発明ヒントはカセットテープ!日本生まれ「修正テープ」開発への努力と心意気
世界に先駆けてプラスチック消しゴムを開発した企業が、次なるチャレンジに向かおうとしていた。大阪で生まれたシードゴム工業(現・株式会社シード)。「消すことの第一人者」を自負する企業にとって、プラスチック消しゴムに続く新たな商品を生み出すことが至上命題だった。
プラスチック消しゴムと同じような「消す」文房具として、1960年代の日本にアメリカから修正液がやって来た。もともとはテキサス銀行の頭取がタイプライターの打ち間違いを修正するために開発した。日本でも学生を中心に人気が出始めたが、乾きが遅く手についてしまったり、表面にムラができて上から字が書きにくかったり、いろいろな不便なこともあった。そこでシードゴム工業が考えたのは「乾いた膜のようなものを紙に貼りつけることはできないか」。開発がスタートしたのは1983年(昭和58年)のことだった。
ヒントにしたのは音楽などを録音するカセットテープ、この仕組みを何とか活かすことができないか。ロール状のテープが次々と送り出されて紙の上に貼り付いていく、そして間違えた文字を上から隠していく。そんなイメージを抱きながらも、クリアしなければならない課題は多かった。紙にくっつきやすく剥がれにくいようにするには? 修正用の白い膜を瞬時に貼り付けるために、テープを三段重ねにした。「糊」「白い修正膜」そして「直前まで膜を保護しておくフィルム」。修正膜が糊によって紙に貼り付き、保護フィルムだけがロールに巻き取られていく。そのための粘着力を調整することは至難の業だった。最初は修正膜がフィルムから剥がれず、糊だけが紙に付いたりした。この粘着性のテストは何度も何度もくり返されて時間が過ぎていった。
もうひとつの課題は、修正した上から文字を書くことができるかどうか。つるつるのセロハンテープの上に字を書くことが容易ではないように、修正膜の白色顔料にボールペンのインクや鉛筆の黒鉛は弾かれてしまった。そこで開発チームが考えたのは、表面に凹凸をつけることだった。実は肉眼では分からないのだが、修正テープの表面を顕微鏡で見ると細かい凹凸ができている。そのデコボコ部分にインクなどがキャッチされて、修正テープの上からでもうまく文字が書けるようになった。開発にかかった歳月は実に5年余り。
「車を運転しているとセンターラインが修正テープに見えてきた」
「子どもの運動会に参加したらグラウンドの白線から修正テープを思い出した」
当時開発に関わり、後に社長になった玉井繁さんのこんな言葉にも 、一丸となって新製品に賭けたシードゴム工業の熱が伝わってくるようだ。
世界初の「修正テープ」は1989年9月に発売された。その名も「ケシワード」。まさに「文字を消す」と名づけられた新たな“消し道具”は、国際見本市に出品されるなどして、海外からも賞賛を受けた。「修正テープ」は実際に手に取って使ってもらうと、より一層その便利さと魅力が伝わる。そのための商品キャンペーンにも力を入れた。発売から10年余り、2000年代に入った頃、「修正テープ」は世界の市場で、修正液を凌ぐ人気商品に成長した。
プラスチック消しゴムに続いて「修正テープ」を世界に送り出したニッポン企業のパイオニア魂。自慢の「修正テープ」でも決して修正できないほど、熱くそして確かな開発の日々がそこにはある。日本生まれ・・・「修正テープ」は文化である。
【東西南北論説風(271) by CBCテレビ特別解説委員・北辻利寿】
※CBCラジオ『多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N』内のコーナー「北辻利寿のコレ、日本生まれです」(毎週水曜日)で紹介したテーマをコラムとして紹介します。