立浪ドラゴンズ、本拠地最終戦でファンの胸に去来した4つの思い
プロ野球ファンにとって、シーズンの本拠地最終戦は格別な試合である。勝っても負けても、首位であろうが最下位であろうが、ゲーム終了後にチームごとに何らかのセレモニーがあり、監督や選手と共にスタンドのファンも、熱かったシーズンをふり返ることになる。2022年9月25日、立浪和義監督に率いられて1年目の中日ドラゴンズが、本拠地バンテリンドームでの戦いを終えた。竜党としての4つの思いを綴る。
「福留孝介引退」への思い
ドームの屋外には、2日前に24年間の現役生活を引退した福留孝介選手の大きなプレートが設置されて、多くのファンが記念写真を撮っていた。ドーム内の施設「ドラゴンズワールド」にも特設コーナーができて、福留選手のバットとグラブが展示されていた。
涙の引退試合を経て、それを目の当たりにしたドラゴンズナインの戦いぶりに、どこか筋が通ったように感じる。引退セレモニーでのスピーチの中、福留選手のこんな言葉が強烈に印象に残った。
「毎日バットを振り続け、朝起きる時には自分の手がバットの形をしたままだった」
福留先輩から後輩たちへのメッセージ、それは「今やらないでいつやるのか?」というプロ野球選手としての“生き様”だったように思う。
「先発メンバー発表」での思い
本拠地最終戦のスターティングメンバーが場内に放送された。シーズンも最終盤になると、チーム成績によっては「来季に向けて若手の起用を」という声が周囲からも飛び交う。実際、昨年2021年シーズンまでのドラゴンズがそうだった。
しかし、最下位に低迷しながら、立浪ドラゴンズに対してそのような声はあまり聞かれない。この試合も「1番センター岡林勇希」「7番ライト鵜飼航丞」「8番ショート土田龍空」。自打球を当てての手術から復帰したばかりの鵜飼以外の2人は、もう立派にスタメンとしてゲームに出続けている。
ここ数年の大きな課題だった若竜は着実に育ってきている。この試合2回裏の先制点は、鵜飼選手のヒットの後、土田選手が讀賣ジャイアンツのエース菅野智之投手からセンター前に運んだタイムリーによるものだった。ドームのスタンドの歓喜は大きなものだった。
「岡林勇希」への思い
そして岡林勇希選手である。1打席目こそ凡退したが、3回裏の2打席目は先頭打者でライト前ヒットを放ち出塁。2点目のホームを踏んだ。5回裏にはまたしても先頭で、今度はレフトへの流し打ちヒット、3点目のホームも岡林選手が踏んだ。
この回は打者一巡の攻撃になって、さらに2点を加えた。6回裏もまたまた先頭、右中間を抜くライナーで一気に3塁に駆け込んだ。これで今季10本目の3ベース、リーグ単独トップの“三塁打王”である。
岡林選手は、もうひとつの真骨頂である守備も魅せた。6回表に先発の大野雄大投手がジャイアンツ打線に連打を浴びて1失点、なおも1死満塁で5番の岡本和真選手を迎えた。
マウンドにはリリーフの谷元圭介投手。岡本選手の打球は快音を残してセンターへ。犠牲フライでの1点は覚悟したが、加速しながら前進して打球をキャッチした岡林選手の本塁への送球で3塁ランナーは足止め、追加点はならなかった。どよめくドーム。ここで点が重なるとゲームの流れを左右しかねない大切な場面、実に大きなプレーだった。
「最終戦セレモニー」での思い
ゲームは7対1でドラゴンズが完勝した。「あと1本が出ない」と言われ、相変わらず僅差の試合が多い今シーズンの中でも“快勝”だった。「もっと早くこういう試合が観たかった」とスタンドのドラゴンズファン誰もが思ったことだろう。そして、その思いは立浪監督にもしっかり届いていた。
「来年は今日のような試合が1試合でも多く皆さんにお見せできるよう」
試合後の本拠地最終戦セレモニーで、立浪監督はこう誓ったが「1試合でも多く」どころか「毎試合見せてもらってもいい」と言うのがファンの本音である。チームが伸びる手応えは確かにある。
あとはそれをどう実らせるのか、実らせることができるのか、この日「満員御礼」となったスタンド席で、そんな思いをかみしめながらセレモニーを見守った。
セレモニーの後、立浪監督はじめコーチ、選手たちがグラウンドを一周してファンの声援に応えた。1年間の応援に感謝を込めてという粋な演出なのだが、全員でのこうした場内一周に欠かせない大切な“パーツ”がそこにはなかった。それは優勝ペナント。およそ4時間後に神宮球場では東京ヤクルトスワローズが連覇によって歓喜の瞬間を迎えた。
「来季こそ、そう来季こそ頼むぞ」そんな5つ目の思いを胸に、夕暮れ迫るバンテリンドームを後にした。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。