「ドラゴンズ苦闘の中に光あり」

北辻利寿

2017年8月 8日


画像:足成

中日ドラゴンズの苦しい戦いが続いている。
球団創設80周年の記念イヤーだった去年は19年ぶりに最下位に沈み、4年連続Bクラスという球団ワースト記録を更新してしまった。
谷繁元信監督がシーズン途中に休養するという、80周年のお祝いにはほど遠いシーズンだった。
そして、森繁和新監督を迎えての2017年シーズン。
現在まで100試合余りを戦ってきたが、2ケタの借金を抱えての5位と、なかなか勢いに乗り切れない。

しかし、キラリと光るゲームも数々ある。
最近では8月6日、東京ドームでの讀賣ジャイアンツ戦。
先制した1点を守備のミスもあって4対1と逆転された。
しかし藤井淳志選手の初球打ち3ランで同点にすると、8回にルーキー京田陽太選手が再びリードするタイムリーヒット。
それを日本ハムからトレードで移籍したばかりの谷元圭介投手が0点でつなぎ、そして・・・。
9回のマウンドに上がったのは今シーズン不動の抑えである田島慎二投手ではなく、岩瀬仁紀投手だった。
岩瀬投手にとって、この登板はとてつもなく重いものだ。
なぜなら、2日前に試合で記録に並んだ歴代最多登板の単独トップに立つ950試合目だったからである。
このところ田島投手が東京ドームの抑えで失敗続きということもあるのだが、ベンチは実に粋な采配をするものだと感心した。
ましてや相手はジャイアンツなのだ。岩瀬投手は9回を抑え404セーブ目によって950試合登板という大記録に自ら花を添えた。

そしてこの記念ゲームをさらに光ったものにしたのが、守備陣の"ファインプレー"である。
一死一・二塁のピンチ、坂本勇人選手の大飛球はセンター大島洋平選手によって好捕されたが、スタートしていた一塁ランナー重信慎之介選手がすでに越えていた2塁を踏み直さずに1塁へ戻るという帰塁ミス。
野球規則により「通過したベースを踏みなおさねばならない」のだが、これをドラゴンズの内野陣が見落とさず、プレー再開と共にアウトにしてゲームを終えたのだ。
野球には実に様々なルールがあるが、グランドの上でそれを実践することは鉄則。
ましてこれはアピールした場合に適用されるプレーなのだ。
ドラゴンズナインが集中してゲームに臨んでいた証しであろう。
岩瀬起用というベンチ好采配と共に、2017年シーズンの歴史に刻まれる一試合となった。

「見逃さない」プレーは今年もうひとつあった、6月10日、京セラドームでのオリックスバッファローズ戦。
ホームランを打ったクリス・マレーロ選手が本塁ベースを踏まなかったことをドラゴンズの松井雅人捕手が見逃さず、ホームランは取り消しとなった。
かつて高校時代に読んだ野球漫画『ドカベン』で、岩鬼正美選手が夏の甲子園大会決勝でホームランを打つも三塁ベースを踏み忘れるミスを冒したが、ふとそれを思い出す珍しいシーンだった。
こうしたドラゴンズ選手の緻密なプレーを見ると、野球ルールを熟知していた落合博満監督に率いられ優勝を繰り返した2000年初頭の頃を懐かしく思い出す。

反対に「おや?」と思う采配もあった。
4月1日の開幕2戦目ジャイアンツ戦。
前夜の開幕戦では、ルーキー18年ぶり開幕スタメンという京田選手が初ヒットを打つなど躍動。
しかし2戦目は相手が左投手ということもあってかスタメン落ちしたことだ。
若い選手は勢いが出ると強さを発揮する。その後の京田選手の活躍を見ればなおさらである。
もうひとつは、荒木雅博選手の2000安打がかかった6月3日の楽天イーグルス戦の1回裏。
先頭の京田選手がヒットで出塁した後、記録まで残り1本となった荒木が打席に入る。
ここは送りバントが定石だが、ベンチは荒木選手にバントではなくそのまま打たせたのだ。少しでも早く記録達成を期待する気持ちは誰もが同じ。
しかし野球はチームが勝たなければならない。
ここは迷いなく、送りバントでいくべきだった。
"個"にこだわっていては"チーム"は勝てない。
2007年日本シリーズでは、完全試合目前の山井大介投手を岩瀬投手に交代させた采配があった。
森監督はシーズン前に宣言したように各コーチを信じて、ベンチ全体でゲームに臨んでいる。
おそらく、監督というよりベンチ全体の判断なのだろうが、私だけでなく竜党仲間からも「あそこは送りバントだった」と同じ意見が届いた。

2017年ペナントレースも残り試合が3割を切った。
暑い夏にもやがて秋風が吹く。こうしてドラゴンズの戦いに好き勝手なことを言えるのもファンの特権である。
そしてその特権を存分に活かすためにも、球場に足を運んだり、テレビやラジオの中継で応援したり、とにかく"おらがドラゴンズ"の戦いを見ていてほしい。
愛してほしい。
それがチームを強くするために、ファンが歩む最も近道だと思う。          
【東西南論説風(4)  by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】