誰にでも忘れられない料理がある…『ロストグルメ』今は亡き父の作ってくれた料理「ポークチャップ」

「誰にでも忘れられない料理がある・・ロストグルメ」として、コンサルティング会社社長の智次さんに、今は亡きお父様の作ってくれた料理についてお父様の思い出と共に語っていただきました。

京都人の厳格な父が、これだけは自ら作ってくれた洋食~ポークチャップ

京都生まれ京都育ち 昭和一桁の厳格な父 基本毎晩の晩酌は欠かさず、酒のアテも数品ないと許さない。食事の始まりは家族揃って 食事の終わりも父が飲み終わるまで席を立てない。そんな夕食風景の真ん中に鎮座する父。でも1年に数回そんな父が台所に自ら立つことがありました。その時出てきたメニューが「ポークチャップ」でした。

京都人は肉と言ったら牛肉のこと

ちょっと乱暴な言い方でしたが我家ではそういうルールでした。ステーキもすき焼きもしゃぶしゃぶも肉じゃがもカツもコロッケもハンバーグも牛肉で。豚肉はお好み焼き屋さんとんかつ屋さんにわざわざ選んで食べに行くときにに食べるもの〜と育ちました。なので 我家では豚肉メインの料理はほとんどない。そんな我家で唯一という豚肉メインの料理が「ポークチャップ」。
ケチャップの甘いソースに絡んだ豚の厚切りに缶詰のパイナップルが載っている料理は、子どもの頃の大好物でした。そして不思議なことに父が作っている・・・その違和感と合わせて子どもの頃強烈な印象に残っています。「ポークチャップ」はレストランで探しても見つからない我家だけのメニュー。子どもの頃そう思い込んでました。

ポークチャップとポークチョップ

大人になってお店で「ポークチョップ」という料理を見つけて頼んでみたことがあります、頼んで出てきたのは骨付き豚肉のソテーでした。ケチャップもなければパイナップルもない。「これ何」と思わず店員に聞くと「ポークチョップ」ですと。
私の知っている「ポークチャップ」ではありませんでした。なのであの「ポークチャップ」はどうして我が家のメニューなのか母に聞いてみました。そのときはもう父は他界した後だったので本人には聞けませんでしたから。そこでなんとなくは聞いていた父の歴史の一部が「ポークチャップ」に繋がっていることがわかり、もう食べられない父の「ポークチャップ」の理由を知りました。今回インタビューをいただきそれを思い出しました。

海軍特別少年兵に志願したのがきっかけ

私が子どもの頃に聞いた父の話によると、近所でも悪ガキの大将だったらしい父は、当たり前のように中学生の頃 海軍特別少年兵に志願したとのことです。少年だった父が配属されたのは輸送船の調理場。本人曰く「食いっぱぐれがないから希望した」とのこと。はじめに配属された輸送船は潜水艦の魚雷で沈んだらしく、板切れにつかまってたら運よく翌朝救助されたと言ってました。広島の呉から出兵して同じ期の中で唯一の生き残りだったようです。終戦は海の上で迎え、そのまま商船会社に就職し、外国航路の貨物船に勤務したそうです。なぜだか料理人ということで就職したようで、そのあたりでいろいろな料理の作り方を覚えたのでしょうね。
数年働いたのち、勤務する船上で起きたボイラー事故で身体の何割にも及ぶ火傷を負い退職します。父の身体にはその跡が全身にくっきり残っていました。火傷の引きつれで片方の足が3センチほど短くて、その事故の凄まじさが想像できました。

父との思い出を繋いだ「ポークチャップ」

退職した後の父は、色々な職についたようです。手品師、俳優、・・・料理人もしたのかもしれません。子どもの頃そんな話を聞くのは面白かったのですが 思春期になると「ホンマちゃうんやろ」って思うようになり 厳格であるがゆえに私と父との距離はとても空いたものになりました。父が経営する会社もとても厳しい時期だったようで、だんだん父が台所に立つ姿はみられなくなり、それに合わせて私と父との会話もほぼなくなりました。その頃には「ポークチャップ」は母が作るようになっていました。
後年母に「ポークチャップ」は母が作れるのになぜ父が作っていたのかを?聞くと、「結婚した当初、和食しか作れないんで あれやこれや自分で作って教えてくれた」らしく でも結局自分が作った方が美味いと思った料理だけはそのまま父が作っていたとのことでした。

長年ケチャップ炒めだと思って記憶を頼りに自分で作ってみてもあの味が再現できなかったのですが、今回のインタビューを受ける前に「ポークチャップ」の作り方を調べていたらケチャップで煮るのが本当の「ポークチャップ」なんですね。理由が分かりました。
自ら戦争に行った父 そこから商船で世界中を旅した父 料理人の父、父の歴史が「ポークチャップ」に行きついていると思い、もう少し話をする時間を持つことができたらなぁと、そして 「ポークチャップ」の作り方を自分にも教えて欲しかったと思うきっかけになりました。

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