優勝が目標のはず!与田ドラゴンズにもの足りない戦術と気迫
与田剛監督も、球団トップも、そして主力選手もシーズン前には口にしていた。
「今年は優勝しかない」
しかし、勝てない試合が続く。勝てるはずのもったいない試合が続く。20試合を戦って6勝11敗3分、「借金5」でリーグ5位。首位の阪神タイガースとは8ゲーム差がついた。ファンにとって悶々とした日々が続く。名古屋の街のまぶしい新緑ですら、どこか霞んだ色に見えてしまう。(数字は2021年4月19日現在)
ホームランが出ない憂愁
打てない。ここまで打てない中日ドラゴンズの姿は、半世紀以上ファンである身にとっても記憶にない。チーム打率.220はリーグ最下位、得点49はリーグどころか12球団で最下位、中でも最も象徴的なのは本塁打数である。20試合でホームランわずか3本。これも12球団で最も少ない。現時点のセ・リーグ本塁打王である東京ヤクルトスワローズ村上宗隆選手ひとりが打った7本の半分にも達していない以上に、続く横浜DeNAベイスターズの牧秀悟選手の6本、阪神タイガース佐藤輝明選手の5本と比べると思わずため息をつきたくなる。この2人はルーキーであり、ついこの春まで大学生だった。バンテリンドームは広いと言われるが、牧選手はホームランを打っている。言い訳は無用だ。
川上憲伸さん「逆転の発想」
2020年秋のドラフト会議直前に、かつてドラゴンズのエースだったCBC野球解説者川上憲伸さんと話す機会があった。ドラゴンズは投手1位指名でいく方針が伝わってきていたが、川上さんはこう語っていた。
「ドラゴンズが指名すべきは実はスラッガー、例えば佐藤輝明のような」
理由をこう明かしてくれた。「投手を育てるのは打者」なのだ、と。ドラゴンズが「投手王国」を再び築くためには、好投手を集めること以上に、実は強打者を集めることが必要であり、自分も現役時代は打者によって育てられた、と。
たしかに川上さんの現役時代、ドラゴンズの4番には福留孝介選手やタイロン・ウッズ選手らが君臨し、その前後にも強打者が揃っていた。ダヤン・ビシエド選手がコンディション不良で1軍を離れた途端に失速した現在のドラゴンズ、その残念な姿を見ながら、川上さんの“逆転の発想”を思い出す。
竜党“一喜多憂”の日々
シーズン当初はなかなか勝ち星がつかなかった先発投手陣にも、柳裕也投手や小笠原慎之介投手の好投によって手応えが出始めた。リリーフ陣はライデル・マルティネス投手の合流によって戦力は整った。残された課題は自明の理、「打つ」ことである。
“投”はチームを引き締め、“打”はチームに勢いを与える。
福留孝介選手の2塁打に興奮し、根尾昂選手のタイムリーに歓喜し、三ツ俣大樹選手のしぶとい打撃に拍手を送る。しかしその一方で、主力選手の多くがチャンスに凡退するシーンを見せられているのだろう。「あと1本」という悔しい言葉を何度口にしているのだろう。一喜一憂ではない。「一喜」はあるもののファンにとっては「多憂」、これが今のドラゴンズ打線である。
打撃の“旬”を起用する戦術
長いシーズンには好不調の波がある。今こそ、ベンチには“旬を活かす”采配に期待したい。1軍と2軍もちろん育成選手も含めて、チーム全体の中で、調子のいい選手を迅速に積極的に起用してほしい。昨今のドラゴンズは、他チームに比べて、1軍と2軍の選手入れ替えが少ない印象がある。ウエスタンでの勝利は、あくまでも1軍公式戦の勝利のための礎なのである。
プロ入り初の開幕1軍を勝ち取ったものの、4月半ばに登録抹消された2年目の岡林勇希選手が、2軍に降格した直後のゲームで4安打を放った。岡林選手が1軍で与えられた打席はわずか1度だけだった。チーム全体の旬の戦力を見極めた、攻撃的かつ柔軟性のある打撃ラインナップに期待したい。そして選手には、2021年のスローガン「昇竜復活 その先へ」の“先”を目指す、プロとしての気迫を見せてほしい。
「まだ〇〇試合」・・・激励の気持ちをこめて、隔週で出演しているCBCラジオ『ドラ魂キング』月曜日の番組で口にしたら、早速ドラゴンズファンの方からお叱りのメールが届いた。「もう〇〇試合」だと。
シーズンの143試合はあっという間に過ぎ去る。チーム全体で今一度あらためて噛みしめてほしい、「今年は優勝しかない」という言葉を。この決意に春霞がかかるのは、あまりに早すぎる。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】