【CBCテレビ　チャント！論説室コーナー】
※2月8日放送の『チャント！』～暮らしに役立つ！ニュース用語講座～に基づく原稿内容です

バイデン新政権がスタートしたアメリカ合衆国ですが、前政権からの難題も数多く残っています。そのひとつ、前大統領ドナルド・トランプ氏の弾劾裁判がスタートします。

民衆を煽ったトランプ氏

米国の歴史の1ページに大きな傷跡を残した2021年1月6日の連邦議会議事堂への乱入事件。この日は大統領選の結果を確定させる上下両院の合同会議が開かれていました。トランプ氏は自らの支持者たちを前に演説し、敗北した大統領選への批判を繰り返した上で、こう叫びました。「さあ、議事堂へ行こう」。押し寄せた人々によって議事堂は一時占拠され、複数の死者が出る事態となりました。その後、下院はトランプ氏が「民衆を扇動した」として弾劾訴追したのです。

日米「弾劾」の違いは？

「弾劾」制度は日本にもあります。裁判官に対し裁判官弾劾裁判所が行うもの、これは日本国憲法で定められています。もうひとつは、国家公務員法によるもので、人事院の人事官に対し最高裁判所が行うものです。いずれも罷免を伴う処罰です。米国の場合は、この弾劾の対象に大統領や副大統領も含まれていて、「下院が訴追、上院が裁判を開く」制度になっています。

歴代大統領の「弾劾」は？

実はトランプ氏は、過去に一度、弾劾訴追されています。2019年のことで、ウクライナへの軍事支援の代わりに、対立する民主党のバイデン氏（現大統領）に関する調査を依頼したという権力乱用などについてです。それ以前の大統領の訴追は2人だけ。アンドルー・ジョンソン大統領は政治的に対立していた陸軍長官を解任した問題で、またビル・クリントン大統領はホワイトハウス実習生との不倫問題をもみ消した問題で、それぞれ弾劾訴追されました。今回のことでトランプ氏は、2回も弾劾訴追を受けた初めての大統領となりました。過去3つのケースはいずれも上院での弾劾裁判で無罪。さて今回はどうなるのでしょうか？

上院のカギは共和党が握る

弾劾裁判を開く米上院は議席数が100。現在は、政権を握った民主党が50、共和党が50と同数です。有罪のためには出席議員の3分の2以上の賛成が必要で、全員が議会に出席したとして67票以上。トランプ氏の共和党から17人が離反して、賛成に回る必要があります。共和党内にも、今回の議事堂反乱を煽ったトランプ氏に対しては厳しい批判の声が出ていましたが、民主党による新政権下、共和党から多数の賛成の声が出るかどうかは不透明です。

前大統領への弾劾の意味とは？

大統領を罷免する弾劾裁判。トランプ氏はすでに大統領職を退いています。「過去の大統領に対する弾劾」としても史上初のケースなのですが、もし有罪になれば、公職資格を失うことになります。そうなると、本人が意欲を見せている2024年の次期大統領選には立候補できません。下院で弾劾訴追した民主党の狙いもそこにあります。また、もし有罪にならなくても、「ドナルド・トランプ」という大統領の名は、2度も弾劾訴追を受けた不名誉な名前として歴史に刻まれることになります。

現地発「すでに“過去の人”？」

弾劾裁判を待つ米国国内の空気ですが、JNNロサンゼルス支局の尾関淳哉支局長は「ニュースは新型コロナのワクチン情報が中心で、弾劾裁判についての報道は少ない」と伝えています。前回2019年の弾劾裁判の方がニュースの扱いも大きかったとのことで、やはり、現職大統領を退くと一気に“過去の人”になってしまうようです。

2月9日に開始される弾劾裁判、別荘のあるフロリダに滞在するトランプ氏にとって「断崖絶壁」という心境なのか？あるいは現役大統領だった当時と同じように強気な姿勢なのか？新型コロナ対策と経済再生という目の前の課題に、議会も挙げて迅速に取り組んでいきたいバイデン大統領にとっても、審理のスピード感含めて気になる弾劾裁判の行方でしょう。

【チャント！「暮らしに役立つ！ニュース用語講座」より by　CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】