ドラフトの神様が微笑んだ相手

北辻利寿

2017年10月27日

ドラフト会議の会場で"野球の神様"が微笑む瞬間を見た。

プロ野球ドラフト会議が開催されたホテルに一歩足を踏み入れた時、突然の熱気に身体が包まれた。
「清宮ドラフト」と言われるように、2017年ドラフト会議は、高校通算111本塁打を記録したスラッガー清宮幸太郎選手(早稲田実業)に何球団の指名があるのか、そして、どこのチームが獲得するのか、この一点に日本中の関心が集まっていた。
その熱気は会場だけではなく、ホテル全体に充満していた。
結果は7球団が1位指名をして、北海道日本ハムファイターズがクジを引き当て、スーパースターの交渉権を獲得した。

日本ハムのドラフト戦略は一貫している。
「その年の一番いい選手を指名する」・・・この方針に揺るぎはない。
2004年(平成16年)のダルビッシュ有投手から始まり、2007年は中田翔選手、2010年は斎藤佑樹投手を指名して獲得。
2011年には入団しない意向を伝えられながらも果敢に菅野智之投手を指名して、抽選に勝ったものの入団拒否を受けた。
それでも翌年、メジャー志向で各球団が敬遠した"二刀流"大谷翔平選手を指名して入団させたことは記憶に新しい。
そして今回も・・・。
日本ハムの木田優夫GM補佐が抽選に勝ち、高く手を上げた時、会場には「やっぱり日本ハムか」というどこか納得した空気が流れた。チームの潔さに"野球の神様"はまたしても微笑みを返した。
期せずして栗山英樹監督も語った・・・「野球の神様が大切な宝物を預ける決断をして下さった」。2017年ドラフトも歴史に新たなドラマを刻んだ。

これまでもドラフト会議は過去に数々のドラマを生んできた。
まず思い出されるのは江川卓投手である。
高校時代も大学時代もドラフトの舞台でその進路に注目が集まったが、讀賣ジャイアンツが強硬に入団を進めた1978年(昭和53年)のいわゆる「空白の一日」は、ドラフト会議はもちろん、プロ野球史に残る出来事だ。
PL学園のKKコンビ、桑田真澄投手と清原和博選手の入団をめぐる一幕も今なお印象に残っている。
近鉄バファローズ(当時)の佐々木恭介監督が、清宮選手と同じ7球団のくじ引きの末、PL学園の福留孝介選手を引き当てた「ヨッシャー!」という雄叫びも耳に残っている。数え上げればキリがない。

ドラフト会議は新戦力を獲得する場であると同時に、球団をアピールする場としても捉えることができる。
特に1位入札と指名の瞬間がテレビの地上波で生中継されるようになってからは、その意味合いも増している。
最近では、ソフトバンクホークスの工藤公康監督。2015年は3球団競合の高橋純平投手、そして1年前の2016年は5球団競合の田中正義投手の当たりクジを見事に引き当てた。全国の野球ファンにチームの勢いを見せつけた。
中日ドラゴンズで言うならば、1986年(昭和61年)ドラフトで監督に就任したばかりの星野仙一さんが、5球団が競合した地元の近藤真一投手を引き当て、高らかにガッツポーズをした場面が思い出される。
チームはあの勢いそのままに2シーズン後にセ・リーグ優勝をした。
今回のドラフト会議で清宮選手を1位指名した日本ハムは、7位では東京大学法学部の宮台康平投手を指名して、これも大きな話題になった。
球団アピールとしては大成功のドラフト会議だったと言えよう。

ずっと言われ続けている言葉だが、上位指名の選手が必ずしも活躍するとは限らないのがプロ野球の世界。
スカウトの目利きの次は、育てるコーチの手腕、起用する監督の采配、そして何より選手本人の自覚と努力。
一流のプロ選手が生まれるためには、こうした複合要素が成就する必要がある。
ドラフト会議はあくまでもスタートラインである。

中日ドラゴンズにとって今回はどんなドラフトだったのだろうか?
1位指名の抽選では甲子園のスター中村奨成捕手を獲得することはできなかった。
球団の勢いをアピールすることはできなかったが、ドラフト前に1位指名候補として挙げていた5人の内2人の投手を、1位と2位で獲得できたことは大きな収穫だった。
森繁和監督のインタビューを間近で聞きながら、監督が本心から欲しかったのは、代わりに1位で獲得できたヤマハの鈴木博志投手だったのではと確信した。
その鈴木投手には、かつて同じドラフト1位で活躍した与田剛投手(現・楽天コーチ)のように、抑え投手として開幕から活躍してほしい。
そしてすべて高校生だった残り5人の指名選手たち。5年連続Bクラスと苦しむドラゴンズには勢いのある若い力が必要である。
2~3年後など悠長なことは言わず、いきなり飛び出してきてほしい。

"野球の神様"は普段はドラフト会議の会場にはいない。
グラウンドでひとりひとりの選手を見守っている。それは全国各地の野球場で、そして、もちろんナゴヤドームでも・・・。

【東西南北論説風(16)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】