「命の選別」なのか? 出生前診断で「異常あり」 重い選択を迫られた女性たちとその家族の決断
妊婦がお腹の赤ちゃんにダウン症などの障害の有無を調べる「出生前診断」。「異常がある」と診断され、「産む」か「産まない」か、難しい決断を迫られた女性とその家族たちに密着しました。
600~800人に一人の割合「ダウン症」
5月、愛知県岡崎市の寺に24組の親子連れが集いました。集まった子どもたちは皆、生まれつきの疾患「ダウン症」があります。この会の目的はただ一つ、「ダウン症の子どもを育てる家族が互いに知り合いになること」です。会を主催したのは山本有希子さん(41歳)。生後8か月の娘、紬葵ちゃんもダウン症です。
ダウン症とは、21番目の染色体が通常より1本多い3本になることで発症する先天性の疾患。600人から800人に1人の割合で生まれ、知的発達の遅れや心疾患などを伴うケースもあります。山本さんは紬葵ちゃんを妊娠中にダウン症と知らされました。
(山本さん)
「(医師から)『妊娠の継続をどうするかっていう話になるかもしれない』っていうことをポロッと言われて、私もパニックになった」
妊婦検診で胎児の異常が疑われ、その後の「羊水検査」でダウン症と診断されたのです。「産む」か「産まない」か・・・
山本さん夫婦には長女がいます。そのため、「付きっきりの介護が必要な子が生まれてきたら長女の人生まで狂わせてしまうかもしれない」と悩みました。
(山本慎二さん・夫)
「この子がここに来てくれた、なかなか2人目ができなくてやっとできたということもあるし」
大きな葛藤がありましたが、「産む」ことを決断しました。
「新型出生前診断」を受ける理由
あいち小児保健医療総合センター。「新型出生前診断=NIPT」でお腹のあかちゃんの異常の有無を調べ、難しい選択を迫られる夫婦はあとを絶ちません。早川医師が来院した夫婦に、今一番不安に思っていることや気になることはあるか聞きました。
(夫)
「やっぱり、障害ですね。そこが気になりますので検査をした方がいいかなって」
「新型出生前診断」は日本では2013年に導入され、受けられるのは原則35歳以上。胎児のダウン症など3種類の染色体異常が判定できます。この病院での検査費用はおよそ15万円で、月に40人ほどの妊婦が受けています。日本では導入以来、検査する妊婦は増えていて7年間で8万6000人を超えました。
(早川医師)
「高齢出産の方が多くなっているので(検査数が)徐々に増えてきていると感じる」
採血だけで判定結果がわかる上、晩婚化が進む中で「高齢出産」が増えていることも要因だといいます。ダウン症の確率は高齢の妊婦ほどリスクが高くなります。
この日は、30代後半の夫婦が新型出生前診断の結果を聞くために来院しました。検査結果は異状なし「陰性」でした。
(30代後半の妊婦)
「初産でやっぱり心配で。結果がわかっていれば心の準備をして産んであげられる。異常がなければないで今後の妊娠を楽しめるかなと思って」
重い選択からの罪悪感
ある日、妊婦検診を受けに来た30代の女性は、過去に「重い選択」を迫られました。
(30代女性)
「(こどもを)おろすってことは、生きられない。やっぱり命の選別になっちゃうから、のちのちの罪悪感とかあったりするのかなって悩みました」
4年前、初めての妊娠で受けた羊水検査。結果は異常あり「陽性」でした。夫婦で何度も話し合い、最終的に「中絶」を決断しました。
(30代女性)
「月命日はお墓参りにいっている。正解はないと思いますけど、人にとやかく言われるのもちょっと違うと思う」
検査で「陽性」の場合 9割が「中絶」を選択
早川医師は、検査で異常を示す「陽性」が確定した場合、妊娠継続を諦める判断をする人がほとんどなのが現状だと話します。「陽性」は検査数の1、2パーセントですが、そのうち9割が「中絶」という選択をしています。
「産む」か「産まないか」の判断が、命の選別ではないか?という批判に苦しむ人たちは少なくないのです。
難しい選択を迫られる妊婦たちを支援するNPO法人はピアサポート「ゆりかご」を運営しています。ここではオンライン上で同様の悩みを経験した夫婦に相談することができます。代表理事の林伸彦さんは、「同じように悩んでいる人と話をしたい」という妊婦はたくさんいるので、人生で大きな葛藤や悩みをもっている瞬間に話をきくのが大事だと話します。
(山本さん)
「どちらを選ぶにしても自分で納得した状態でいろんなことをわかった状態で選んでねって。私もこのサポートで助けられた」
岡崎市の山本さん夫婦もこのサポートに助けられたといいます。それがきかっけで、ダウン症の子どもを持つ親を孤立させたくない思いから5月から集いの会を始めました。
会の参加者のカバンをよくみると、同じキーホルダーがついていました。これもダウン症の子とその家族を繋ぐきっかけになっています。
ダウン症の子とその家族をつなげるキーホルダー
キーホルダーを考案したのは名古屋市内に住む山口郁江さん(37歳)。3歳の娘・紗楽ちゃんは、生まれた後にダウン症と診断されました。紗楽ちゃんには合併症もあり不安なことばかりでしたが、すぐには相談相手が見つかりませんでした。
(山口さん)
「(ダウン症の子がいる家族を)すごく探したけど、なかなかいなくて。『誰か本当に見つけて』『私を見つけてください』って思って」
ある時、山口さんは病院の待合室で不安そうに赤ちゃんを抱いている夫婦に気づきました。もしかしたらダウン症のあかちゃんではないかと思い、話しかけようとしたものの、そのまま帰ってしまい後悔をしました。
それがきっかけで、何か「マーク」があればいいと思いつき、キーホルダー「ファインドミーマーク(みつけてくれてありがとう)」を作りました。
ダウン症の子どもを持つ家族が繋がる目印になってほしいと、一昨年インスタグラムにアップすると、驚くほどの反響があり全国から注文が相次ぎました。その数は2500個を超えていて、山口さんが1つ1つ梱包し無料で発送しています。
(ファインドミーマークを持つ母親たち)
「見つけて話しかけたことがあっ。こういうつながりができてうれしい」
「自分だけじゃない心強さがある」
診断を受けて「産む、産まない」はそれぞれの家族の判断。「誰も悪くない」とした上で
ダウン症の子の親として、山口さんはこれだけは伝えたいといいます。
(山口さん)
「合併症に関しては入院したり手術は大変だったりするんですけど、幸せですし、楽しくやっているので、それは世の中の人に伝えたい」
新型出生前診断は、日本産婦人科学会の指針をもとに、遺伝カウンセリング体制が整った約100の認定施設でのみ実施が認められてきました。しかし出産年齢の上昇に伴い診断を希望する妊婦が増加。カウンセリングの整っていない美容外科など無認証の医療機関での診断が急増していて、妊婦が診断結果を受け止められず、十分なカウンセリングも受けられないなど混乱する問題も起きていました。そこで日本医学会の運営委員会はことし2月、「検査を受けられる医療機関を増やすことや35歳未満の妊婦にも認める」という新たな指針を公表しました。
運営委員会は大学病院など169施設を、実施体制の要となる「基幹施設」に認証。いわゆる認定施設は約1.6倍に増えることになりました。運用は7月1日から開始されます。
CBCテレビ「チャント!」6月15日の放送より。