中日・岩瀬が「謝っても俺は許さない」と口にしたロッカールーム。佐藤優が誓った2019年の飛躍
去年、佐藤優はブレイクした。42試合1勝2敗5セーブ。防御率2.08。シーズン終盤には9回を任され、侍ジャパンにも選出。充実の3年目だった。
佐藤は東北福祉大学からドラフト2位で中日に入団。187cmから投げ下ろすストレートには威力があり、切れ味鋭いスライダーとフォークが武器の右腕だ。
12月にCBCラジオ「ドラ魂キング」に出演した際、佐藤は2018年を振り返り、「初セーブも達成でき、収穫の多い年でしたが、あの日の登板で全てがかき消されました」と猛省した。
果たせなかったシナリオ
あの日とは10月13日。ナゴヤドームの中日・阪神25回戦。岩瀬仁紀と荒木雅博の引退試合だった。
2対1の中日1点リードで9回表に突入し、4番手で佐藤が登板。「その日は9回で行くと言われていました。2アウト後、岩瀬さんに代わると」。最後は背番号13が試合を締める。それが最も美しいシナリオだった。
しかし、惨劇は起きた。
1アウトから陽川尚将に四球。「僕を象徴するシーンでした。大事なところでコントロールを乱してしまう・・・」。大山悠輔にレフト前ヒット。1、3塁とピンチが拡大した。
佐藤の使命はセーブの付く状況で岩瀬にバトンを渡すこと。つまり、3塁ランナーの生還は阻止しなければならない。バッテリーを組む松井雅人が内野陣にブロックサインを送った。
「ピッチャーカットでした。1塁ランナーが盗塁した場合、キャッチャーの2塁送球をピッチャーが捕ってダブルスチールを阻止するプレーです」
1球目。いきなり大山がスタート。松井雅は2塁へ低いボールを投げる。しかし、誰も捕らない。
「とっさにいつもの癖が出て、しゃがんでしまいました。ボールが目の前を通過するのがスローモーションでした」
白球はセンター前を転々。3塁ランナーがホームイン。ナゴヤドームは異様な空気に包まれた。
佐藤は中谷将大から三振を奪い、降板。ここで岩瀬がマウンドに上がり、福留孝介を三振。ゲームセットのはずが、試合は続いた。
忘れられない言葉
引退セレモニーの選手の列に佐藤もいた。
「消えたかったです」
全てが終わり、佐藤はロッカールームで岩瀬に謝罪した。「本当にすみませんでした」。声を絞り出すのが精一杯だった。レジェンドは言った。
「いくら謝っても俺は許さない。許されるものではない」
痛烈な言葉が脳天を貫き、胸をえぐった。打たれるならまだしも、サインミスでの失点。さすがの大ベテランも手厳しかった。気を失うほどのショックを受けた佐藤。そこへ左腕は続けた。
「来年、活躍する姿を見せてくれ。成績で俺を見返してくれ」
忘れられない失敗をした日に、忘れられない言葉をもらった。
2019年の誓い
「岩瀬さんの最後を台無しにしたことは消えません。結果を出すしかない。先発でもリリーフでもとにかくフル回転してチームの勝利に貢献したい」
オフの過ごし方も変わった。
「理にかなった体の動かし方を学びに東京のジムに通います。1日5食にして、体重も増やします。今は平均球速が148キロ。これを153キロまで上げたい。やることはたくさんあります」
佐藤に慢心は微塵もない。
今年のオフ、佐藤は岩瀬から一体どんな言葉を掛けられるのだろうか。楽しみな1年が始まる。
【CBCアナウンサー若狭敬一
CBCテレビ「サンデードラゴンズ(毎週日曜午後0時54分放送)」、CBCテレビ「スポーツLIVE High FIVE!!(毎週日曜午後1時24分放送)」、CBCラジオ「若狭敬一のスポ音(毎週土曜午後0時20分放送)」、CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週金曜午後6時放送)ほか、テレビやラジオのスポーツ中継などを担当】