“竜”の細川成也ここにあり!懐かしく思い出す「ポパイ」と呼ばれた強打者

“竜”の細川成也ここにあり!懐かしく思い出す「ポパイ」と呼ばれた強打者

「細川成也選手、ドラゴンズに来てくれてありがとう!」ほとんどの竜党が思っているはずだ。中日ドラゴンズに移籍して最初の2023年シーズン、ここまで打率.330、打点32、ホームラン6本、堂々たる成績である。24歳の細川選手は、初の現役ドラフトで、ドラゴンズの一員となった。(成績は2023年6月12日現在)

現役ドラフトの“優等生”

「サンデードラゴンズ」より細川成也選手©CBCテレビ

2022年12月に実施された「現役ドラフト」。各チームの戦力事情から、他球団に行けば活躍できそうなのに、くずぶっている選手、特に若い選手に出場の機会を与えようと、選手会からの要望を受ける形で初めて行われた。

半世紀以上前の1970年(昭和45年)には金銭トレードを対象にした「選抜会議」、1990年(平成2年)には「セレクション会議」などがあったが、定着はしなかった。当時、移籍後に目立った活躍をした選手も、ほとんど思い浮かばない。制度は定着しなかった。

このため、今回の「現役ドラフト」も、「まずはやってみて」という受け止め方が多かった。しかし、福岡ソフトバンクホークスの育成選手から阪神タイガース入りした大竹耕太郎投手と、横浜DeNAベイスターズからドラゴンズ入りした細川選手、この2選手の活躍を筆頭に、制度自体が一気に注目された。投打2人揃って5月の月間MVPを受賞したことが、その象徴である。

沖縄キャンプでの猛特訓

「ゼロからの出発」として、ドラゴンズで背番号「0」を選んだ細川選手は、立浪和義監督をして「春季キャンプのMVP」と言わしめた。沖縄での猛練習、新しく就任した和田一浩打撃コーチとの特訓は連日のように続いた。

かつて“世界のホームラン王”王貞治さんには荒川博コーチが、また、ドラゴンズで2度にわたって首位打者を取った福留孝介さんには佐々木恭介コーチが、選手と名コーチの出会いが、その選手を大いに成長させた歴史がある。右のスラッガーとして、竜の4番も打った和田コーチの指導によって、細川選手の打撃には“新しい芽”が生まれた。いや、もともとの才能が覚醒したとも言える。

力強さと勝負強さ

「サンデードラゴンズ」より細川成也選手©CBCテレビ

細川選手の魅力は、その力強さである。開幕戦はベンチで迎えた。しかし2戦目の東京ドーム、4月1日の讀賣ジャイアンツ戦、8回ツーアウトで代打に起用されると、移籍後の初打席で初安打を記録した。

翌日のゲームでは、1塁を守って初スタメン、8回表には同点タイムリーとなるレフト前ヒットを打ったが、この打球の強さに、目を見張った。打った瞬間、ボールは外野へ飛んでいた。

吉川克也ドラゴンズ球団社長が、こんなエピソードを楽しそうに話してくれた。入団発表の時、カメラマンの注文で、細川選手の肩に手を回そうとしたけれど、胸板が立派すぎて、それは容易ではなかったそうだ。その大きな身体から放たれる弾道。そして、もうひとつの魅力は、勝負強さである。「あと1本」がなかなか出ない、昨今のドラゴンズ打線の中、ここという時に打ってくれる細川選手は、実に頼もしい。

「ポパイ」と呼ばれたスラッガー

ひとりの右打者を思い出す。井上弘昭さん。広島東洋カープから移籍し、1973年(昭和48年)から8年間、ドラゴンズのユニホームを着た。2年目で迎えた20年ぶりリーグ優勝の立て役者のひとりである。

応援歌『燃えよドラゴンズ!』の記念すべき最初のバージョンで「3番、井上、タイムリー」と歌われた選手だ。その歌詞の通り「タイムリー」が代名詞になるほど、勝負強さが光った。

優勝の翌年1975年は、全試合に出場してヒットを量産した。リーグ最多の149本を打ったが、首位打者争いでは、かつての同僚だったカープの山本浩二選手に僅差で敗れた。タイトルがかかった最終打席、思いもかけないデッドボールに「当たっていない」と何度も言い張った。ボールは当たっていたのに。その姿に、1打席にかける気迫を見た。

ニックネームは「ポパイ」。ドラゴンズファンは「ポパイ井上」のガッツ溢れるプレーと、勝負強い打撃を愛した。細川選手の姿に、ドラゴンズ史に残る、そんな打者を懐かしく思い出した。

勝ったり負けたり、セ・パ交流戦に入っても、乱高下が続く立浪ドラゴンズ。しかし、何もなくすものがない原点から、ドラゴンズブルーのユニホーム姿で歩み始めた細川選手の心意気こそ、この低迷を脱け出す道につながるはずである。そう信じながら、ドラゴンズファンは、打席に向かう背番号「0」に、今日も手が痛くなるほどの拍手を送る。
                         
  
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『屈辱と萌芽 立浪和義の143試合』(東京ニュース通信社刊)『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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