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メジャーリーグでのプレイ経験もある中日ドラゴンズOBでプロ野球解説者の川上憲伸さんが、こんな話をしてくれた。
「アメリカの野球場はまったく野球を知らない人が半分いても楽しむことができる」と・・・。
2017年プロ野球ペナントレース公式戦が終わった。
ドラゴンズの本拠地ナゴヤドームの観客数は、NPBの資料から算出すると全69試合で197万4724人。
2年連続で200万人を割った。
今から21年前にオープンしたナゴヤドームは、最初の年である1997年(平成9年)には全64試合で252万人がつめかけた。
これを最多としてその後は年によって数にばらつきはあるものの全体としては減少し、今季は1試合の平均観客数が2万8619人とナゴヤドーム開場以来、最も少ない数字となった。
ドーム初年度から1万人余りも少なくなっている。
7月には3試合で2万人を割り、その内の1試合が人気の讀賣ジャイアンツ戦だったことには衝撃が走った。
ドラゴンズは今年で5年連続Bクラスと低迷しているが、この5年間200万人を超えたのは2015年の一度だけとあって、チーム成績はもちろん影響している。
しかし、落合博満監督に率いられた2004年(平成16年)からの8年間、4度のリーグ優勝を成し遂げAクラスからも一度も落ちなかったいわゆる"黄金時代"でも観客数は飛躍的に伸びなかったのだから、一概にチーム成績だけが理由とも言えないのだろう。
思い起こすのは、2009年(平成21年)、かつての広島球場が「Mazda Zoon-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)」として生まれ変わった今から8年前のことである。
パーティデッキには「焼き肉テラス」が作られ、バーベキューを楽しみながらゲームを観戦できる趣向なのだが、長年のプロ野球ファンである私は「神聖なプロ野球の試合を焼き肉バーベキューしながら見るなんて・・・」とかなり冷めた思いであった。
しかし、今日のカープ人気そしてマツダスタジアムの大入り満員を目の当たりにするにつけて、自分の考えは時代の流れから見れば古かったのだと思っている。
このように、メジャーだけでなく日本におけるプロ野球の球場は大きく変貌している。
ソフトバンクやDeNAも本拠地球場を買収して観客サービスに乗り出した。
東北楽天イーグルスの「koboパーク宮城」は広島と同じバーベキュー施設に加え、観覧車まで併設している。
まるで遊園地だ。
日本ハムは新球場計画を進め、そこでは商業施設や飲食街などを設けて野球観戦以外にもファンに楽しんでもらう「ボールパーク構想」を持っている。
こうした動きは、川上憲伸さんが語ってくれたメジャーの球場とマッチしている。
「野球を知らない人が半分いても楽しむことができる」のだ。
ナゴヤドームも2017年シーズンに"セ・リーグ本拠地球場では最大のスケール"を売り物にした巨大ビジョンを新設した。
横幅が106メートルのため「106ビジョン」と名づけられたスクリーンは、3つの画面を駆使して今季の観戦を楽しませてくれた。
人工芝をより濃い緑色に張り替えたり、カラフルな演出ができるようアリーナ照明をLED化したりする来季への改修計画もつい先日発表された。
しかし、「106ビジョン」もあまり大きな話題になったとは言えない。
映像の質量が明らかに画面の大きさに負けていた。
フルハイビジョンであるこのスクリーンで上映される映像を観るためだけでも入場料を払いたくなる・・・ここまで突き抜ける発想はなかったのだろうか。
一方で、観客動員はドーム施設側だけの責任ではない。
球団と選手たちにもかかっている。
グラウンドでのエキサイティングなプレイは理屈なしにファンの心に刺さり、ファンを球場に招く。
そしてプレイと同時に、グラウンド外におけるファンへのアピールも大切だ。
名古屋市営地下鉄の駅からナゴヤドームにつながるコンコースの壁には、毎年、すべての選手の大きな写真パネルが飾られる。
先年『愛しのドラゴンズ!ファンとして歩んだ半世紀』という本を出版する機会に恵まれ、その中で「なぜ選手一人一人が自分のパネルにサインをして、ファンへのメッセージを書かないのか」と訴えたところ、球団トップの"鶴の一声"によって、2016年シーズンは各選手のサインが書き込まれた。
ひとりのファンとしては光栄な驚きだったが、今シーズンになりパネル写真が新しく貼り返られるとサインは姿を消した。
時のトップから言われたからやった・・・ではあまりに寂しいことであり、選手それぞれが自主的に動いてもしかるべきことだと思った。
ヒーローインタビューでは毎回どの選手も必ず「応援に来て下さい!」と呼びかけているのだから。ファンにとって選手からのアプローチは心から嬉しいものなのだ。
そして、施設側、選手側と共に、何よりこのファンの力も欠かせない。
現役時代の落合博満さんがこんなことを言っていた・・・「オレは日本に12しかない会社に選ばれた社員だ」と。
だからこそ強いプライドを持って仕事しているという意味だったのだが、この12しかない会社、すなわち12のプロ野球チームがある都市は国内でも限られている。
ちなみにサッカーのJリーグは、J1からJ3まで合わせて54もの沢山の球団があるから、プロ野球のチーム数12は希少価値だと言えよう。
それだけにプロ野球のチームを持つ地元は、熱い思いを持って応援したい。
その声援が選手のエキサイティングなプレイを呼び、野球場が"最高に楽しいボールパーク"になると信じて・・・。
【東西南北論説風(14) by CBCテレビ論説室長・北辻利寿】