ドラゴンズ“立浪塾”が熱い!根尾そして岡林ら“塾生”たち覚醒の手応え
NHK大河ドラマ『青天を衝け』がスタートした。新しい1万円札の顔にもなる実業家・渋沢栄一の生涯を描くものだが、ドラマ最初の舞台となる幕末、その歴史の歯車を大きく動かした藩のひとつに長州藩がある。原動力となったのは吉田松陰が指導した「松下村塾」。高杉晋作や伊藤博文ら志高き若者たちが塾から育ち、時代の舞台で躍動した。
ついに登場した“立浪コーチ”
2021年ドラゴンズ春季キャンプで熱い視線を集めているのが、球団OBである立浪和義さんの指導、いわゆる“立浪塾”である。球団から要請を受けて、臨時コーチに就任した。2013年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)侍ジャパンでの打撃コーチ以来の選手指導であり、2009年の現役引退後、ドラゴンズ球団からの公式なコーチ依頼は実は初めてとなる。
西沢道夫さん、高木守道さんに次ぐ「ミスター・ドラゴンズ」、その指導ぶりにはキャンプインから大きな注目が集まった。高卒ルーキーで即レギュラー、22年間の現役時代に2480安打を積み重ね、中でも放った2塁打487本は今なお破られていないプロ野球記録である。その立浪さんが教える“キャンプ道場”である。
若竜たちへの熱血指導
現在のドラゴンズには左打者だった打撃コーチはいない。森野将彦コーチが退任した2019年シーズンオフから、打撃コーチは右打者ばかりだ。もちろんバッティングの基本というものは左右問わず同じであろうが、実際にバッターボックスに立てば、そこには明らかな違いは生じるはずだ。新人王を獲ったシーズンをピークとして打撃が課題となっている京田陽太選手はじめ、根尾昂選手、岡林勇希選手、ルーキーの三好大倫選手ら有望な“左打ち”の若手は多い。立浪さんは、さらに2年目の飛躍が期待される右打者の石川昂弥選手にも大きな関心と期待を寄せた。左も右も彼らの成長は、3年目を迎える与田ドラゴンズ、その春季キャンプの至上命題でもある。
根尾の好発進にファン喝采
いきなり根尾昂選手が飛び出した。初の対外試合となった2月13日の横浜DeNAベイスターズ戦、根尾選手は「1番ショート」で先発出場した。3安打の“猛打ショー”。圧巻だったのは、3打席目にレフト線に放ったツーベースだった。外角のボールを見事に流し打ち、それもバットをきちんと振り切っているだけに、力強い打球だった。ましてや打った投手は、かつて京田選手と新人王を争った5年目の実力派左腕・浜口遥大投手。残りの2安打も、しっかりバットを振っての成果だった。
このゲームでは、1年後輩の岡林勇希選手も2番に入って2安打。こちらも振り負けていない力強い打撃だった。ゲームに臨むにあたって与田剛監督は「結果がすべてではない」と話していたが、内心は嬉しかったに違いない。
根尾選手は2月16日の練習試合でもヒットを打ち、三好選手のタイムリーで生還するなど、その活躍は続いている。
甲子園春夏連覇の師弟
立浪臨時コーチの教えを受ける中で、根尾選手は「間合いの大切さ」を口にした。ドラフト会議を経てプロの世界に進む選手たちは、もちろん力の差はあるにしても、プレーヤーとして一定のレベルには到達しているはずである。それまでのフォームなどを一から解体して教え込むケースもあるが、多くの選手は、ある“きっかけ”で飛躍を遂げる。それは、たったひとつの指摘、または指導者からのひと言かもしれない。根尾選手の場合は、現時点それが「間合いの大切さ」だったのだろう。立浪さんの教えを受けて、早速きわ立った一打が2塁打だったことが嬉しい。プロ初安打も最後の安打も「ツーベース」だった立浪さん。さらに立浪さんと根尾選手には、高校時代に甲子園で春夏連覇を達成した輝ける共通点がある。注目のプロ入りから過去2年間しっかり待たされただけに、背番号「7」の覚醒へファンの夢は広がってくる。
臨時コーチ花盛りのキャンプ
新型コロナウイルスによって、ファンの応援がない「無観客」という異例の事態となった春季キャンプ。立浪さん以外にも、東京ヤクルトスワローズでは、野村克也さん“監督時代の申し子”古田敦也さんが臨時コーチとして古巣を指導している。この2球団と同じセ・リーグの阪神タイガースには、かつて落合博満監督の時代にドラゴンズでも活躍した“バントの神様”川合昌弘さんが、また、千葉ロッテマリーンズでは、最も喫緊の三冠王、福岡ソフトバンクホークスの主砲だった松中信彦さんが、それぞれかつての所属チームを越えて、熱い指導を続けている。こうした一流選手の教えが、若い選手たちの大切な気づきに結びついてくれれば、今季ペナントレースで活躍する選手が増えることだろう。
つい先日キャンプインしたと思ったら、もう春季キャンプも後半戦。あっという間にペナントレースの開幕がやってくる。コロナ禍に負けず、予定通り球春が訪れることを祈ると共に、“立浪塾”からの“塾生”たちが、球団創設85周年を迎えた中日ドラゴンズの歴史を大きく動かし、その新たなページに名前を刻んでくれることを願ってやまない。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】