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ファンサービスの真髄とは?~ドラゴンズに願う“演出”と“知恵”そして“勝利”

ファンサービスの真髄とは?~ドラゴンズに願う“演出”と“知恵”そして“勝利”

新型コロナウイルスの影響で、2020年ペナントレースの観客数は5000人に制限されている。ようやく全国的な感染拡大が収まり始め、入場人数も緩和される方向だが、まだまだ球場観戦へのハードルは高い。そんな悪条件にもかかわらず、ファンは球場に足を運んでいる。

福谷の涙、そして3人の“福”

マウンドを降りる姿は感動的だった。
中日ドラゴンズ福谷浩司投手である。9月3日ナゴヤドームでの広島東洋カープ戦、8回に足のコンディションから途中降板となった。
最後まで投げ切りたかったのだろう。ベンチに歩きながら福谷投手は帽子を自らの顔に被せた。悔し涙を見せたくなかったのだ。その姿をファンの温かい拍手が包み込んだ。
この試合は、1軍に復帰した福田永将選手が先制ホームランとタイムリー、福谷投手が熱投を見せ、6点ものリードにもかかわらず9回を福敬登投手が締めるという、まさに3人の“福”による勝利だった。
ヒーローインタビューには福田と福谷という投打の2人が立ったが、せっかくならば福投手も呼ぶことはできないのかなあ、とその様子を見守っていた。
コロナ対策でスタンドマイクは2本。しかし、めったにない「福づくし」だけに、竜の“福”三銃士の晴れ姿が見たかった。

根尾スタメン見られず残念

2020年夏、ファンとして最も残念だったことは、本拠地ナゴヤドームでの根尾昂選手の起用方法である。
8月4日に今季初の1軍に昇格した根尾選手は、その夜の横浜スタジアムで早速「1番ライト」で先発出場した。記念すべきスタメンデビューである。横浜DeNAベイスターズとの3連戦、根尾スタメンは続いた。そして迎えた8月7日、名古屋での讀賣ジャイアンツ戦。スタメンに「根尾昂」の名前はなかった。代打出場もなかった。翌日のゲームも背番号「7」の姿はダイヤモンド内になく、3戦目の延長戦で「代打の代打」としてようやく登場した。その時のスタンドの歓声は本当に大きなものだった。地元ファンは心から待っていたのだ。
前年の1軍デビューが甲子園、今季の初スタメンが横浜スタジアム、そして結果的にプロ初ヒットはナゴヤドームの後の広島マツダスタジアム、この“名古屋とばし”は本拠地ファンとして悲しかった。

こんな始球式もあっていい?

ふと思い出すのは2019年3月。オープン戦とはいえ1軍の有料試合が、かつての本拠地ナゴヤ球場(名古屋市中川区)で開催された。実に23年ぶりのことだった。
竜の数々の激闘を刻んだ夢舞台だけに、3000席のチケットは即完売。球場近くで生まれ育った筆者も購入して駆けつけた。
ベイスターズとの一戦だったが、結果は完敗。しかし、オープン戦だからファン的にあまり問題はない。それよりもゲームの指揮を取った与田剛監督が、投手としてデビューしたのは同じナゴヤ球場。1990年の開幕戦、150キロ超え剛腕ルーキー投手の鮮烈なデビューだった。対戦相手もベイスターズ前身の横浜大洋ホエールズ、さらに与田投手の剛球を受けた捕手は中村武志1軍バッテリーコーチだった。せっかく往年の与田-中村のバッテリーがベンチにいるのだから、2人による始球式など実現できなかったのだろうかとスタンド席で思ったものだ。ファンの正直な気持ちである。

原采配の見事な演出力

ライバル球団の中で、今季、ジャイアンツ原辰徳監督の“演出”は際立っている。
特に、増田大輝という選手の起用方法は象徴的だ。「代走の切り札」として、ここぞという場面に登場すると、スタンドのファンは大喝采、中継アナウンサーの声までが興奮している時がある。その増田選手は、ついには「リリーフ投手」としてマウンドに上がった。ドラゴンズファンが根尾選手に夢見ていたことを、見事にやられてしまった。この“二刀流”にはジャイアンツOBから賛否両論の意見が飛び交ったが、ファンの注目を集めるということも考えれば、戦略として十分「あり」だろう。巨人では育成出身の松原聖弥選手ら続々と若手が台頭し活躍している。こうした起用も、むしろチーム内にこそ発信し勝利に結びつける“演出”と解釈できる。球団最多の監督通算勝利数がそれを証明している。

勝利そしてワクワク感を!

ファンサービスとは「ファンが期待していることをやる」、しかし、それではすでに時代遅れなのかもしれない。「ファンが思いもかけないことをやる」そして「これが見たかったのだ」と驚かせて喜ばせる。この領域に早めにたどり着いたチームの野球場に、大勢の観客が駆けつけている。もちろん勝利、「勝つこと」がファンへの最大の贈り物であることは言うまでもない。
しかし、“演出”と“知恵”の結果としてファンが球場につめかけたのなら、その声援によって選手たちのプレーもさらに輝きを増して、勝利を手繰り寄せるのではないだろうか。ベンチもフロントも、球団全体で向き合っていくべきテーマである。

かつて「グラウンドには銭が落ちている」と選手を鼓舞したのは、プロ野球を代表する監督のひとり、名将・鶴岡一人さんだが、野球場にはファンサービスのヒントがあふれている。われらがドラゴンズも他の11球団に負けずにそれをどんどん見つけて、ペナントレースでも、そしてファンサービスでも、勝ち続けてほしい。

 【CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※中日ドラゴンズ検定1級公式認定者の筆者が“ファン目線”で執筆するドラゴンズ論説です。著書に『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』『竜の逆襲  愛しのドラゴンズ!2』(ともに、ゆいぽおと刊)ほか。

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