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チームが同じ方向を向くためにできること。中日の元守備職人、渡邉博幸スコアラーの目指す道

チームが同じ方向を向くためにできること。中日の元守備職人、渡邉博幸スコアラーの目指す道
チームが同じ方向を向くためにできること。中日の元守備職人、渡邉博幸スコアラーの目指す道

「中二の息子が、初めて、オレのことで泣いたんだよ」

ドラゴンズ新スコアラーの渡邉博幸(わたなべ ひろゆき)さんは、現役時代は守備職人としてゴールデングラブ賞を受賞。引退後2009年から2018年まで、長くコーチを務めてきました。

しかし2018年秋、チーム低迷による首脳陣の刷新により、コーチの職から離れることになりました。

野球少年の息子さんにとって、多感な年頃でもあり、スポーツ紙やネット上には、戦力外通告などの記事が並ぶことで、プロ野球の世界の厳しさを内外から感じとる、不安な時期だったと思われます。

「幸いにもオレは、スコアラーとして、引き続き、雇っていただけたから」と語る渡邉博幸スコアラー。

ならばと、大好きなドラゴンズに関わる新たな持ち場で、背番号は無くとも、ジャージ姿で、カメラとパソコンを抱えながら、最終日までキャンプ地内を駆け回っていました。

スコアラーの仕事

そもそも、スコアラーとは、シーズンオフも自軍と他チームを分析し、公式戦試合前に傾向と対策を伝え、ベンチ入りする一人が、随時情報を提供する仕事。

さらに今春、最新機器を取り入れ、選手に役立てようとしています。

それが設置された場所は、ドラゴンズキャンプ地において、常勝時代の礎ともいえる豪華8人ブルペン。

そのブルペンの一番端に、投球を撮影、解析するカメラが立てられています。投球の背後からの映像を一球ごとに、本人がその場でチェックできるシステムが登場。投げてから9秒後のディレイ再生。その遅延具合は、早すぎても遅すぎても、投球のリズムを崩します。

これは捕手からの返球のテンポにもよるので、キャンプイン後も試行錯誤が続きました。

投球を撮影、解析する新システム(C)CBCテレビ

与田監督からのリクエストでもあるこの新システムは、北欧のダートフィッシュ社製で、過去の画像とフォームを重ね合わせたり、二画面分割で見比べることもできます。

早速、選手から大歓迎。キャンプで固めたフォームが、実戦でズレていないかをチェック。今、まさに自分の体の動きを客観視できることで、即座に修正できるのです。

例えば、昨秋の侍ジャパンでも活躍の佐藤優投手は、「投球の全ての基本、右足で『立つ』、『踏み込む』動作の感覚と実際とのズレをすぐ観て直せます。左足の着き方は、硬く変わったナゴヤドームのマウンドへの対応にも役立ってます」と欠かせない存在に。早速、オープン戦で、新マウンドも体感、映像を修正に活かしています。

コーチ経験を持つスコアラー

さらに、渡邉スコアラーは、先輩スコアラー陣が皆で考えた方法論に、かつての守備職人と前コーチとしての経験を加え、こう語ります。

「凄くイイですよね。ただ、システム自体は、ホークスなども以前から取り入れてるし、データは、いくらでも集めることはできます。
昨年からのトラックマン導入もそう。投球の回転数や軌道、打者ならスイングスピードなど、いろいろ出ますよ」

ただ、問題は、活かし方であると続けます。

「二軍から一軍に抜擢された頃の客観的なデータと不調時のズレとその裏付けに。プロとしての直感も大事だけど、今はそれだけでは、乗り遅れる。他チームも高めてるとこだから」

また、打者陣にとって、キャンプ中の今しか集められない映像があるといいます。

「センターバックスクリーン方向からのカメラ。これは、公式戦はもちろん、オープン戦でも、各チーム互いに撮ることは出来ないから。だから、キャンプの時期にだけできた収集が、大切だったんです」

「それと、将来的には、守備シーンをもっと集めて整理したいですね。打球を裁く各野手の動き。実は、守ってる当人は、なかなか気づかないんだよね。打球への間合い、ボールとグラブが衝突してないかとか。膝をもっと曲げたら捕れたのにとか。当たり前のプレーだけど、映像で見て、すぐに練習で意識して、試合では無意識にできるように」

と、渡邉スコアラーは、自身がゴールデングラブ賞受賞者らしい将来性を描いています。

各スコアラー陣、キャンプ地のホテルの自室に戻ってからも、集めた膨大な情報を日々、フォルダ別に仕分けして、各選手がタブレットで、すぐにいつでも自分のデータにアクセスできるようにしてきました。まさにそれを活かすのがこれから。

与田監督が語った「勝つために」必要なこと

「でも、やっぱりね。一番大事なのは、人間の集まりということだね」

「与田新監督がまず語った、勝つために、プロチームが同じ方向を向くこと」

これを自分なりに理解していくという。

昨年までのコーチ時代のこと。ある選手に対して、スコアラーが、彼のためと思い、データを提供する際、熱心なあまり『指導』をしているように見えた。それを快く思わない同僚コーチもいたというのです。

今季、逆に自分がそうなってはいけない。立場を区別しないと。そのために必要な線引きとして「身振り手振りを加えない!ということかな。基本的なことだけど。そういうわきまえって、大切だと思う」と語る。

「だから今は、コーチ経験を踏まえたイイスコアラーになりたい。コーチ職に戻るための手柄作りの手段にしたくない。球団に感謝しているからこそ、今年は、選手が求めてくるであろうデータをいつでも提供できるフォルダーを作っていきたい。そのフォルダーを見た回数が多いと嬉しいしね。もし、SNSみたいに、いいね!マークが付いたら楽しいね」と笑顔の渡邉スコアラー。

全ての役割は、チームが同じ方向を向くために。ここから始まっているチーム再興。燃えよ!ドラゴンズ!

【CBCアナウンサー 宮部和裕 CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週水曜午後6時放送)他、ドラゴンズ戦・ボクシング・ゴルフなどテレビ・ラジオのスポーツ中継担当。生粋の元少年ドラゴンズ会員。山本昌ノーヒットノーランや岩瀬の最多記録の実況に巡り合う強運。早大アナウンス研究会仕込の体当たりで、6度目の優勝ビール掛け中継を願う。】

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