定住者ゼロ&冬は立ち入り禁止!?岐阜のディープすぎる限界集落“根尾越波”を見守り続ける人々とその理由とは…
ディープな街で“ハートフル”を探すドキュメント番組「ハートフルワールド」。今回の舞台は定住者のいない集落「岐阜・根尾越波(ねおおっぱ)」。冬は積雪の為、立ち入ることさえできない限界集落です。廃墟となった家屋も目立つこの集落で、ディレクターが一人でカメラを回し「越波を失いたくない」という人たちの想いに迫りました。
「定住者のいない集落」に週末だけ訪れる人たちが…
岐阜県・本巣市の山奥にひっそりと現れる「根尾越波」(以下、越波)。その越波に点在している家をディレクターが1軒ずつ尋ねてみましたが、応答はありません。廃墟と化している家もたくさんあります。そんな中、取材2日目にようやく一人の男性に会うことができました。
(上杉要さん)
「(Q越波の方ですか?)そう。普段住んでいないけど、皆そうやよ。今は僕自身は別荘代わりに使っている」
かつて「村」だったこの集落には今、定住者はいません。冬になると、数メートルもの積雪を記録するこの地区。雪崩事故もあった為、昭和50年代からは毎年12月~5月までの半年間、集落に通じる道が通行止めになり、立ち入ることすらできません。ピーク時には200人以上いた住民は、減少の一途をたどっていますが、夏から秋にかけて10人ほどが、週末だけ帰ってくるといいます。
「この集落の全部が好き」捨てられない故郷への想い
上杉要さん(65歳)は普段、本巣市で一級建築板金技能士として会社を経営。妻と息子の家族7人で暮らしています。小学生まで育ったという、越波の家を見せてもらうことになりました。
(上杉要さん)
「(Q何代前からお住まいだったんですか?)わかっているだけだとオレで8代目」
家の中は、少しずつリフォームをしているそうで、広々としています。電気は通っており、水道は山に水槽を作り集落の各家へ流れるような仕組みになっています。
お風呂はいつも薪で沸かしているそうで、上杉要さんが生まれた時から60年以上使っている、年季の入ったものです。この家を手放す選択肢はないのかと尋ねると…。
(上杉要さん)
「それはない。ここは捨てきれんの。自分はここが好きやもんで。越波っていう集落の全部が好きやし、僕にとっては癒しの場所」
「親がいるような気がする」自分の生まれた場所を見守りたい
上杉さんが、越波を訪れる他の人たちも紹介してくれました。普段は岐阜市で暮らす渡辺正一さん(84歳)と、妻・和子さん(82歳)です。和子さんは越波で生まれ、中学卒業まではこの家に住んでいました。跡取り息子だった弟さんが亡くなってしまい、代わりに越波の家を守っています。
(渡辺和子さん)
「中学卒業して出ていってね、やっぱり家が恋しくて。やっぱり懐かしいし。ここに来ると、お婆ちゃんが達がおるような気がしたり、親がいるような気がしたり」
自分の生まれた場所を、少しでも見守りたいと話してくれました。
越波へ想いを馳せる“心の火”が消えないように
続いて、越波の自治会長・上杉勝司さん(76歳)の家へ。この日は、友人たちと一緒に庭先で食事をしていました。※上の写真、みんなで食事をしている写真に変更した方が良いと思います。
岐阜市で生まれ育ったという上杉さん。越波の家は母親の実家です。生前、母親が車いす生活になったとき、「越波に行きたい」と繰り返し言っていたそうです。望みを叶えるため毎年のように母親を連れて訪れていたのです。
そんな上杉さんの献身的な姿を見ていた周りの人たちが、「越波の自治会長になってくれ」と推薦したとのこと。一緒に食事をしていた横井護さん(79歳)も越波の生まれです。
(横井護さん)
「土日にね、こうやって皆に会えてね。それが何とも言えん。故郷」
横井さんは普段、岐阜市で妻と二人暮らし。定年退職してからは、ほぼ毎週末一人で越波にやってくるといいます。偶然にも横井さんの弟・秀若さんにも会うことができました。兄の護さんが、越波をよく訪れることについて尋ねると…。
(横井秀若さん)
「気力でやっとる。なるべく火を消さないように。心の火。越波に来られなくなったり、来たくなくなったりすると、ダメになるから」
越波へ想いを馳せる“心の火”。護さんに胸の内を尋ねました。
(横井護さん)
「口では言い表せんよって。育ったモンの郷愁っていうかね。それと、神様とお寺様があるもんでね。あの八幡神社がね、僕らを守ってくれた」
集落の人たちの心の拠り所「八幡神社」で年に一度のお祭り
修理や再建を繰り返し、集落を守ってきた「八幡神社」は、越波の人たちの“心の拠り所”になっていました。
八幡神社で、毎年お盆に行われる恒例行事があります。それは、越波にゆかりのある人達が集まり、古くからこの地で続けられてきた夏祭り。ディレクターも参加させてもらうことになりました。お祭り当日、集落の出身者やその子どもたち、孫の代までおよそ20人が集まり、この地の安寧を願いました。
(上杉要さん)
「こうやって台風が近づいてきた中、皆に来てもらってありがたいです。こういう状態でいくと、この先も越波は存続できるかなと、僕は思ってますけど」
上杉要さんにとって越波はどういう存在か尋ねました。
(上杉要さん)
「僕がこの先、歳とって、向こうで(本巣市)で何もできんようになってもここへ来て、自分の好きなことをやろうかなって思ってる。ただただ越波が好きなだけです」
12月、集落への道は閉ざされ再び厳しい冬を迎えます。しかし 越波を愛する者たちの、温かい心の火は消えません。
CBCテレビ「ハートフルワールド」11月25日放送より