大野雄大そして覚醒した竜戦士たち~ドラゴンズ2020総括コラム(前編)
8年ぶりのAクラス。中日ドラゴンズは2020年シーズンを3位で終え、長きにわたった低迷から脱出への一歩を刻んだ。新型コロナウイルス感染拡大による異例のシーズン。数々の成果もあれば、来季への課題も残った。与田ドラゴンズ2年目の戦いを振り返る。
(敬称略)
大野雄大の獅子奮迅
2020年シーズン、ドラゴンズを代表する選手は大野雄大である。ついに“竜のエース”の座についた。昨シーズンはノーヒットノーラン達成と最優秀防御率のタイトル獲得。
与田剛監督就任前の2018年シーズンは、わずか6試合の登板で無勝利だったことを考えると、与田新体制が背番号「22」を蘇らせたと言っても過言ではないだろう。大野自身もベンチの信頼を心意気に感じたと語っている。それにしても見事な投球だった。
11勝6敗という勝敗以上に、6つの完封を含む10完投が素晴らしい。そこに奪三振148、防御率1.82という2冠が加わる。何より、チームが苦しい時に登板して、必ず勝ったことが大きい。左腕の投魂に揺さぶられるように、ドラゴンズは度々息を吹き返した。大野自身、負け越していた通算成績も69勝67敗と、ついに勝ち越した。FA宣言をせずに、ドラゴンズ残留を決意した大野雄大。吉見一起引退後のエースとして、来季はチームを優勝へリードしていってほしい。
抑えの「大福丸」が締めた!
“抑えの方程式”の確立も大きな収穫だった。CBCラジオ『ドラ魂キング』をきっかけに「大福丸」という呼び名も知られるようになったが、祖父江大輔、福敬登、そしてライデル・マルティネスという3投手が登板する“締めの3回”は安定を極めた。6回終了時にリードしていた試合は、実に37連勝を記録した。与田体制2年目の大きな成果だろう。かつて星野仙一監督の下でリーグ優勝した1999年には中継ぎに岩瀬仁紀、落合英二、サムソン・リー、そして抑えに宣銅烈という絶対的なリリーフ4投手が存在していた。
左と右それぞれ2人ずつ、各投手に各1回を任せると想定すれば、先発投手は5回まで思いっきり投げればいい。野口茂樹が19勝を挙げるなど先発陣もさらに活躍した。ゲームを締める“抑えの方程式”は必要不可欠であり、2020年Aクラス入りの原動力となった。
木下拓哉ついに竜の正捕手へ
待望久しい正捕手も誕生した。落合博満政権の2014年から8年間“黄金期”のホームベースを守った谷繁元信以降、毎シーズン課題とされながらも正捕手は決まらなかった。今季もシーズン当初は、ファンの立場としても日々困惑するほど目まぐるしくキャッチャーは交代した。全国的にも大きな話題になった外国人捕手アリエル・マルティネスが登場した時のファンの興奮は、正捕手誕生への期待の裏返しだった。
そんな中、5年目の木下拓哉が躍り出た。もともと打撃には定評があったが、盗塁阻止率もリーグトップを走り、後半戦は毎試合のように先発マスクをかぶった。正捕手が固定されるとチームはこんなに安定するものなのかとあらためて認識させられた。長年の課題のひとつに答を出したシーズンと言えるだろう。
キャプテン高橋周平の覚醒
就任した2019年シーズンから高橋周平をキャプテンに指名したのも与田監督だった。2011年ドラフト1位、しかし今ひとつ脱皮し切れていなかった高橋は、主将の自覚と共に一気に花開いた。勝負強い打撃はもちろん、これも与田采配によって固定されたサードの守備は安心して観ていられる。2020年はシーズン打率3割を達成した。
その他、阿部寿樹や井領雅貴ら社会人から入団後、どちらかと言えばくすぶっていた中堅選手らも、活躍の場を与えられて今季も活躍した。
しかし、チャンスに弱い打線は相変わらずで、ホームラン数も70本とリーグ最少どころか12球団の最下位だった。投手陣もルーキー橋本侑樹と岡野祐一郎、2年目の梅津晃大と勝野昌慶らが次々と登板機会を得て、ローテーションは活性化したが、こと打線については1、2軍の入れ替えも少なく“新味”に欠け、得点力によって若い投手を援護するという構図にはほど遠かった。ここ数年の課題である代打陣の層の薄さも未解決のまま、レギュラーとの落差が際立った。
開幕当初の迷えるベンチ采配
多くの野球評論家がシーズン前に高い評価をしていた2020年のドラゴンズ。
ふり返って残念なことは、シーズン後半戦には固まっていったチーム構成が開幕当初は機能しなかったことだ。ベンチ采配には決断と柔軟性が求められ、当然、そこには試行錯誤がある。しかしその助走期間が少々長すぎたのが今季のドラゴンズだった。
抑えの切り札は、当初は岡田俊哉がつとめたが、中継ぎの役割で輝いていた力は発揮できなかった。2年連続最多安打のタイトルを手中にした大島洋平も、打順1番と2番を行ったり来たり時期があるなど、なかなか落ち着いて打席に立てなかった。
新型コロナの影響で開幕が大幅に遅れるなど調整がむずかしかったシーズン、しかしそれはどの球団も同じ条件である。次々と若い選手を起用しながらチーム内に活性化の渦を巻き起こしてリーグ2連覇を果たした讀賣ジャイアンツ原辰徳監督の采配には、ライバルチームのファンとしても目を見張るものがあった。ドラゴンズの場合、投手陣に比べて野手陣には、残念ながら巨人のように、20代前半の若い戦力がチームに勢いを与える機会が少なかった。
7年続いたBクラスを脱出し待望のAクラス。いよいよ来季は10年ぶりのペナント奪還に待ったなしのドラゴンズだが、戦力を整えての開幕ダッシュ、特に野手陣の世代交代と活性化は、課題として来季へ持ち越された。
【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】