BACKSTAGE(バックステージ) ”挑戦”に秘められたこだわりと仕事愛
CBCテレビ製作/TBS系全国28局ネット
毎週日曜よる11時30分
ARCHIVE
今回は、傷ついた床や壊れた食器・美術品などを元どおりの姿に蘇らせる「修復士」の仕事に密着。これまでに1000件以上の修復を手掛けてきた職人歴7年の杉山裕さんの仕事ぶりに迫る。はたして、驚きの技術と仕事に対する想いとは…?
<依頼品は、大切なお母さんの形見>
杉山さんの職場は、東京・祖師谷の修復専門会社「M&I」。社員数6名の小さな会社ながら、年間依頼数は、約1800件。家具や美術品、陶器など、さまざまな物の修復を手がけている。新たな依頼品は、ハンガリーの老舗高級食器ブランド「Herend」のお皿。依頼者のお母さんが愛用していた形見の品で、美しい模様は全て職人による手描き。修復の難易度はかなり高い。
<修復までの険しい道のり>
割れたお皿を復元するため、まずは残された5つの破片の場所を特定する。続いて、それらをくっつける作業。接着剤をつける前に何度もリハーサルを行う杉山さん。つなぎ目にズレが生じると、後々の作業に影響するため、手に感覚を覚えさせてから瞬間接着剤で接着する。形は元に戻ったが、大きなヒビ跡が残っている状態だ。今度はヒビ跡の修復。ヒビの隙間に合成樹脂を埋め込み、余分な樹脂をサンドペーパーで削る。さらに、わずかな凹凸をなくすため、コーティング剤を全体に吹き付けて高さを均一に。細やかな作業を重ねて、お皿が少しずつ元の姿を取り戻していく。
<依頼者の“心の傷”も補修する修復士の仕事>
陶器だけにとどまらず、さまざまな仕事をこなす杉山さん。出張修理で家具や床の傷なども修復する。見事な仕上がりから、お客さんから感謝されることも多い。しかし、物が壊れたり、傷ついたりした現場へ行くと、はじめは怒りの矛先が修復士に向かうこともある。そんなときに杉山さんが心がけているのが、まずはお客さんの怒りを受け止め、時に共感すること。そして、完璧な修復によって傷ついた心を癒す。それを杉山さんは“心の補修”と呼んでいる。
<修復士になった理由…「好きなこと」ではなく「得意なこと」を>
元々、プロのミュージシャンを目指していた杉山さん。26歳の時、ミュージシャン仲間として知り合った現在の会社の社長に誘われ、補修のアルバイトをはじめることに。
「色々葛藤があって、“好きなこと”と“得意なこと”を分けようと思った」
音楽は好きなこととして置いておき、得意な修復で生計を立てることを決心。それから7年、現在は主に美術品と陶器の修復を専門に手がけている。
<元通りに復元!>
いよいよお皿の塗装作業。まずは、裏面。一見すると白色だが、白い塗料に青や赤をわずかに混ぜ合わせ正確な色を作る。エアブラシを使って塗装をしていくと、ヒビ跡が少しずつ見えなくなってきた。そして、一番の難関は表面の塗装。デザインが複雑で色数も多い。集中力が求められる作業だ。塗装が必要のない部分をテープで覆い、1センチもないわずかな隙間をエアブラシで的確に塗っていく。ひとつ終われば、次の割れ目を塗装。細かい作業が続く。そして、修復から約1か月。ついに修復作業が完了した。お皿は見事元どおりの姿に。破片のつなぎ目も全く分からない。大切な形見の品を受け取った依頼者は、その仕上がりに大満足の様子。依頼者の笑顔を見て、杉山さんも嬉しそうだ。これからも得意をいかして、依頼者の大切な品を魔法のように蘇らせていく。