プロ野球・・・その言葉に喝!

北辻利寿

2017年9月13日

画像:足成

プロ野球のペナントレースも大詰めを迎えている。

阪神タイガースがペナントレースの順位を上げてきた時に「虎の足音が大きくなってきました」という表現を使うのは間違っている・・・これは、放送界の先輩である小塚博さん(元静岡放送)が著書『きょうから直したい言葉遣い』(文芸社)で指摘されていることだ。
なぜ間違っているのか?
虎や猫は肉球動物で足音を立てないからである。
でも、ふと使ってしまいそうな表現でもある。

最近気になるのは、プロ野球を伝えるスポーツ報道の世界での言葉遣いである。
まず「エース」という称号。
はっきり言って安売りのオンパレード。
ちょっと先発ローテーションに入って活躍しただけで、(自戒をこめて言うが)スポーツニュースもスポーツ紙も「エース」という言葉を使いたがる。
「エース」とは、チーム最高の先発投手であり、投手陣の柱。
そして何より、ここぞというゲームで必ず登板し勝つ、またはゲームを作る投手だと思う。

愛情があるからこそ、あえて中日ドラゴンズを例にとる。
背番号22の大野雄大投手。
ドラゴンズの選手会長でもあり、チームの顔のひとりなのだが、今シーズンは「大野エース復活か」という言葉をよく耳にした。
あえて言わせていただくならば、私はファンとして、大野がエースだったことはかつて一度もないと思っている。
現時点まだ左腕先発投手のひとりという解釈である。
なぜか?
大野投手は2011年(平成23年)にデビューして以来、実働は今季で7年目。
昨季まで6年間の通算成績は42勝42敗の五分。
2013年から3年連続で二ケタ勝利をあげているが、プロ野球のペナントレースが勝率を争う中で、勝ち星の貯金ゼロでエースなのだろうか?
今季も現時点で勝ち星の貯金はない。

かつてドラゴンズを率いた落合博満元監督は「5年連続で二ケタ勝ったら認めてやる」と語り、それに応えた吉見一起投手は、2008年から5年連続の二ケタ勝利をあげた。
その吉見投手の昨季までの通算成績は80勝39敗。
立派なものである。
落合さんと同じくドラゴンズの監督だった星野仙一さんが先日語っていたが「貯金してこそエース」。
大野投手には一大奮起していただき、本当の意味での「エース」という称号を手にしてほしい。
吉見投手は2軍調整中のため、今のドラゴンズのマウンドに「エース」は不在である。

もうひとつ気になるのが「守護神」という言葉。
抑え投手、最近で言うクローザーのことを言うのだが、「エース」以上に大安売りである。「守護神」という言葉からは、江夏豊、佐々木主浩、高津臣吾、そして我らがドラゴンズからは岩瀬仁紀・・・こうした顔ぶれが浮かぶが、今季もスポーツ紙を読んでいると、「守護神」という言葉のオンパレードである。
ひょっとしたら、抑えに出てくる投手すべてが「守護神」と呼ばれることになったのだろうか。
これも愛があるから厳しく言わせていただくならば、ドラゴンズの抑えをつとめている田島慎二投手。
まだ「守護神」とは呼びたくない。
今季も特にジャイアンツ相手に痛い逆転負けを何回くらったことか。
「神」ならば、ほぼ毎回抑えてもらわなければならない。

エースに守護神。
いずれも投手の称号だが、それに比べると打者の称号はないように思う。
「スラッガー」という言葉は称号とまでは言いがたい。
これもかつての落合語録なのだが、「野球のゲームで最初に攻撃できるのは、ボールを投げる投手」。
攻撃というとどうしても打つ方に目がいくが、その誤解を指摘した名文句だった。
その考えからすると、やはり野球は、投手が主役のスポーツなのかもしれない。

さて、冒頭の小塚さんは著書の中で正しい例として「虎が忍び寄ってきました」という表現をあげているが、熱烈なタイガースファンの心情としては、「忍び寄るなんてとんでもない。熱い応援によって一気に首位を狙ってやる!」くらいの勢いであろう。
5年連続の低迷を続けるドラゴンズファンとしては何ともうらやましい。

【東西南北論説風(9)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】