伊東、中村、谷繁が捕手の心得を惜しみなく伝授! 竜の正捕手を目指し、バズーカ加藤が日々牙を磨く!
「【ドラゴンズライター竹内茂喜の『野球のドテ煮』】
CBCテレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜日午後12時54分から東海エリアで生放送)を見たコラム」
加藤の肩がチームを変える
『成長したなぁ』
今週のゲスト解説者・谷繁元信さんはたくましい姿になった愛弟子を目を細めながら評した。
加藤匠馬。
今年ドラゴンズイチ押しの捕手。
2014年、当時の谷繁監督に期待を受けてドラフト5位でドラゴンズ入り。しかし入団後は泣かず飛ばずの長いファーム暮らしが続いた。一軍経験は4年間でわずか5試合。昨年にいたっては一度もお呼びがかからないまま。シーズン終了時には戦力外の覚悟もしたという。
そんな加藤に転機が訪れた。無類の鉄砲肩が新首脳陣の目にかなったのだ。
加藤の肩があれば、チームは変わる。
そう確信した首脳陣は加藤に対して英才教育を始めた。春の北谷キャンプ後半から始まった中村バッテリーコーチとのマンツーマン指導。伊東ヘッドコーチはチーム内にとって唯一無二の強肩の持ち主であってもキャッチャーとしてやるべきことは加藤が一番多いと冷静に評価。
試合に使いながら正捕手として育てる。
まさに中村バッテリーコーチが辿ったイバラの道を加藤にナビゲートするわけだ。
歴史は繰り返す、正捕手育成
古いドラゴンズファンなら懐かしく思い出すはず。当時、正捕手であった中尾に代わって大抜擢された中村。キャンプはもちろんのこと、シーズンが始まっても毎日が特守のオンパレード。ゲームで使われれば、リードが悪いと言われドツかれ、パスボールを繰り返せばケリが飛ぶ。だが、いくらミスをしても当時の星野監督は中村を代えようとはしなかった。
『タケシはちょっとやそっとじゃ壊れん。アイツを一人前のキャッチャーにしたいんや』
歴史は繰り返す。
長く不在となっていたドラゴンズ正捕手を作り上げるため、中村は今、教師の立場となって加藤を育て上げる。これはいわば使命、いや宿命。その思いに加藤も懸命に答えようと汗を流した。
そして2019年開幕。
開幕マスクを被った加藤は無我夢中で投手陣をリード。その献身的な振るまいに573日ぶりに勝利を手にした大野投手は“加藤が良いリードをしてくれた”と讃えた。
『高校からキャッチャーをやっているのですが、正直面白さが分からなくて。でもプロに入ってから、ピッチャーの方々から“良かったよ”と言われる度に、ようやく分かってきたんです。キャッチャーをやっての嬉しさが。今は凄くやりがいを感じています』
そんな加藤にとって、4月12日甲子園でのタイガース戦は一生忘れられない日となった。三度の暴投を止めきれず、すべて後逸するというキャッチャーにとって最も恥ずべきプレーを重ね、イニング途中の交代という屈辱を味わった。
『あの時はなかなか気持ちを切り替えることができず、ズルズルと。タイガースファンの声援が凄く、開幕戦でも感じましたが、ビジターの応援は飲み込まれてしまいました。ファーム生活が長かったので、今までなかった経験でした』
しかし次の日も首脳陣は加藤をスタメンで起用。その恩を彼は決して忘れない。
『普通ならあのプレーで二軍に落とされてもおかしくないわけで。昨日の失敗を絶対取り返してやる、そしてどんなボールも体に当ててでも止めてみせると思いました』
取り返す、そして止めてやる。ふたつの“強い意識”が、自身への肥やしとなったようだ。
成功、失敗すべてが良い経験に
他球団が警戒する持ち味の肩について加藤は、盗塁を刺すことよりも盗塁を企図(きと)されないことが肝心だという。またリードについても彼の性格ともいえる強気な面が伺える。
『インコースはリスクがあると思いますが、ここでインコースに行って打たれたら、“オレが悪い”くらいの気持ちで腹をくくってリードしていきます。そして抑えたら、“オレのおかげや!”という気持ちでやっています!』
冒頭のシーンに戻る。キャッチャーとして大先輩であり、プロに入った時の監督でもあった谷繁さんに加藤が番組内でアドバイスを求めた。ミスした時の気持ちの切り替え方についてだ。
谷繁さんはご褒美をあげるかのように加藤へ向けて“捕手の心得”なるアドバイスを贈った。
『ミスはいっぱいするべき。何が良いのか悪いのかやってみなければ分からないわけで。やってしまったミスにはしっかり反省をして、次にはなるべくやらないように心掛けること』
さらに加藤が聞けば驚く教えがなおも続いた。
『後ろに逸らすことが多々あったが、逆に言えばピッチャーがワンバウンドで投げる方が悪いと思えばいい。ただしどんなボールが来ようが、オレは絶対止めてみせるという“形”だけは心掛けるように』
気持ちの切り替えも野球の中で行わなくては解決しないと続けた。責任の取り方も強気で鳴らした谷繁さんらしい考えといえよう。
キャッチャーは居心地の良い自宅
かつて谷繁さんと黄金バッテリーを組んだ川上憲伸さんはキャッチャーを“住まい”に例えた。
『いつもホテル住まいだとなんだか落ち着かないんですよ。自宅に帰って、何もしなくてもごはんが出てきたり、風呂を入れてくれる。投げる度にコロコロ変わられたら、たまりません!』
家は用意されても、冷蔵庫には何も入っていなく、食器棚には皿が数枚しか用意されていない状態。今の加藤を評するにはまさにそんな感じか。
ベテラン吉見、山井が投げようが、クセの強いロメロが投げようが、自信をもってリードする。そして何があろうが責任を取る準備、覚悟ができた時、加藤はチーム内どころか、日本を代表するキャッチャーに成長してくれるはずだ。その日が来ることを期待して待とう!
がんばれドラゴンズ!燃えよドラゴンズ!
(ドラゴンズライター 竹内茂喜)