「大学ノート」はこうして進化した~横罫線に込めた開発チームの熱き思いとは?

「大学ノート」はこうして進化した~横罫線に込めた開発チームの熱き思いとは?

誰もが学生時代にお世話になったことがあるだろう。「大学ノート」の誕生から今日までの道のりには、使いやすさにとことんこだわったニッポンならではの商品進化の歩みがある。

「大学ノート」の由来は、明治時代、当時はまだ東京開成学校だった東京大学近くにあった文具店が売り出したからと伝えられる。それまでのノートは、半紙を束ねた雑記帳のようなものだったが、海外から帰国した教授のヒントで、洋式の紙を使ったノートを作り販売した。そのノートには、ページに横の罫線が入っていた。このため、文字を真っすぐに書くことができた、東大の前で売られていたから「大学ノート」、分かりやすいネーミングだったが、1冊の値段が現在の1500円ほどという高級品だったため、学生たちにとっては“敷居が高い”文具だった。

そんな大学ノートに着目した人が、東京ではなく、西の大阪にいた。黒田善太郎さん、富山県出身で、20歳の時から大阪で紙を扱う仕事をしていた。27歳だった1905年(明治38年)に独立して、和式帳簿の表紙を製造する「黒田表紙店」を開業した。最初は帳簿の分厚い表紙だけを作っていたが、やがて中味のページも製造するようになり、紙製品のメーカーとして成長していった。

「ノート製造風景」提供:コクヨ株式会社

昭和の時代に入って、黒田さんの会社は新たに「大学ノート」を発売した。1959年(昭和34年)のことだった。それまでの大学ノートは、紙が糸で綴じられていたため、綴じ部分に近いところでは「字が書きにくい」という問題があった。しかしこの新しい大学ノートは、糸ではなく糊(のり)によって表紙と中の紙を固定したため、ノートを開きやすく、さらにフラットなため、かさばりにくかった。綴じる部分には、糊を沁み込みやすくするため、刻みを入れる工夫もなされていた。この技術には、当時は学生たちよりも、電話帳を製造する業界から注目を集めたという。

大学ノートの開発は続く。最初のノートから16年の歳月が流れ、1975年(昭和50年)発売の「大学ノート」には、会社として新しいブランド名を付けることになった。大学の構内を意味する英語「Campus(キャンパス)」を採用、それが「Campus(キャンパス)ノート」の誕生だった。

「Campus(キャンパス)ノート」は、より使いやすさをめざして、材料の品質に注目した。紙の表面に微妙な凹凸をつけること。すべすべならば良いわけではなく、ペン先がほどよく引っかかるように紙の表面を処理し、製造時の圧力によって加減を調整した。インクが紙の繊維に浸透する“微妙なにじみやすさ”を出すために、紙を仕上げる薬剤の配合も研究した。

「ドット入りの罫線」提供:コクヨ株式会社

特にこだわったものがページの罫線だった。もともと「大学ノート」には横の罫線が入っていたが、縦の線も引きやすいようにと、横罫線のページの上と下に、小さな点「ドット」を入れた。さらに均等に逆三角形の目印なども加えた。これによって、定規をあてると、正確に縦の線も引けるようになった。さらに何行目なのか行数が数えやすいように、横線の方にも5行ごとに線の前後に小さな目印を入れた。それはささやかな工夫だったが、ノートを使う人たちが“使いやすい”ようにとの、とても大きな心配りだった。

「初代キャンパスノート1975年」提供:コクヨ株式会社

創業者の黒田さんは1966年(昭和41年)に亡くなったが、大学ノートへの強い思いは、後に続いたメンバーに脈々と受け継がれている。「黒田表紙店」、現在の会社名は「コクヨ株式会社」。“国の誉れ”になろうという思いから「国誉(こくよ)」と黒田さんが命名した。それは故郷である「越中富山の国」のことである。

「ハーフサイズ2021年発売」提供:コクヨ株式会社

「Campusノート」は改良を重ねながら、2022年現在のデザインは5代目。定番の他にも社会人をターゲットにした黒い表紙の「大人キャンパスノート」や、オンラインでのタブレット学習にも使いやすいように、B5サイズを半分にカットした「ハーフサイズ」も、2021年秋に発売された。「Campusノート」は年間1億冊を売り上げる、人気の「大学ノート」に成長を遂げた。

使う人の気持ちになって、ノート作りに打ち込んだ細やかなアイデアと思いやり。「大学ノートはじめて物語」のページでは、日本の文化、その確かな歩みが“心配りという罫線”の上に、しっかりと書き込まれている。

          
【東西南北論説風(336)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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