ドラの巻【CBCドラゴンズ情報】
クローザーから先発の柱へ ドラゴンズ福谷浩司の変わったもの、苦しんで気が付いた変わらなかったもの

コロナ禍の中で行われる初めてのプロ野球のキャンプ。毎年、各球団のキャンプ地を訪れるたくさんのファンの姿とともにプロ野球に春が到来するが、緊急事態宣言が出される中で無観客での開催となった今年は多くのものが変わってしまった。
ファンの声、賑やかさだけでなく、独自の緊急事態宣言が出される沖縄では街の灯りが消えるのも早い。コロナ禍で開催出来たことだけでも喜ばなければいけないのだが多くのものを変えてしまった新型コロナウイルスを改めて恨めしく思う。
■あっという間の、大きな変化
「たった3ヶ月でこんなにも変わるものかと思いました」
プロ9年目中日ドラゴンズ福谷浩司の言葉。
しかしこれはコロナウイルスに関する言葉ではない。
周囲の自身に対する評価についての言葉だ。
福谷は昨年、先発転向2年目。チームで沢村賞大野雄大に次ぐ2番目の勝ち星、7月28日に1軍でシーズン初登板してから11月3日のラスト登板まで、およそ3ヶ月、わずか14試合で8つの白星を積み上げてみせた。
今年のキャンプ、2月3日の福谷の初のブルペン入りにはテレビカメラ、新聞のスチールカメラがずらりと並んで福谷の投球を収めようとする。昨年までなら誰がこの光景を想像できただろう。
■プロ野球人生の終わりを覚悟した
「ここ数年は、いつクビになってもおかしくないって思ってました。シーズンオフに契約をしてもらえるたびに、よかったまた来年も野球ができる、でも今度だめだったらそのときは…って」
福谷は3年目以降防御率は4点台、5点台とリリーフとして結果を出せないシーズンが続いた。さらに腰の怪我にも悩まされ19年は一軍でわずか1試合の登板に終わっていた。
「(昨年)キャンプも開幕も2軍で迎えて、7月の終わりにようやく1軍に上がれたマツダでのマウンドの時は、もしかしたらこれが自分にとって最後の試合になるのかもしれないな、って思いながら投げていました」
しかしそこから評価は劇的に変わる。戦力外まで覚悟した男が気がつけば今年は先発の柱の1人として期待され、与田監督の口からも開幕投手候補としても名前が上がるようになった。
■苦しんでたどり着いた最初の気持ち
福谷の能力から見れば、8勝は驚くに足りない。
2012年にドラフト1位で慶應義塾大学から中日ドラゴンズに入団し、2年目にはプロ初勝利を挙げるとリーグ最多の72試合に登板し2勝11セーブ32ホールド防御率1.82という成績を残し、オールスターにも監督推薦で出場した。3年目には怪我をして離脱した岩瀬に代わりクローザーとしての大きな期待もかけられていた。ポテンシャルは十分だった。
しかし結果は続かなかった。
「3年目の時は期待に応えたいという思いと、クローザーとしてとにかく結果を求めていました。どんな形でもいい、とにかくゼロに抑えてチームに勝ちがつけばいいと」
昨年は何が1番変わったのだろうか。
「うまくいかない時期があって、野球というものに向き合ってく中で、勝った負けた、よりも、昨日できなかったことが出来るようになった、この前投げられなかったボールがマウンドで投げられるようになった、そういう成長のプロセスを楽しんでいこうという考え方になりました。元々野球を楽しいと思ったのはそこだったので、向き合い方としてはこの方が自分は幸せだなと」
だからこそ、福谷はヒーローインタビューでも「自身の勝ち星は気にしていない」と常に口にする。元々こだわりや執着というものはあまりないとも話す。
■優勝争いでも変わらないもの
ただ昨年8年ぶりにAクラスを手にしたドラゴンズは今年こそ優勝争いの期待がかかる。それこそ勝ちにこだわる試合がきっと福谷にも訪れる。
「優勝争いの中でマウンドに上がる機会があればきっととても光栄なことと思うんですが、自分の考え方は変わらないと思うんですよね。もちろん今まで負けたっていいと思って投げたことなんて一度もないですけど、消化試合と周りがいうゲームに人生を賭けている人だっているわけですから、周りの人の思いはそれぞれ、マウンドに上がる人間の気持ちもそれぞれだと思います」
福谷の言葉は決して冷静に努めているわけでもクールなわけでもない。
「今の自分の気持ちを、3年目の自分に伝えてもきっと響かないと思います。人間って自分のやっていることは正しいことだと思う生き物らしいですから。こればっかりは経験して気がつかないと変わっていけないですよね」
■2度目の大きな期待
苦しむ時間が多かったプロ野球生活で得た『経験』から得た、自分の能力をマウンドで最高の形で表現するための気持ちの整え方だ。
自ずと周りの声との向き合い方も変わる。
「たった3ヶ月で僕が期待してもらえるようになったように、その逆も然り、あっという間にやっぱり福谷はダメだったと言われるのがプロ野球です。期待していただけるのは本当にありがたいことですが変わりやすい評価や期待に一喜一憂するのはやめようと今は思っています」
かつては守護神としての期待、今シーズは先発の柱としての期待。
2度目の大きな期待ももう福谷にとっては重荷ではない。
「今年と3年目の時の自分では全く違うのはわかります。もしリリーフをもう一度やったとしても違った向き合い方になるとワクワクできる。今年のシーズンが自分のマウンドがどうなるのかとても楽しみです」
2021年、福谷浩司がシーズンの頭からチームに勝ちを呼び込み続ける姿を期待して。
【CBCアナウンサー江田 亮
CBCラジオ「ドラ魂キング」(毎週月曜~金曜午後16時放送)ほか、テレビやラジオのスポーツ中継などを担当。高校まで野球部に所属し、桐蔭学園高校野球部時代ドラゴンズの井領雅貴、楽天イーグルスの鈴木大地とはチームメイト】
画像:福谷浩司投手(C)CBCテレビ