憧れの大谷翔平、上原浩治へ近づくために-中日梅津、藤嶋はさらなる進化へ闘志を燃やす
「【ドラゴンズライター竹内茂喜の『野球のドテ煮』】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム」
ケガスタートの初キャンプ
気づけば暦は12月。2019年シーズンが終了し、ドラゴンズロスになっているファンも多いはず。今年は与田監督がチーム再建に向け、若手を積極登用。その采配がズバリと当たり、多くの若い戦力が挙って力をつけた。それだけに来季に向ける思いは強い。中でも今週サンドラゲストの二人、梅津晃大投手、藤嶋健人の二人にはさらなる飛躍が期待される。
昨年の今頃、入団会見において“ストレートで押していく投手になることが目標”と抱負を述べてから早一年。梅津は山あり谷ありのルーキーイヤーを過ごした。新人合同自主トレで右肩に違和感(インピンジメント症候群)を覚え、はじめてのキャンプは体力強化に集中。開幕一軍を閉幕一軍に目標を切り替え、リハビリに励む日々が続いた。大学の同期で“東洋大三羽烏”と称された、横浜DeNAベイスターズの上茶谷大河投手、福岡ソフトバンクホークスの甲斐野央投手は開幕から順調なスタートを切ったことに、悔しい気持ちはあったものの、2人の活躍が心の支えとなって、太陽降り注ぐナゴヤ球場での練習に努めた。
転機となったフレッシュオールスター
そんな梅津に訪れた転機。それが故郷宮城で行われたフレッシュオールスターゲーム。オールウエスタンの先発としてマウンドに上がり、2回を無安打無失点の活躍で優秀選手賞を獲得。その賞以上に梅津が今でも忘れられないのが、登板前にブルペンで投げていた時につかんだピッチングの感覚だという。
“投げている間にふと思い出したフォームを試してみたら、それが見事にハマって。それからその感覚を忘れることなく投げられることができたのがその後の好結果につながったと思います。”
それから梅津の快進撃が始まったのはファンの皆さんにも記憶の新しいところ。8月12日、地元ナゴヤドームでの対阪神戦。プロ入り初登板初先発を見事白星に飾った後、三戦連続勝利をマーク。近藤真一(現・真市)投手以来32年ぶりとなる球団記録に並ぶ活躍を見せた。今季6試合に登板し、4勝1敗、防御率2.34を記録。年俸も300万円アップの推定1500万円の昇給を勝ち取った。
梅津の魅力はなんといっても、最大の武器は長身から繰り出されるストレート。今季、相手バッターのストレート見逃し率はチームトップとなる25.1%。同時に奪三振の内訳もストレートが13個と最も多く、彼の生命線のボールといえる。
梅津、2019年を振りかえる
番組では、そんな梅津にこの一年を振り返ってもらった。1、2月は技術が最もクオリティが低かったと自己評価。
“ケガスタートでしたが、リハビリコーチとしっかり話し合って、自分の中では前向きに捉えていました。ただ身体や技術に関してはゼロ。底辺に近い感じでした。”
5月あたりは体力が降下。実戦復帰を果たすものの、納得の投球ができず、心技が一致しない苦しい時期を過ごした。
“試行錯誤して技術は上がっていった。また肉体改造に取り組んでいた時期だったので、体力的にも疲労を感じていた時期でしたね。”
そしてデビューから三戦三勝した当時は、周りが思っているほど、そんなにプレッシャーを感じていなかったという梅津。逆に一軍で投げている舞台に心が躍り、最近では一番野球を楽しく感じたという。そしてそのままローテーションの一角を任され、シーズンを終えた。
丁度一年前、サンドラ出演時に自身の未来予想図として思い描いた1軍ローテ入りはプロ3年後。ルーキーイヤーで目標を達成しても梅津には達成感はない。同期・甲斐野の侍JAPANでの活躍が闘志に火をつけた。羨ましい気持ち半分、いつか同じ舞台に立ってやるという熱い気持ちが沸き起こり、このオフはさらなる肉体改造やフォーム改良に着手。憧れの存在、メジャーリーガーの大谷翔平に少しでも近づけるよう、オフも身体をいじめ抜く覚悟だ。
まさかの選手生命危機
今シーズン、右のセットアッパーとして確固たる地位を築いた藤嶋健人も振り返ればジェットコースターのようなシーズンだったに違いない。昨シーズン、高卒2年目で三勝を挙げ、一躍脚光浴びた藤嶋。オフの自主トレで肉体改造を施し、ストレートの球速アップに取り組んだ矢先の右手血行障害を発症。いきなり苦難が立ちふさがり、選手生命の危機に立たされた。2月に手術を受け、ボールを握ることも許されないリハビリ生活が続いた。当時について藤嶋は思い出すように語った。
“まさか自分がという心境でした。触ってもまったく感触がなかったですね”
野球をやるためならなんでもやる。二度目の手術に踏み切った3月。それからの一ヵ月後、光が見え始める。
“手術後、初めてボールを投げた時に、おっ!意外といけるな!と。自主トレでやっていた事が術後初めて投げた時も同じ感覚で投げることができたので、これしいけるなと思いました。”
怒涛の快進撃
6月16日、二軍で復帰登板。満を持して7月9日、ナゴヤドームでの対広島戦で287日ぶりの一軍復帰を果たした。ここから怒涛の快進撃が始まる。手術明けとは思えない力強さと安定感で、今季初登板から21試合連続無失点に伸ばすなど、シーズン後半は勝利の方程式の一角としてチームを支える働きを見せた。32試合に登板、14ホールド、防御率2.48と立派な数字を残し、1200万円から800万円アップの推定2000万円でサイン。地獄から天国へ一気に上り詰めた一年を終えた。
奇跡の復活にふたつの進化あり
藤嶋・奇跡の復活には2つの進化があった。ひとつ目はストレートの球速アップ。球速は昨年より平均2~3キロ速くなり、自主トレから取り組んできた筋力トレーニングをリハビリ期間中も継続したことが好結果となって表れた。
ふたつ目はストレートと変化球の腕の振り。もともとテイクバックが小さく、ボールの出所が見えにくいフォームに加え、ストレートと変化球を同じ腕の振りにすることで相手バッターに的を絞らせなかった。サンドラ解説者の川上憲伸氏も藤嶋の投球フォームを絶賛する。
“ストレートと変化球の腕の軌道が同じ。同じ軌道からボールが変化してくるのはバッターにとって厄介なはず。”
その結果、奪三振率は5.05からチーム2位となる10.86と、昨シーズンより飛躍的にアップ。来シーズンはより一層厳しい場面での登板も余儀なくされるだろう。またロドリゲスの退団が濃厚な今、藤嶋にかかる期待はさらに高まる。
“自分ががんばらなくてはいけないなという気持ちで来シーズンに臨みます。今のセットアップに満足せず、いつかはクローザーという気持ちでやっていきたい。”
夢のクローザーは憧れの存在につながる。意識してフォームを真似たレジェンドヒーロー、今シーズンで引退した上原浩治さんのような絶対的な抑えを目指し、藤嶋はさらなる進化の道を歩んでいくに違いない。
早まる投手王国再建
憧れの存在、目標の選手がいるからこそ、自身の実力について俯瞰的な見方でマイルストーンを置くことが可能となる。だからこそ梅津、藤嶋ともに、その目的を遂げるためならつらいトレーニングもいとわない覚悟でいることは確かなはずだ。来季の公約に2ケタ勝利を掲げた梅津、防御率1点台、言い換えれば絶対的リリーフを挙げた藤嶋。彼ら二人が切磋琢磨すれば必然と周りの選手の競争意識も高まっていく。もしかして、わが中日ドラゴンズの投手王国再建は急速にピッチが早まるかもしれない。ますます来シーズンの開幕が待ち遠しい。
がんばれドラゴンズ!燃えよドラゴンズ!
(ドラゴンズライター 竹内茂喜)