BACKSTAGE(バックステージ) ”挑戦”に秘められたこだわりと仕事愛
CBCテレビ製作/TBS系全国28局ネット
毎週日曜よる11時30分
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毎日の生活に欠かせない買い物。しかし近年、さまざまな事情で買い物が困難な人が増えている。その数、825万人。そんな人たちの救世主として注目を集めているのが、移動スーパー「とくし丸」。買い物に行くのが難しい人たちの家を一軒一軒まわる対面販売スタイルで、全国各地で支持を獲得。現在約400台の車が活躍している。今回密着するのは、とくし丸の中で全国売り上げ1位を誇るカリスマ販売員・谷平典敬さん。担当するのは、高知県高知市内。いくつかスーパーはあるものの、車を運転できない高齢者も多く“買い物困難者”が多数いるのだ。
スーパーマーケット「サニーマート高須店」。谷平さんの1日は、仕入れからはじまる。とくし丸は、地元のスーパーと提携しており、仕入れる商品は、すべて車のオーナーの裁量。この朝の商品選びが、売り上げに大きく関わってくるという。
「ご年配の方は、あまりたくさんは食べられないから、本当にいいものをだけをちょっと食べる」
食品は、“小さめサイズ”を選ぶのが、販売テクニックの1つ。少量パックの国産牛や、1/4にカットされた野菜を手に取る谷平さん。さらに、硬さの違うアボカドをいくつか選んでカゴの中へ。その理由は、
「今日食べたい人と明日食べたい人、もう少し置いておきたい人がいるから」
細やかな心配りで、次々と商品を選んでいく。そして、お客さんから直接かかってくる注文の電話にも対応。お客さんの味の好みまですべて把握しているため、種類が豊富な商品でも迷うことはない。お客さんのことを知っているからこそ、欲しいものを予想して仕入れることができるのだ。
続いて、仕入れた商品を軽トラックへ。2時間半かけて、積み込み作業が完了。400種類、1200点の商品が揃った。なかには、お客さんの急な入り用に備えて、冠婚葬祭用品も取り揃えられている。ここからさらに、商品の並び替え。お客さんの好みに合わせて陳列を変えていく。一軒目のお客さんが好きなブリとアサリを手前に陳列して、準備完了。いよいよ出発だ。
一軒目は、夫婦2人暮らしのお宅。ご主人が高齢のため、車の運転が危うくなり、買い物に行けなくなったという。陳列棚から次々と商品をカゴに入れていくお客さん。先ほど谷平さんが並び替えたアサリも見事に売れた。販売を終えて谷平さんは、次のお客さんのために、商品の並び替えを再び行う。
「1箇所目のように見せてあげたい」
そこには、好み商品を手前に置くだけでなく、思いやりの気持ちが込められている。その後も、次々とお客さんのもとへ。この日まわるのは、30軒。軽トラック一台ですべてのお客さんの細かなニーズに対応していく。買ってくれた荷物が重い時は、玄関先まで荷物を運ぶなど、大忙しの谷平さん。行く先々で、お客さんとの会話も弾む。
続いて谷平さんが訪れたのは、ホームセンター。ネズミ駆除の商品を探して購入。これは、売るための商品ではなく、お客さんに頼まれたもの。
「わざわざ買いに行くためには、タクシーに乗らなきゃいけない。出来ることは、やってあげたい」
買い物の代行まで行い、販売員の枠を超えてお客さんに寄り添う谷平さん。そこには、これまでの人生経験が大きく関係している。谷平さんは、28歳の時シングルファザーに。2人の子どもの子育てを男手一つで行ってきた。その後、お子さんたちが自立したのをきっかけに、4年前とくし丸へ転職。人との“つながり”を求めて、この仕事を選んだ。
「子育ても本当にようやく終わって、ホッとしたと同時に寂しくもなって。だから、こういう人とのふれあいは、すごく嬉しいですね」
この仕事をはじめて以来、お客さんの誕生日などに必ずプレゼントを贈っているという谷平さん。カレンダーには、たくさんの人の誕生日がビッシリと書かれている。夕方6時。営業終了。仕入れた商品をたくさんのお客さんに購入してもらえた。谷平さんの1日の平均売上は、15万円ほど。多いときは、約60万円になることもあるという。
谷平さんは、最近新たな営業先を増やした。それが、この日訪れた介護老人保健施設「夢の里」。3食の食事がついている施設なので、食料品の売り上げはほとんど見込めない。それにも関わらず、ここを訪れるのは、お客さんに“買い物の楽しさ”を届けるため。そして、ここには谷平さんが特に会いたい人もいる。それが、開業当初からのお客さんで、谷平さんととても仲が良かった澄恵さん。去年体調を壊して入所したため、買い物ができなくなっていた。澄恵さんは、1年ぶりの買い物を楽しむことができた。
「ただの販売員にはなりたくない。商品を持って運ぶ以外のことをもっとしてあげたい」
そう語る谷平さん。これからも軽トラ1台に買い物の楽しさをいっぱい積み込んで、お客さんの家をまわっていく。