ロシアから帰国した18歳のバレリーナ彼女が感じた現地のリアルとこれからの戦い
ウクライナの軍事侵攻を受けて、ロシア留学から帰国した18歳のバレリーナ。コンクールで勝ち取ったロシアのボリショイバレエアカデミーへの留学も断念。先が見通せない中、今年8月の国内のコンクールで「戦争で婚約者を奪われた女性」を演じます。戦争で留学を断念した自身の思いと作品を重ね合わせて練習する姿に密着しました。
つま先から指先まで神経を張り詰め
梶川陽菜さん(18歳)はプロのバレリーナを目指し、2021年1月から世界最高峰のバレエ学校、ロシアのボリショイバレエアカデミーに留学していました。アカデミーへの入学は、国内のコンクールで2位に入り勝ち取ったもの。夢を叶えるため高校を中退して、モスクワでバレエとロシア語の勉強に打ち込んでいました。しかし、今年3月、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、留学生活を切り上げ、帰国することになりました。
(梶川さん)
「とても悔しかったです。ボリショイバレエ学校を卒業したいと思っていたので」
予想もしなかった戦争勃発の現実
留学中、梶川さんが毎日欠かさず書き留めていた練習の記録。2月24日、ロシアの軍事侵攻が始まった後も練習のことだけを書いていました。
すぐ隣の国で爆撃が始まっていましたが、モスクワに住んでいた梶川さんの日常は何一つ変わらず、戦争が起こっているとは思ってもいませんでした。
(梶川さん)
「(何を聞いても)皆さん口をそろえて『大丈夫よ、これは戦争ではないから』という反応しかなくて本当にこれで大丈夫かなと思っていた」
しかし、3月に入り、家族や日本大使館からの勧めもあって帰国を決断。思わぬ形で留学を中断することになりました。大学進学した友人たちは未来が想像できると思うけど、自分はロシアから帰ってくることになってしまい、先が見えないと言います。
今は自宅で週6日、パソコンの画面でボリショイバレエ学校のリモートレッスンを続けてはいますが「プロのバレリーナになれるのか」と不安がつのります。
梶川さんのクラスメイトには、自国に戻らず、ロシアでバレエ留学を続ける友人もいました。リモート電話をしたところ、最近スターバックスやマクドナルドがなくなったこと、その他の店は普段通り営業していることなどを聞きました。
(梶川さん)
「もっと変わっているんじゃないかと思っていたので意外でした。(ロシアに)残っていても今までと何ら変わりない感じだったのかなって…」
現地にいるクラスメイトに、戦争の話についてするか聞いてみると、誰も戦争とは思ってないので誰もそういう話をしていない、話すとしたら今だと学期末の試験についてだと答えました。
戦争で、毎日大勢の命が失われている深刻さが、現地では伝わっていない。そんな現実もあります。
人生が狂ってしまってもダンスを踊り続けたい
帰国後、梶川さんは以前通っていた地元のバレエ教室に戻り、ことし8月に東京で開かれるコンクールを目指しています。演目は、ロシア古典バレエの傑作「ライモンダ」。戦地へ行った最愛の人を想う主役ライモンダを演じます。
セリフのないバレエは、1つ1つの動きに意味を持たせます。しなやかな腕の動きは、別れの悲しみを、軽やかなステップは、夢の中で彼と出会えた喜びを表現します。幼いころから引っ込み思案だった梶川さんにとって、バレエは唯一自分を表現できるかけがえのないもの。
戦争にとられた婚約者を待つ、女性の思い。そして、現実の戦争で苦しむ人々と、留学を断念した自分の思い、戦争の不条理さをバレエに重ねます。「人生狂ってしまったのかもしれないけど、ロシアの留学だけが人生ではないし、まだたくさん道はあると思うので頑張ります」と、美しく踊り続けていました。
CBCテレビ「チャント!」5月18日の放送より。