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石川昂弥けが離脱で狂った歯車~立浪ドラゴンズ初陣シーズン総括~

石川昂弥けが離脱で狂った歯車~立浪ドラゴンズ初陣シーズン総括~

立浪和義新監督が率いた中日ドラゴンズ1年目のシーズンが幕を下ろした。「新監督いきなりの優勝」とほんの少しだけ心のどこかで夢を見ながら、まさか最下位に終わるとは思わなかったという竜党も多いのではないだろうか。6年ぶりの最下位、しかしそれはドラゴンズが置かれた現在地と課題を浮き彫りにした。立浪竜2022年の戦いをふり返ると共に来季への期待を綴る。

最大の誤算は石川昂弥の離脱

シーズン総括の結論をいきなり述べるならば、けが人も多かった中、石川昂弥選手の離脱が象徴的だった。長く続いたチーム低迷期を一気に脱する立浪ドラゴンズ“戦いの軸”は、入団3年目の若きスラッガーだったはずだ。

立浪監督は就任当初から若手の積極的な起用を明言し、特に石川選手については「100打席、200打席打てなくても使い続ける」と語っていた。開幕戦からサードのスタメン、その後も背番号「2」の出場は続いた。

プロ入り初ホームランも打ち、開幕1か月後にはクリーンアップの3番にも起用されるほどだった。その成長をファンもワクワクしながら見守り、心からの声援を送った。しかし交流戦が始まった5月下旬に1塁への走塁で右足を負傷、それは左膝前十字靭帯不全損傷という大けがで手術も受けた。

序盤戦に勢いがあったチームが失速を始めた時期と重なる。まさに2022年シーズンは“石川昂弥ありき”のチーム作りだったのだろう。シーズン中の6月に21歳になったばかりの若者ひとりに重責を負わせるつもりはないが、それだけ大きなスケールの選手だという期待の裏返しである。

ビシエドに代わる「4番」の不在

1年前の就任会見で立浪監督が力強く語った言葉が「打つ方は必ず何とかします」。しかし、何とかならなかった。チーム打率.247こそ阪神タイガースと讀賣ジャイアンツを上回っているものの、得点数は414点と1試合平均3点にも満たない。

ホームラン数は62本と村上宗隆選手ひとりの56本に近い。それぞれリーグ最下位どころか、12球団で最も少ない。得点力不足は深刻だった。点を取る核となるのが4番打者。

もし石川選手が健在だったら、シーズン後半には座ったかもしれない「4番」の座。2022年シーズンほどその役割に泣かされた年はなかった。ほとんどの試合で4番はダヤン・ビシエド選手がつとめた。

しかし、ドラゴンズで7年目を迎えたビシエド選手は、どちらかと言えば“巧打のアベレージバッター”。かつて落合博満監督が率いた黄金期に4番だったタイロン・ウッズやトニ・ブランコのように、起死回生のホームラン数は期待できない。

打席に入った時の威圧感や怖さも薄らいでいた印象だった。リーグで最も多い併殺打20が示しているようにチャンスにも弱かった。来季に向けて、相手チームが“怖がる4番”の存在こそ必須である。

先発投手陣の光と影

12球団でもトップクラスと言われるドラゴンズ投手陣。しかし、そこにも時間の経過と共に影が忍び寄る。エース大野雄大投手、そして前の年に最優秀防御率と最多奪三振の2冠だった柳裕也投手。

しかし、大野投手は好不調の波があり、5月のように10回2死までパーフェクトピッチングをするかと思えば、初回から大量失点の試合もあった。打線の援護に恵まれなかったこともあり8勝8敗に留まった。

柳投手は開幕直後には安定した投球で、毎週日曜日に登板して勝利することから「サンデー柳」とも呼ばれた。しかし、後半戦にかけて毎試合のように先制点を許すなど調子をつかみきれなかった。最終戦のリリーフで好投したが、9勝11敗の負け越しは誤算だった。

そんな中“3人目の男”と期待された小笠原慎之介投手は、コロナ感染で離脱しながらも規定投球回をクリアして、自身初の2ケタ勝利も達成した。来季は先輩2投手と並んで先発ローテーションの柱になってほしい。

12球団トップクラスのリリーフ陣

リリーフ陣の活躍は見事だった。福岡ソフトバンクホークスから獲得した岩嵜翔投手が、開幕早々にけがで離脱するという思わぬアクシデントがあったが、先発から中継ぎに回った清水達也投手が期待以上の大活躍を見せた。54試合に登板して3勝と32ホールド、昨シーズンわずか1試合のみの登板だった22歳の投手が、見事に花開いた。

そして清水から8回と9回を引き継ぐ2人、ジャリエル・ロドリゲスとライデル・マルティネスは、自己ベストの活躍だった。ジャリエルは45ホールドポイントで最優秀中継ぎ、ライデルは39セーブでセーブ王、それぞれ初受賞となった。来季も抑えは万全と期待したい。

岡林の見事な成長に喝采

立浪監督がめざした若手の成長は着実にその足跡を残した。筆頭は岡林勇希選手である。石川昂弥選手と同じ入団3年目、ドラフト指名は下位の5位だった。しかしバッティングセンスは評論家時代から立浪監督が認めていたもので、開幕からスタメンで起用された。

開幕戦はいきなりの3安打、その後、初夏にかけて若干調子を落としたが、ゲームに出続け、安定した外野守備で貢献している内に、打撃も再び上向きになった。シーズン161本のヒットを打ち、見事に最多安打のタイトルを手にした。盗塁数も24とリーグ2位。打って守って走って、20歳の岡林選手は立浪ドラゴンズで最高の成長株になった。

若竜たちの胎動が聞こえる

シーズン後半には、ショートのスタメンとして2年目19歳の土田龍空が起用され続けた。ミスもあるものの、守備範囲の広さ、キャッチングの確かさ、送球の安定感は、ショート出身である立浪監督にも認められ、最終戦まで走り抜けた。

投手では何と言っても、2年目19歳の髙橋宏斗投手である。投げる度に良くなるピッチングで、三振の山を築きながら6勝を挙げた。もし打線の援護があったのなら10勝を超えて新人王の有力候補だったはず。来季は開幕からローテーションの軸に入ってほしい。

この他、野手ではルーキーの鵜飼航丞選手、2年目の三好大倫選手、石橋康太選手、投手では髙橋投手の同期の上田洸太朗投手ら、これからドラゴンズを引っ張ってくれるであろう若竜たちが次々と台頭したシーズンでもあった。

「大いに優勝をめざしてやっていく」立浪監督は来季への抱負をこう語った。ただ逆襲への戦いは監督ひとりが背負うものではない。コーチや選手、そしてチームを運営するフロントの力量と愛情、すべてが問われる2023年シーズンはすでに始まっている。

来季に夢を馳せながら「ただの最下位でない!」と叫びたい。だからこそ、球団史上でもかつてなく厳しいシーズンオフの日々を、球団一丸となって過ごしてほしい。                                    

【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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