「落合ノック」から10年 ドラゴンズ沖縄キャンプに見る令和時代の指導者像~最強の内野守備を目指して~
元監督の落合博満氏は、あのノックを振り返って言った。
「あんなことはもうできないよな。今だったらパワハラって言われるんだろ?」
あの頃、ドラゴンズの沖縄キャンプでは「落合ノック」が話題の中心だった。監督自らノックバットを持ち右に左に振り回す。特に井端・荒木・森野の3選手がターゲットだ。「打球に飛び込んではダメ、必ず1塁に投げる」が決まりだった。ぶっ通しで1時間~1時間半は当たり前。長い時は2時間を超えることもあった。森野が失神寸前まで追い込まれたのは、今もファンの間で語り草になっている。
就任3年目・荒木コーチの指導
沖縄・北谷のキャンプ地に内野守備を預かる荒木雅博コーチの姿がある。現役時代は落合氏が「あの8年間で『もう(練習を)やめとけ』と言ったのは荒木にだけ」というほどの猛練習で球界を代表する二塁手に成長した。その荒木コーチも元監督と言葉を揃える。「さすがに僕がやってきたことを、そのままやらせるわけにはいきませんから・・・」。現役を引退してまだ2年半しか経過していないが、今が当時のやり方だけで指導することができない時代にあることは十分に認識している。
キャンプ中盤、京田陽太の個別守備練習を見る機会に恵まれた。指導はもちろん荒木コーチ。5年目の京田は押しも押されもせぬショートのレギュラーだ。守備の成長は目覚ましく、まだ受賞していないゴールデングラブ賞も今年こそは、と期待させる。3年目の根尾昂が挑むポジションだが、現状ではまだ勝負になっていない。
京田の守備にわずかな癖を見つけていた荒木コーチは、まず対面して5mの距離を取り、素手でボールを京田に転がすところから始めた。ゴロ捕球の基本動作を繰り返す。打球に入る足の運び、その際の重心の掛け具合、グローブの位置、かかと・つま先の動きまで事細やかに言葉で説明する。
言葉で伝えその場で理解させる
「守備にスランプなし」と言われるが、荒木コーチによるとシーズンが進んでいくにつれ、疲れから悪い癖が顔を出し、ミスにつながりやすくなるらしい。キャンプ中盤の疲れが出るころに必要な守備のケアのようだ。
ボールを転がしながら繰り返し言葉で理解を促す。京田の反応を見ながら実に丁寧である。
荒木コーチ自身が猛練習で体に染みこませた技術を言葉に変換し、京田に伝えていた。
ようやくノックバットを持ったのは20分が過ぎてからだった。そこから1球1球、京田が捕球するたびに「今の(改善点)は自分でわかるよな!」「完璧じゃないけど悪くない!」「いいね!」と声を掛け続けた。
プロ野球に限らず「頭で考えず体で覚えた技術」「5年経ってようやく理解できた教え」こういったものは、のちに振り返れば素晴らしく価値のあるものだが、それだけを指導の軸にすることは難しい時代だ。簡単ではないが、現在は指導者にとって『言葉で伝えその場で理解させる』ことが必要な能力なのであろう。理論以上に体で野球を学んだ就任3年目のコーチは現役時代とは違うアプローチで、鉄壁の内野守備を実現させる。
【CBCアナウンサー 高田寛之 CBCラジオ「ドラ魂キング」火曜午後4時放送他、スポーツ中継などを担当。野球中継デビューは1994年『10.8』で名古屋・栄パブリックビューイング会場からの電話リポート』】