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伊勢湾台風から60年~生後1か月で被災した記者がたどる家族日記~

伊勢湾台風から60年~生後1か月で被災した記者がたどる家族日記~
画像『チャント!』二階から水をみつめる被災者

二百十日を過ぎて1週間の頃、首都圏を直撃した台風15号は、千葉県を中心に大規模な停電はじめ大きな被害をもたらした。
日本は過去多くの台風に見舞われて、その歴史からの「教訓」は沢山あるはずだと思っていたが、今回も新たな「教訓」を数多く残すことになった。停電がほぼ終息したタイミングで、9月26日もうひとつの「台風15号」がちょうど60年という日を迎えた。
1959年9月の台風15号、別名「伊勢湾台風」と名づけられた台風である。

未曽有の災害「伊勢湾台風」

画像『チャント!』CBC玄関前の直撃の夜午後9時半ごろ

伊勢湾台風は今から60年前に1959年(昭和34年)9月26日夕刻、紀伊半島に上陸してその夜に東海地方を通過した。満潮時刻と重なったため高潮が町を襲い、名古屋市南部を中心に甚大な被害が出た。死者・行方不明者5098人、地震や津波を除くと明治以降では最悪の自然災害となった。
生後1か月だった筆者は、名古屋市南部である中川区の木造家屋に暮らしていた。家は壁が吹き飛び、水は床上まで浸かった。幼い頃からずっと両親や祖父母から、当時の話を聞かされてきた。台風が過ぎた後もしばらく水が引かず、親戚の家まで筏に乗って赤ん坊の私を風呂に入れに行った苦労も度々聞かされた。

家族の日記は「恐怖の一夜」を語る

私の家族は日記をつける習慣があり、母、祖父そして祖母と、3冊の日記帳が手元に残っている。そこには被災当時のことが克明に記されている。

母の日記より・・・
「ラジオは何回も何回も、大型台風が東海地方に最悪のコースに近づいてくることを繰り返し放送していた。(中略)午後八時ころは台風が荒れ狂っていた。すでに停電してしまった茶の間でじっと時間が過ぎることを祈っていた。突然、ドカーンという物音がした。南側の部屋の壁が抜け落ちたのである。(中略)飛んできた瓦で何枚かの雨戸が飛び、ガラスが割れた」

祖父の日記より・・・
「台風は最悪のコース。午後八時半には流石にこれは凄いと思ふ程の暴風雨、物凄い音に見れば、東南の八畳間の壁は落ち雨戸が一枚とんで風の吹くまま。とり敢えず境のカラカミを盾に畳を持ち上げ防御。(中略)午後十時、風は台風の通過と共にウソのようにおさまった。玄関を見ると相当の浸水だ。一分間に八粍(ミリ)の割で増しているわけ。これはえらい事になった、愈々(いよいよ)畳上げだ」

祖母の日記より・・・
「午後七時半頃から強風は吹く。八時半には物凄い。電気は駄目。トランジスタラジオで刻々と送られる予報をききながら神に祈った。部屋の硝子が割れて風が吹き込む。早速畳をはがして境に立てかけた。その中に別の部屋の雨戸が飛び、強風が吹き込む。(中略)
風がおさまると共に水が増す。ついに床上五寸(※一寸=3センチ)、次第に増す水の中で赤ちゃんを抱いて一夜を明かす。長い夜だった」

60年の歳月を経て読み返しても、風そして水の恐怖が胸に迫ってくる壮絶さだ。

強風が今度は首都圏を襲った

画像『チャント!』濁水の中の中継現場

60年前の台風15号の最大瞬間風速は55.3メートル、今回2019年の台風15号はそれより強い57.5メートルだった。
1年前の2018年9月に北海道を襲った地震、そして関西地方を直撃した台風21号などを受けて、全国の大手電力会社は、送電と配電の設備を緊急点検した。結果は「問題なし」。しかしその1年後に千葉県では2000本(推計)の電柱が倒壊したり損害を受けたりし、大規模な停電につながった。

「想定外」という言葉の盲点

画像『チャント!』流木の山

情報伝達不足、県や国の災害対策本部の遅れ、電力会社の復旧見通し誤算、など様々な問題点が指摘される中、「想定外」というキーワードが度々口にされている。
「想定」とは何なのだろうか。行政、そしてライフラインを守る企業は、この「想定外」に対してどこまで的確に対応できるかがあらためて問われている。そして私たちは私たち自身で身を守ることも再認識したい。それには日頃からの防災意識が必要になる。

伊勢湾台風が近づきつつある頃のことを、祖父は「今から思えば確かに大きな油断があった。今までの経験から夢想もしなかった」と日記に綴った。祖母は「朝から台風の予報がきびしかった。心配になり電池を購入した。柱に掛けるランプも3個買った」と日記に綴った。
伊勢湾台風から60年。災害には昔も今もない。こうした節目に当時を知る人の記憶を通してあらためて「教訓」に触れながら、自然災害との向かい合いについて謙虚に考える機会にしたい。

【東西南北論説風(126)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

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