インスタ映え ~新語・流行語&和製英語から見えるニッポン

石塚元章

2017年12月 1日

画像:足成

新語・流行語大賞を選ぶ季節がやってきました。少し前にノミネート30語というのが発表されますが、そのころから「今年はアレでしょ」「最近の流行語の傾向は...」なんていう話題も巷(ちまた)で飛び交うようになってきます。
で、個人的には今年、「インスタ映え」に一票です。

「インスタ映え」。これ、"流行語"であると同時に、まぎれもなく"新語"ですよね。同じノミネートには「忖度(そんたく)」などというのも入っていて、確かにやたらと使われたのですが、どう考えても"新語"ではありません。普通の生活をしてきた日本人はあまり使わなかった...というだけでしょう。

「インスタ映え」のすごいところは、まず「インスタグラム」という写真共有アプリの名前を短縮した上で、「映える」という紛れもない日本語の、しかもなかなかに含蓄のあるワードを合体させているところ。そしてなにより、「写真で撮影したら、さぞかし綺麗だろうな」という一般的な表現・形容の言葉として新たな立ち位置が確立されてきたところでしょう。
実際にインスタグラムで撮影するわけではなくとも、「この景色って、インスタ映えするよね」なんて使ったりしますよね。

実は日本語って、ずっとそうやって集積されてきた言葉です。よく"和製英語"などとも言われますが、それだっていくつかの種類に整理できます。
(1)勝手に縮めた   エアコン、セクハラ、デパート など。
(2)勝手につなげた  アフターサービス、ガードマン、テーブルスピーチ など。
(3)意味が違います  スマート、バイク、ボディチェック など。
(4)英語じゃありませんけど アルバイト、ピンセット、コンビナート など。

これを嘆かわしい...などと思う必要はありません。
日本人はそもそも中国経由で、その後もポルトガルやオランダなどから、さまざまな言葉を手にいれてきました。
とりわけ江戸時代末から明治にかけて、日本では多くの"和製英語"ならぬ"和製漢語"が誕生しました。「え?和製漢語って何」という向きもあるかもしれませんが、たとえば「社会」「個人」「哲学」「理性」「演説」「自由」...まだまだあります。つまり、「海外の文化・情報がどんどん入ってくるようになったけれど、それを表現する適当な日本語がない(汗)」となった時、多くの知識人が、漢文・漢語の素養を生かして、"新語"を次々と生み出してきたのです。西周、福沢諭吉、夏目漱石...。

やがて日本人は、日本語と、和製漢語と、あるいは外国語同士をどんどん"合体"させる力量を発揮し、さらにさらに新たな言葉を生み出していきます。
「えびフライ」「ヘアサロン」「アイドル歌手」「商社マン」「家庭サービス」...。

「インスタ映え」が、ただの流行語ではない...ということがおわかりいただけますか。しかも、「インスタグラム」というアプリがアメリカで開発され、一般に利用できるようになったのは2010年10月のこと。まだ、たった7年しか経っていません。おそるべし、日本人...です。さらに、「インスタ映え」するポイントを探して「写真を撮りに出かける」という新たな文化(?)すら生まれたではありませんか。
良い悪いではなく、文化的・時代的な背景、生活における使用頻度や定着感などをさまざま考慮すると、やっぱり、今年の新語・流行語は、「インスタ映え」しかない...と思うのです。
え?「そういうあなたはインスタグラムやっているのか?」って。いいえ、おじさんはやっていませんが、それが何か?

【ニュースなキーワード インスタ映え】
▼スマートフォンなどで、写真・画像を共有できるサービス「インスタグラム」にふさわしい景色・商品・現象などを形容するワードとして誕生。次第に「写真に撮ると綺麗」を表現する普遍性すら獲得。▼「インスタグラム」そのものは、2010年にアメリカのベンチャー企業が開発しアプリを公開。写真の加工・編集機能も売り。その後、あのFacebookが買収。▼2017年、日本ではインスタグラムで共有するとおしゃれ...を売り物にするビジネスも盛んに。夏には、「泳ぐつもりはないけど、とりあえずプールサイドで写真を撮ってインスタに...」なんていう若い女性を目当てにした「ナイトプール」も流行した。