を意味する「シエスタ」の習慣がある。午後1時を過ぎると会社も商店街も学校も、2~3時間の昼休みに入る。
取材でチャーターしたタクシーの運転手が「シエスタを取りたい」と言い出した。取材はまだ途中である。困惑する私の前に無線で呼ばれた若者が現れた。運転手の息子だという。親子がハンドルをバトンタッチして父親は昼寝するために家路についた。
日本が働き方の見直しを迫られて法の整備を進めている一方で、長い歴史の中「休む」ことに“筋金入り”の国がある。そのギャップはなかなか埋まることがないだろう。

働き方改革でどうなる?2018年の夏休み

CBCテレビ:画像『pixabay』

休暇が取れることになると沖縄に飛ぶことが多い。航空機やホテルの手配ができた後、次にやることは持参する本の選択である。何を読もうか?とお供を選ぶ時間は楽しい。現地では海かプールサイドで読書しながら丸一日を過ごす。時折オリオンビールでのどを潤しながら。あくまでも限られた数での目撃談なので当てはまらない方もきっとあると思うが、これまでに自分と同じ長さをその場で過ごす人には一度も出会ったことがない。長い人でも2~3時間、その後に着替えて皆どこかへ出かけて行く。かつて機内で英国女性から聞いたバカンス論は理解できるが、やはり遠い国の話だと思ってしまう。

30年前の機内に話を戻す。ヨーロッパでの行動を尋ねてきた彼女に、視察団のスケジュールを説明した。彼女は目を丸くしてひと言「クレイジー」。ヨーロッパのリゾートを学ぶ目的のメンバーが、そんな強行スケジュールで動き回ってリゾートの真髄を理解できるのか?と。
「働き方改革」元年となった2018年の夏休みが始まった。

【東西南北論説風(53) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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