沖縄の夜に響く打球音の正体!ドラゴンズ根尾昂の夜間特訓は実を結ぶか?
海を染めて早春の陽が沈む。夜の帳(とばり)が下りた沖縄県北谷町。中日ドラゴンズの1軍キャンプ地、球場の横にある屋内練習場に明かりが灯っているのに気がついた。
何が起きているのか? 宿泊ホテルから10分ほどの練習場に夜の町を急いだ。
打球音に引かれて夜の球場へ
ひっそりと静まり返った球場の横を抜けると、ブルペンを経て屋内練習場がある。近づくと「カーン」「カーン」という音が耳に入ってきた。打球音だ。誰かがボールを打っている。ドラゴンズの練習時間はとっくに終わっている。しかし、誰かが練習しているのだ。そして、それはおそらく・・・。
予想は的中した。根尾昂選手がティー打撃練習をしていたのだ。遠目に見ると、パートナーは1期下の岡林勇希選手のようだ。トレーニングウェア姿の2人は時おり会話を交わしながらボールを打ち、それを集めてまた打って黙々と練習していた。横では武田健吾選手も打っていた。根尾選手は、その日の昼間、車で1時間ほど北に走った名護市での練習試合にスタメン出場し、タイムリーを放つ活躍だった。その当日夜のことだった。
根尾「待ったなし」3年目
プロ入り3年目を迎えた根尾選手にとって、2021年シーズンはまさに「待ったなし」と言えるだろう。高校時代は、甲子園球場を舞台に投げて打っての大活躍で、春夏連覇を成し遂げた。その栄光を背負って、全国注目の中での地元ドラゴンズ入り。しかし、一筋縄ではいかないのがプロの世界だった。2年間での1軍出場は11試合に留まり、ヒットはわずか2本。そんな中、石川昂弥選手や高橋宏斗投手ら甲子園の後輩スターたちが次々と入団してきた。19歳になったばかりの岡林選手も高い評価を得ている。根尾選手にとっては「まだ3年目」いや「もう3年目」。活躍しなければ忘れ去られる世界である。それは間違いなく根尾選手本人も理解しているはずだ。
虎の佐藤・巨人の秋広に負けるな!
他球団からは、新しい戦力たちの勢いある息吹が伝わってくる。阪神タイガースではドラフト1位で入団したスラッガー佐藤輝明選手が、毎試合毎試合、まるで“10年選手”のような迫力ある打棒を見せている。讀賣ジャイアンツの高卒ルーキー秋広優人選手は、その2メートルを超す身長から繰り出す多彩なバッティングで、開幕スタメンの可能性すら語られ始めている。
ドラゴンズには誰がいるかと考えた時、同じルーキー高橋宏斗投手は2軍の読谷組だったため、やはり背番号「7」根尾選手に行きついてしまう。現在のチームは新戦力の全国的な売り出しアピールについて、どちらかと言えばおとなし過ぎる印象、だからこそ根尾選手には自らの力で、全国区のステージに飛び出してほしい。
野球漬け24時間の末に・・・
レギュラーへの道、それは「打つ」ことである。キャンプで初の臨時打撃コーチをつとめた立浪和義さんは、沖縄を離れる日の午後まで球場に残り、打撃練習を見守った。目線の先のケージには根尾選手の姿があった。ショートのポジションを狙う限り、京田陽太選手を凌駕するほど打たねばならない。それを十二分に理解しているからこそ、根尾選手の連日の打撃“猛”練習が続くのだろう。
午後7時すぎに夜間練習する目撃談を語ったら、同僚であるCBC宮部和裕アナウンサーは「自分は午前7時すぎに練習する姿を見た」と早朝練習の目撃談を返してくれた。朝の7時も、そして夜の7時も、根尾選手の沖縄キャンプ24時間はバットと共にあった。
努力したら報われる、プロの世界はそんな甘いものではない。しかし、努力しないものは生き残れない。これもプロの世界である。
暖かい南風が頬に優しい北谷の夜、心に残る若竜の練習風景に立ち会うことができて、幸せな気持ちで球場を後にした。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】