大野雄大にはドラゴンズブルーが似合う!5連続完投勝利の価値とFA権の行方
圧巻のピッチングに心からの拍手を送った。中日ドラゴンズの大野雄大投手が、球団記録に並ぶ5試合連続の完投勝利を達成した。2か月ほど前に同じナゴヤドームで23安打19得点を奪った広島東洋カープ打線を、2安打で完封するという力強い投球だった。
貯金なき“エース”への疑問符
半世紀以上の長いドラゴンズファンとして、実は大野雄大という投手については、どちらかと言えば厳しい目を向けてきた。かなり早い段階から一部で「エース」と呼ばれ始めたことへの違和感が理由だった。高木守道監督の第二次政権時代2年目、2013年から10勝、10勝、11勝と3年連続で2桁勝利を挙げた頃のことだ。
2015年に投球回数が200イニングを超えたことは立派だが、10勝すれば10敗、11勝しても10敗と、なかなか“貯金ができない”投手だった。一方で5年連続2桁勝利を挙げた吉見一起投手が、その5年間で69勝26敗と「43」も勝ち越していたことから、「チームを勝たせてこそエース」という思いがあった。野球が“勝負”である以上、通算成績で負け越している投手はエースではない。
大記録と初タイトルの覚醒
大野投手の覚醒は2019年シーズンだった。前のシーズンはベンチの起用方法にも起因したのかもしれないが、まさかの勝ち星ゼロ。土俵際のシーズンを迎えていたはずだ。
しかし、背番号「22」は力強くよみがえった。その頂点は、9月13日のナゴヤドーム、阪神タイガースを相手にしてのノーヒットノーラン達成だった。球団12人目、プロ野球界では81人目、スキのない見事な126球だった。最優秀防御率のタイトルも獲得した。念願の初タイトルだった。
それでも「エース」と呼ぶことができなかった。シーズンは9勝したが8敗、通算成績は58勝61敗とまだ負け越していたからである。「エース」という称号、そしてその座は、崇高であるべきだと厳しく見つめ続けた。
チームを鼓舞する大野雄大
新型コロナウイルスの影響で開幕が3か月も遅れた2020年シーズン。開幕投手をまかされた大野投手だったが、当初なかなか勝てなかった。7月31日、7度目の登板でようやく今季初勝利を手にした。
ところが、そこから大野雄大の2020年が一気に幕を開けた。初勝利も完投だったが、翌週の讀賣ジャイアンツ戦も完投勝利。そして次も、またその次も、マウンドを誰にも譲らなかった。
大野投手の完投勝利をエネルギーにしたかのごとく、竜は勝ち星を重ねた。8月は5カード連続の勝ち越し。最下位に甘んじていた順位も一気に3位に浮上した。その奮投がチームを鼓舞したことは明らかだった。大野雄大が“エースの働き”をした夏、ふてぶてしいまでの“ドヤ顔”が何とも頼もしかった。まるで別人のように思えた。
竜の歴代エースに並ぶか
84年を迎えたドラゴンズ球団史で「エース」と呼ばれた存在、真っ先に名前が挙がるのは杉下茂さん、そして権藤博さんである。続いて右腕ならば、故・星野仙一さん、小松辰雄さん、川上憲伸さん、現役の吉見一起投手。左腕ならば今中慎二さん、そして山本昌さんだろうか。数えるほどしかいないけれど、その名前はすらすらと思い浮かぶ。背番号と共に、その投球フォームも、その思い出のゲームも鮮明である。それが「エース」である。何よりの条件は「勝負どころという試合に必ず先発登板し、そして勝つ」ことではないだろうか。
この2年間だけをとれば、大野投手は間違いなく「エース」としての存在である。5試合連続完投勝利、左腕としては400勝投手の故・金田正一さん以来57年ぶりというのも素晴らしい記録である。
(それにしても「11試合連続完投勝利」という元・ジャイアンツ斎藤雅樹さんの日本記録は、今さらながら凄まじいと思う)
菅野との“エース対決”まもなく
大野投手の2020年シーズンはこれで5勝3敗となった(9月3日現在)。通算成績は63勝64敗、借金は「1」となった。「負け越しはエースではない」言わばひとつの“基準”ではあるが、いよいよ大野投手がその壁をぶち破ってくれそうだ。
次の登板は9月8日、本拠地ナゴヤドームでの首位ジャイアンツ3連戦の初戦であろうか。相手の先発に開幕9連勝の菅野智之投手がくるならば、両チームのファンはもちろん、プロ野球ファンを熱くさせる対決になる。そこで大野投手が勝てば、通算成績はついに五分。その時こそ、正真正銘の「エース」と呼ばせてほしい。そのためにも6試合連続完投勝利で飾ってほしい。
FA?いや生涯ドラゴンズで!
大野雄大投手の連続完投勝利が始まった日は、何の因縁か、大野投手自身が国内フリーエージェント(FA)権を獲得した日でもある。今季の契約で、複数年ではなく単年契約を選んだ大野投手の去就に、竜党はやきもきする。
でも、厳しい目で見守ってきただけに、あえて言わせていただきたい。
大野雄大という投手には、ドラゴンズブルーの背番号「22」がよく似合う。慣れ親しんだユニホームで「エース」として、今度は通算成績での貯金をどんどん積み重ねていってほしい。その明るい笑顔と共に。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲 愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。