予兆は前年から?オール左打線から始まっていた崩壊~検証・井上竜の誤算(采配編)

中日ドラゴンズの井上一樹監督が、成績不振から竜のユニホームを脱ぐ。チームは新監督の下で出直すことになるが、かつてのような常勝チーム復活を願って、井上竜の2年間を2回に分けて検証する。その「采配編」である。(敬称略)
開幕戦での“つまずき”

数多くの野球評論家が「阪神タイガースの対抗馬」に挙げたように、投打の戦力は整っていたはずだった。井上監督2年目のシーズン、そもそもの“つまずき”は、2026年(令和8年)3月27日、広島での開幕ゲームにあるという見方は多い。先発の柳裕也が好投し、4点のリードで迎えた最終回に、抑え投手のアルベルト・アブレウが大誤算だった。まさかの逆転負け、応援するファンもショックを受けた。アブレウは腰に異常をきたしていて、試合後は自力で歩けなかった。体調の異常をベンチの誰も気づかなかったのか。
信じられない負けが続く

悪夢の開幕戦から始まったペナントレース、今季は一体いくつ、「まさか」という敗戦ゲームを見せられたことだろう。4月早々には、高橋宏斗(※「高」は「はしごだか」)が5点のリードを守れなかった。守備固めの選手の致命的なエラー、代走選手が9回に仕掛けてまさかの盗塁死もあった。5月には、終盤に逆転満塁ホームランが出ながらも再逆転負けした試合、7点リードしながらも最後は抑えの松山晋也がサヨナラホームランを打たれた痛恨の試合もあった。
巨人には1イニング10失点
度々のサヨナラ負けがあったセ・パ交流戦後も「まさか」の連鎖は止まらない。古巣のドラゴンズではなく讀賣ジャイアンツを選んで、日本球界に復帰した小笠原慎之介には、帰国後の初勝利を献上。8月のバンテリンドームでの試合では、1イニングに10点も奪われて、またしても小笠原に勝ち投手をプレゼントした。同じく元同僚のライデル・マルティネスにも目の前で250セーブを達成された。
勝ち切れないベンチ采配

シーズン143試合の戦いを終えて、60勝81敗2分で負け越しは21。この内、逆転負けの数は実に40と敗戦の半数を超えた。90年もの球団史上で最多である。サヨナラ負けにいたっては12度もあった。ゲーム終盤に逆転を許す中継ぎ投手陣の問題が指摘されるが、同時に、そこにいたるまでに追加点を取れない打線にも問題がある。そして何より、リードしても勝ち切れないベンチ采配、そこにはファンから見ても「なぜ?」と思われる采配が多かった。
5番・石川に代打の「まさか」

象徴的だったのが、8月後半のバンテリンドーム、東京ヤクルトスワローズとのゲームである。同点で迎えた7回裏、無死1、2塁のチャンスで5番の石川昂弥に、代打の石伊雄太が送られた。石川本人も「信じられない」という表情を見せていたが、ファンとしても「まさか」だった。送りバントという作戦、しかし、石川はクリーンアップの「5番」である。その瞬間、井上竜は「ポジティブ(積極的)」を前面に打ち出していたチームのはずだと思い出した。
オール左打線の驚き
「まさか」という逆転負けをくり返す井上采配、その“つまずき”の一歩は、昨シーズンの“ある試合”から始まっていたのではないだろうか。それは、2025年(令和7年)8月17日、バンテリンドームに横浜DeNAベイスターズを迎えてのデーゲームである。ベイスターズの先発は、米国から3年ぶりに日本球界に復帰した藤浪晋太郎だった。藤浪はコントロールに難があり、右打者への死球が多い。このため、ドラゴンズベンチは1番から9番まで全員左打者を並べるスタメンを組んだ。
そこに「ポジティブ」はあるのか?
結果は、藤浪に5回まで1点に抑えられて負けた。その2週間後の8月31日にも、同じ先発の藤浪に対してスタメン8人を左打者にした。この直前の2試合、ドラゴンズ打線は絶好調でそれぞれ9得点を挙げていた。その得点力のある打線を崩してでも、死球の可能性を敬遠した。またしても敗れ、藤浪に復帰後の初勝利を手渡した。この2試合のスタメンのどこが「ポジティブ」なのだろうか。
ベンチは一丸となっていたか?

采配の責任はもちろん監督にある。それを支えるのがベンチで横にいるコーチ陣である。スタメンを組むことにも、投手陣への起用にも、その意見は反映される。監督の目の行き届かないところは“直言”してでもフォローすることが役割だ。しかし、今季のドラゴンズは、前の試合で活躍したにもかかわらずスタメンを外れた打者、勝負どころのリリーフで打たれてしまう投手、そんな“采配が当たらない”ことが多すぎた。その結果が、シーズン前は高い評価を受けながらも、優勝どころか、14年連続でクライマックスシリーズにすら出場できない現在地なのだ。
まもなく新しい監督が決まる。今度こそ、そう今度こそ、強いドラゴンズを復活させてほしい。そのためには失敗に真摯に向き合い、反省し、その上での変化を決して恐れないこと。“勝つドラゴンズ”が見たい。そうでなければ、満員御礼が続く本拠地のスタンドも、明日の姿は決して分からない。
※「優秀な“2軍監督”しかし“1軍の名将”たらず~検証・井上竜の誤算(リーダー編)」も合わせてお読み下さい。
【CBCマガジン専属ライター・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)ほか。
















