「殿堂」から見えてくる時代 ~ミニーマウスと松井秀喜氏、そして...。

石塚元章

2018年1月29日

画像:足成

 特定の分野で活躍した人を集めて後世に伝えようという記念館などのことを「殿堂」といいます。人間という生き物は何でも1カ所に集めたがる癖(へき)がありまして、そのためか、世界には実に様々な「殿堂」が存在します。そこに名前が残れば「殿堂入り」として大変な名誉と扱われます。今回は、最近注目された「殿堂」のニュースから2題。

◆セクハラ騒動で人気キャラクターに出動要請!?

 まずは、アメリカはロサンゼルス・ハリウッド。映画スターの名前が刻まれた「名声の歩道」という名所がありますが、先日(2018年1月22日)、ディズニーの人気者ミニーマウスの殿堂入りセレモニーが行われました。
 ミニーマウスといえば、ミッキーマウスのガールフレンド。1928年の短編アニメ『蒸気船ウィリー』でデビューして以来、70本以上の作品でカップルとして観客を楽しませてきました。カップル双方の名前を完璧にフルネーム(?)で言うことができる世界で最も有名なひと組かもしれません。

 ミッキーは、1978年(デビューから50年目)に「殿堂入り」を果たしています。ですがそのとき、「ミニーも一緒にね」とはならなかったんですね。
 ところが、ハリウッドといえばご存知の通り、去年(2017年)秋以降、セクハラ問題で大揺れ。「ハリウッドには女性を軽く見る風潮があるのではないか?」との指摘も浮上していました。
 そんなこともあって、ミッキーに遅れること40年の時を経て、ミニーマウスの殿堂入りが急きょ決まったのではないか...という見方もあるようです。そうであれば、世論の批判をかわすためにミニーマウスが利用されたとも言えるのでしょうか。
 ディズニー社の幹部は今回の殿堂入りセレモニーで、「これまでミッキーが手柄を独り占めしてきた」と認めたうえで、「ミニーだってスターだ」と挨拶したそうです。

◆アメリカでは「野球殿堂」に入れなかった松井秀喜氏のなぜ?

 もうひとつの殿堂が「野球殿堂」。アメリカの...です。日本の野球殿堂については、先日(1月15日)、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏が最年少で殿堂入りを決めたと話題になりましたが、"本家"アメリカの野球殿堂でも、このほど(1月24日)、今年の殿堂入り元プレーヤーが発表されました。
 松井秀喜氏は、アメリカでも"候補"に名前を連ねていたんですが、残念ながら選ばれませんでした。これってある意味、"予想通り"の落選です。

 メジャーで殿堂入りを果たすには3段階のハードルがあります。まず、メジャーで10年以上プレーした上で引退から5年を経過しなければなりません。松井氏は今年、このハードルは超えました。
 次に、「全米野球記者協会」の代表が選ぶ"候補"にならなければいけません。つまりノミネートされる必要があります。松井氏、ここもクリアしていました。
 最後のハードルが投票。「野球記者協会」に10年以上在籍した記者が投票(複数投票)することになっているのですが、その数、今回なんと422人。その75%が「殿堂入りOK」と認めてくれて、やっと殿堂入りが決まるのです。単純計算で300人以上のベテラン野球記者のOKがなければ殿堂には入れない...ということになります。
 もし落選しても、5%以上の得票があれば次の年も候補に残れるのです(最長で10年は残れます)が、5%に満たなければ「それっきり」です。
 2014年に、野茂英雄氏が候補になった際は6票。当然ながら5%に満たず翌年以降の候補からも外れました。野茂氏の名誉のために言えば、この年、候補になった元プレーヤーの半数は、野茂氏よりさらに票が少なかったということですから、いかにハードルが高いかもわかります。
 で、今回の松井秀喜氏。「殿堂入りOK」は4票でした。得票率0.9%ですから、来年以降の候補に残る可能性もなくなりました。

 アメリカ国内で「殿堂入り」が毎回注目される候補として、バリー・ボンズ氏とロジャー・クレメンス氏の名前を挙げたいと思います。日本でも知られた名選手で、2013年から候補に名を連ねていますが、どうしても75%を超えることができずにいます(5%ははるかに超えるので、毎年、候補ではいられるのですが、それも最長10年間ですから、今年は折り返しの年でもありました)。
実はこの2人、現役時代に筋肉増強などを目的に薬物を利用した問題を抱えています。
 今年も、ボンズ氏が56.4%、クレメンス氏が57.3%の得票でしたから、また殿堂入りはなりませんでした。
 どんなに素晴らしい成績を残しても、「人格・品格・行動」などにクエスチョンマークがついていると、なかなか「殿堂入り」を認めてもらえないわけです。
 ただそれでも、最初の年に30%台だった得票が去年は初めて50%を超え、今回、さらに票が伸びました。つまり、少しずつ「殿堂入りさせてもいいんじゃないか」傾向が増えているのです。投票する記者の世代交代や、「当時の時代背景を考えれば、厳しすぎるのではないか」と考える世論など、さまざまな環境変化が影響しているのではと指摘されています。

 「殿堂入り」の基準。実は、時代や社会を、おおいに反映しているのですね。そういう視点で、このニュースを見るのも大事なことかもしれません。

【ニュースなキーワード/殿堂入り】
「殿堂」とは本来、「大きくて立派な建物」の意味。次第に、特定の分野で中心となる場所・建物のことを「○○の殿堂」と呼ぶように(たとえば「学問の殿堂」など)。やがて、その分野で活躍した人を顕彰する場所のことも「殿堂」と名づけ、名前が刻まれれば「殿堂入り」と呼ぶように。
ちなみに「野球殿堂」は英語で「Baseball Hall of Fame」、ハリウッドの「名声の歩道(ハリウッド映画の殿堂)」は「Walk of Fame」。単なる「Hall(ホール)」に当てはめるのに、「殿堂」という単語を持っていた日本語に感謝。