バッターの調子は守備で崩せ!好調“マスター”阿部へ井端が贈る珠玉のアドバイス
「【ドラゴンズライター竹内茂喜の『野球のドテ煮』】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム」
30歳、遅咲きの開花
大学、社会人を経て26歳で入団。遅咲きの大器として期待されたものの一軍定着できず、早3年の年月が流れた。
阿部寿樹
飛距離ではチームでもトップクラス。ナゴヤ球場の防護ネットを越し、ナゴヤドームのライトスタンド中段へ飛ばす力の持ち主。
アマでは通じてもプロの世界では思うようにいかない、惑うばかりの時間が過ぎていった。
『ストレートの速さと変化球のキレには戸惑いました。変化球で攻められて、全部空振りしていた。ストレートも打ち損じるので、思いっきりバットを振っていなかったし、振れなかった。当てにいく感じばかりでした』
クビをも覚悟した。そして開き直って挑んだ今季、一人の助言が暗闇に光を射した。普段は日本人バッターには指導をしないリナレス巡回コーチから“打ちたいばかりに焦りすぎて、左肩が開いている。それを直せば結果が必ず出る”とワンポイントアドバイス。それにプラスして、阿部自らもバッターボックス内でムダな動きを省いたところ、キャンプから好感触を掴み、打撃開眼。調子を維持したまま、見事開幕二塁でスタメン出場。それ以来、大きな好不調の波もなく今日に至るまでコンスタントに成績を残す活躍を見せている。
そんな阿部にドラゴンズ黄金時代の二遊間を支えた名手、井端弘和氏が攻守にわたり珠玉とも言える“名手のメソッド”をプレゼントした。
打については文句なし
今シーズン初めから、阿部の変貌を冷静に見つめていた井端氏。バッターボックス内での忙しさがなくなった点を高評価。
『去年までのバッティングを見ていると、手の動きが忙しないと感じていた。そうするとどうしても慌ててしまうので速いストレートに詰まってしまう。その欠点が修正できたのは大きい』
阿部自身、去年まで好打を放っても、何故打てたのか分からずプレーしていたことが多かったという。
『今では1打席凡退してもその映像が頭の中に残っていて、“次はこうしてみようか”と思って、バッターボックスに入っている』
その言葉を聞き、“もう大崩れすることはない。バッティング面ではアドバイスすることはなし!”と、井端氏はきっぱりと笑顔で答えた。
“間”があるセカンド
主にセカンドを任される今季。井端自身、長くショートを守り、当時の落合監督からコンバートを指示され経験したセカンド。その“守りの入り方”を簡潔に阿部へ指導する。
『セカンドはショートのような感覚で送球しようとすると、ファーストがベースに入っていないことがある。アレっ?と思うくらい“間”があるから、セカンドはランナーを見るくらいの余裕があっていい』
セカンドの教えを説明後、現状の阿部のプレーを観察し、井端自身が感じたことすべてを経験則に基づいて話し始めた。
メソッド(1) ポジションをもっと後ろに
ナゴヤドーム内には内野3つのベースの後方に一塁から三塁へアーチ状に白線が引かれている。まず井端氏は阿部の守備位置がラインの前に守りすぎだと指摘する。
『慌てて捕りに行こうとするのはショートを守っていたクセ。ショートは時間との戦いのポジションだから。でもセカンドは意外と余裕があるはず。現役時代、ウッズやブランコは投げようと思ったらまだ一塁に向け走っている。どうしようと思った時に、守備位置を後ろにしたら丁度良いことに気づいた』
5月6日の広島戦、9回表二死三塁、バッター松山からセンター前へ運ばれ同点になったシーン。
『あれは打った瞬間、正直セカンドゴロだと思ったが、阿部の飛び込んだあたりはラインの前だった。バッターは足の遅い松山。ラインの後ろで守っていれば捕れていたと思うし、ゲームセットになっていたと思う』
さらに投手への思いを含め、こう続けた。
『相手が右打者で味方の右投手が正直、反対方向の一二塁間へキレイに打たれたら、投手のせいにしていいと思う。それは川上にも言ったし、吉見にも言った。でも投手がバッターとの勝負に勝ち、引っ掛け気味に投手の横を抜けた打球はアウトにしてあげなくてはダメ』
しっかり守って、チームに良い流れをもたらす。井端氏は阿部へあらためて守りの大切さを口述した。
メソッド(2) 二遊間の連携を取る
放送席の高い位置は守備のポジショニングが一目で分かる。井端氏は阿部と京田が目的に向かって一緒に動いていないことを指摘。
『定位置同士でもない時がある。どちらかが寄ったら、もう一人も動くという連携がまだできていないように見える』
セカンドとショート。チームで失点を防ぐ重要なセンターラインのポジション。そこを二人とも好き勝手に動いていては勝利を得ることは難しい。
『相手バッターに余裕を与えてはいけない。この内野は抜けないと思わせたら、バッティングも強引になってくるかもしれない。バッターは守備で崩すことができるんです』
伝説のコンビ、アライバは、“ちょっとこっちに寄るよ”という一言にだけで勝手に連携が取れていたという。まさに阿吽の呼吸。井端氏の助言を受けた翌日の試合、京田に向かって“しゃべる”阿部の姿があった。
伝承してもらいたい“匠の技”
真似ろ、そして馴れろ。それができるようになれば、外野へ無情に抜けるヒットの数が激減するのは間違いない。井端氏の口癖である、“打つ、捕る、投げる”の形が一つでも良くなれば、すべて良くなる。その言葉を信じれば、阿部の“捕る”のは時間の問題だ。
ドラフト5位でドラゴンズへ入団し、ショートが専門という点で共通する二人。今後も良き師弟関係として“匠の技”を伝承してもらいたい。多くのドラゴンズファンは皆、そう願っているに違いない。
がんばれドラゴンズ!燃えよドラゴンズ!
(ドラゴンズライター 竹内茂喜)