「カニカマ」誕生秘話~実はまったく別の食品の“失敗作”から生まれた驚きの珍味

「カニカマ」誕生秘話~実はまったく別の食品の“失敗作”から生まれた驚きの珍味
「本物の蟹そっくりカニカマ」提供:株式会社スギヨ

インスタントラーメン、レトルトカレーと共に、戦後ニッポンの「食品三大発明」と言われる「カニカマ」。この“蟹味のかまぼこ”には、“偶然”と“必然”が絡み合ったユニークな誕生物語がある。

「当時の会社外観」提供:株式会社スギヨ

日本海の波と風が押し寄せる能登半島。石川県七尾市の「スギヨ」は、1640年創業、1868年(明治元年)に鮮魚問屋として歩み始め、焼きちくわなどの“練り物”を製造する水産加工メーカーである。この「スギヨ」に、食品業界からある依頼が舞い込んだ。1970年頃、日本と中国は貿易関係が悪化して、中華料理の食材であるクラゲの輸入がストップしてしまった。そこで「人工のクラゲを作ってほしい」という要望が殺到し、これまで培ってきた練り物作りの技術によって、人工クラゲ作りが始まった。

「かにあし試作作業」提供:株式会社スギヨ

コリコリとしたクラゲ独特の食感を求めて、アルギン酸ナトリウムと塩化カルシウムを混ぜると固まるという特性などを利用して、プロジェクトチームの開発は続く。そして季節がひと回りした1年後、人工クラゲの試作品ができ上った。しかし、できた製品に醤油をかけて食べてみると、それは柔らかくなり、残念ながらクラゲとは別物だった。そんな失意の中、それを細かく刻んで食べてみた開発スタッフのひとりが叫んだ。「これはカニだ!」

「かにあし製造作業」提供:株式会社スギヨ

能登の人たちにとって、カニ(蟹)は食卓に欠かすことができない食べ物、おやつとしても気軽に食べてきた味だった。クラゲはできなかったけれど、だったらお得意の蒲鉾作りの技術を使って「カニの身を作ろう!」。開発のテーマは人工クラゲから、一気に「人工カニ身」へとシフトチェンジした。原料には、臭みのない白身魚スケトウダラを使った。そのすり身と塩の組み合わせで弾力性を調整した。味は昆布とカツオの出汁に、カニの殻から取り出した蟹エキスを使って、風味を出した。蟹らしい色付けにも工夫し、さらに独自の製造機械まで開発した。そして、1972年(昭和47年)世界初のカニ風味の蒲鉾「かにあし」が誕生した。

「かにあし」提供:株式会社スギヨ

しかし、東京の築地市場での反応は、最初今ひとつだった。「刻んだ蒲鉾は売れない」と多くの問屋が「かにあし」を敬遠したが、それでもスギヨの営業担当者は、仲間が作った新製品を懸命に売り込んだ。そして2か月、老舗の水産加工メーカーがその技術を駆使して作った味「かにあし」は、不断の営業努力の甲斐もあって一気に認められた。市場に配送トラックが届くと、各商店が「かにあし」を取り合う人気商品になった。他の水産会社も次々とカニの蒲鉾作りに参入した。スギヨは、当初の割いた「かにあし」を進化させて“カニの脚”に見立てたスティック状の商品も開発、2004年には、より本物に近いカニカマ「香り箱」を売り出した。贈答用「木箱」風パッケージも登場。まさに「本物の蟹を越えた蒲鉾」と評価を得た。

「米国で並ぶカニカマ」提供:株式会社スギヨ

この「カニカマ」、英語で「crab stick」「seafood stick」とも呼ばれたが、今では「SURIMI(スリミ)」と言えば「カニカマ」のことを表し、世界的な認知を得た。スギヨは現在14か国に輸出している。米国では、スーパーボウルの試合で、カニカマをカクテルソースにつけて食べるスタイルが定着した。ヨーロッパでは、サラダのトッピング、サンドイッチの具、そしてパスタ料理など広く使われる食材になった。アジアでは、寿司のネタとして握られるようになった。人工クラゲが変身した「カニカマ」は、日本が生んだ世界的な味に成長した。

「究極のカニカマ・香り箱」提供:株式会社スギヨ

生まれは偶然だった「カニカマ」。スギヨの公式ホームページには、力強い言葉で、こう書かれている「運命を変えた、奇蹟の失敗作」。しかし、その“偶然”を“必然”に変えたのは、長い歳月、精魂込めて蒲鉾作りに歩んできた老舗の職人技と開発魂だった。「カニカマはじめて物語」のページには、日本の食文化の歩み、その確かな1ページが“風味豊かに”刻まれている。
          
【東西南北論説風(329)  by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】

※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿の日本はじめて物語」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして執筆しました。

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