episode 1
残留日本兵・横井庄一さん発見から1月24日で50年
第一報を日本に届けたグアム駐在員たちが、いま証言

グアム島のジャングルで銃を持った島民と鉢合わせし、保護された横井庄一さん(当時56)。このニュースは、翌日の国内で大きく扱われた。第一報を現地から日本に国際電話で連絡したのが京免宣昭さん(当時29)。旅行会社「東急航空」グアム駐在所長で、現地当局から「日本語を話す日本兵らしき男がジャングルで見つかった。確認してくれないか」と頼まれたのです。

【京免さん談】
「ぴょんぴょんとサルのような歩き方の人だった。収容先の病院前で待ち受けて『ご苦労様』と声をかけると、『どうもどうも』と男性は答えました。(この人は日本人だ!)と。カルテにはSHOICHI YOKOI AICHIと書かれていました。やはり日本人だ」

【米谷さん談】
「地元当局に呼ばれたのは夜。仕事で夜中便を待っているときに、『確認してくれ』と事務所に電話があったんです。ハネムーン客と芸能人が当時、たくさんグアムに来ていた時代でしたし、本当に日本兵?まさか!?と思いました」

当時、日本の政府機関がなかった時代に奔走した旅行会社の駐在員たち。日付けが1月25日に変わる頃に京免さんが国際電話で東京本社に「日本兵が見つかったんです!」と伝えました。その電話を受けたのが三木惣介さん(79)。
すると…

【三木さん談】
「電話を受けてマスコミに情報を流したけど、本当にそんなことがあるんだろうか?『戦争の記憶』は現地でも薄れているような時代。終戦後30年近くも経っているのになぜジャングルに?これがウソだったら大変なことになっちゃうな。そう思いながら翌日の新聞を広げました…」
当然、マスコミはグアムに飛びました。読売新聞の記者だった谷川 俊さん(85)は、デスクの緊急指令を受け、慌てて羽田空港に向かいグアムへ…到着は1月25日。

【谷川さん談】
「まず私が最初に取材したのは病院です。横井さんが車いすで近づいてきたんですけど見たところ震えてました。ジャングルに潜伏していた日本兵のほうも現地人を襲ったりするケースがやっぱりあるんですよね。全くおとなしかったということでもないし、泥棒もしてるでしょうし、現地の人はアメリカ領ですから銃を持っているんです。
ですから出てきた日本兵は撃ち殺しますよ。当然です。『恥ずかしながら』という言葉を発したあの時まではやっぱりいつ殺されるんだろう、いつ殺されるんだろうと横井さんは思い続けたのではないでしょうか」

その後、横井さんがグアムから帰国したのは、1972年2月2日です。10分間と決められた短い帰国会見の中で「恥ずかしながら生きながらえておりました…」と絞り出した言葉は、多くの人の心に残り、「恥ずかしながら」はその年の流行語に。

その日から横井さんは東京の病院で84日間静養。名古屋の実家には4月25日に帰り着きました。目出度く、11月に熱田神宮で幡新美保子さんと結婚。そして、地元・中川図書館での小中学生との「囲む会」には夫婦で出席。

生徒「グアム島で発見されたときの心境はどうでした?」
横井「心境と言うよりは、もう、いろんなことを考える余地なかったです。正面衝突だったんです。わずか1メートルの差です。草むらから出てくる。向こうが待ち構えている。ぶつかった。そこで格闘しておさえられた。引かれた。こういう調子ですから…」

CBCが妻・美保子さんの委任を受けて開示請求をした50年前のカルテによると、現地の病院の申し送り事項として、横井さんの発見者・2人の証言も書かれていました。

【発見者2人の証言】
「日没後の黄昏時で午後6時半頃であった。約5メートルくらいまで近づいた時に日本人であることがわかった。エビ採りのカゴを縦にかついで下を見ながら真っすぐに歩いてきた。約3メートルくらいに近づいた時に彼も我々に気づいた。(中略)カゴを下ろし膝間づいて両手を合わせておがんだ。彼が弱っていることはよくわかった…」
横井さんは、川に食料のエビをとるための仕掛けを沈めた後、島民に出くわしたということですが格闘についての双方の見解には食い違いも見られます。
京免さんたち現地の駐在員たちの間でも、「命を奪われなかったのは良かった」という思いはあったようです。
かつて、グアムを占領統治していた日本。島民が日本に抱いていた感情は複雑。時がたち、日本人は島にお金を落としてくれ、観光を盛り上げてくれる存在ではあります。仲良くしたくないとは皆さん思っていませんが島がたどった歴史をさかのぼれば、当時(日本人憎し)と思っていた人はいないわけではありません。それは、読売新聞の元記者・谷川さんもおっしゃっている通り。
しかし、1972年当時にグアムに駐在した京免さんたちは、仕事上で現地の人と戦争絡みの感情のもつれでトラブルがあったということはないと言います。
1944年にアメリカが島を奪還。その中でジャングルに逃げ込み生きながらえた残留日本兵は、横井さん発見の前にも、何人か見つかっています。しかし、28年もの間潜伏した横井さん発見のニュースは当時、国内だけでなく世界を驚かせました。
生きていてよかったですねという話ではありますが、戦争の空恐ろしさを感じる出来事でした。
2022年1月24日は発見から50年の日です。
CBCテレビ 報道部 大園康志