ドラゴンズ・衝撃ホームランの記録と記憶

ドラゴンズ・衝撃ホームランの記録と記憶

ナゴヤドームに観戦に訪れる度に天井を見上げてため息をつく・・・「もったいないことをしたなあ。何かできなかったのかなあ」と。

2009年(平成21年)5月7日、中日ドラゴンズのトニ・ブランコ選手が広島カープの前田健太投手(当時)から放った打球は、レフト側の天井、高さ50メートルの場所に備え付けられているスピーカーを直撃した。そしてナゴヤドームの認定ルールによって、それはスタンドに入らなくてもホームランとなった。
言葉で書くとこのような表現になり、スポーツ紙には写真も載ったのだが、実際のナゴヤドームで球が当たった天井スピーカーを見上げると、その高さに圧倒される。
一緒に観戦する人に今でもその歴史を紹介すると誰もが一様に驚くのだ。

なぜスピーカーに記念プレートなど何らかのモニュメント的な“しるし”を設置しなかったのか?今後ナゴヤドームを訪れる人が誰でも思い出せるように・・・。
ブランコ選手はその後ドラゴンズとの契約条件が折り合わず、横浜DeNAベイスターズへ移籍、やがて日本を離れた。ドラゴンズファンからすれば少々腹に一物持ってしまうのだが、その特大ホームランの残像自体は素晴らしい記憶である。
ナゴヤドームの担当者に尋ねたところ、記念プレート設置など検討はしたそうである。しかし50メートルという高さもあって工事の困難さから断念したそうだ。まことに残念。

この週末の東京ドームでは、5月12日に同じくドラゴンズのダヤン・ビシエド選手のホームランが、レフトスタンドの看板を直撃した。打った瞬間にホームランと分かる特大弾。看板によっては賞金なり賞品なりが贈られるが、この看板にそうした設定はなく、ご褒美はもらえなかった。しかし、そのホームランを目の当たりにしたドラゴンズファンの大歓声と讀賣ジャイアンツファンのため息、それが何よりのプレゼントだったように思う。

ホームランは野球の華である。
一発で試合をひっくり返したり、試合を決めたり、プロ野球の歴史には沢山の記念ホームランが刻まれている。

野球ファンの語り草「ホームランバックスクリーン3連発」

野球ファンの語り草になっているのは、阪神タイガースのクリーンアップによる、いわゆる「バックスクリーン3連発」である。1985年(昭和60年)4月17日、甲子園球場のタイガースとジャイアンツのゲーム、その7回に槙原寛己投手からタイガースのクリーンアップ、ランディ・バース、掛布雅之、そして岡田彰布の3人がバックスクリーンとその付近に3連続ホームランを放ったのだった。
この年の8月には球団社長が日航機墜落事故の犠牲となる悲しいニュースがあったタイガースだが、秋には見事に21年ぶりのリーグ優勝と初の日本一を果たした。「バックスクリーン3連発」はその象徴的な場面として記憶される。

2018年春の沖縄・北谷球場。オープン戦が開幕した2月24日、ドラゴンズの2番手・岩瀬仁紀投手は、対戦相手だった北海道日本ハムファイターズの横尾俊建、森山恵佑、そして清水優心に5回に3打者連続でホームランを浴びた。
その3連発を球場の1塁側スタンドで見守っていたが、相手球団にやられた悔しさ以上に、オープン戦とはいえ貴重なものを見せてもらったと思ったものだ。

ドラゴンズファンの間では、近藤貞雄監督でリーグ優勝した1982年(昭和57年)の打順を懐かしがる声が依然として多い。
1番の田尾から始まる打順は2番平野をはさみ、モッカ、谷沢、大島のクリーンアップ、そして6番宇野、7番中尾、8番上川と続く。投手もしっかり整備されていたが、逆転に次ぐ逆転で優勝した野球は「野武士野球」と言われた。
「野球が最も面白いのは8対7のゲームスコアだ」とアメリカのルーズヴェルト大統領が語った由縁から、「ルーズヴェルト・ゲーム」という言葉が生まれたが、そのスコアはまさに得点を奪い合う試合。ホームランはそこに大きく寄与する“野球の華”であろう。

東京ドームで看板直撃のホームランを打ったビシエド選手は、2年前の2016年6月8日、京セラドーム大阪でのオリックス・バファローズとの交流戦でも、左中間最上階の5階席にもホームランを放っている。
この時は座席の一部が割れて穴が開いた。球場側は翌日以降のゲームに備えて、すぐに新しい座席に交換したのだが、これも残念なことをしたと思っている。
穴を開けたまま、大切な1席を使用しないことは営業上の理由からもむずかしいだろうが、せめて交換した座席に何らかの表示をするなどして、特大ホームランの飛距離を残してもよかったのではないか。

開会中の通常国会では、参考人招致などで「記憶」か「記録」かという論争が繰り広げられている。
選手たちの素晴らしい「記録」を目に見える形で上手く残すことによって、野球ファンの「記憶」を呼び覚ますきっかけにつながるならば、プロ野球の歩みもより一層魅力的に後世に語り次がれていくことだろう。
各球団そして球場側のプロとしての演出力に期待したい。

【東西南北論説風(43) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】

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